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第四十四話 黒の鳴動

 ある日の夜。


 騎士団との直接的な戦いは、まだ起きていない。


 腐敗した上層部をどう暴くのか。

 それすら、まだ決まっていない。


 アケミはいつものように飄々としているし、イベルタは難しい顔で何かを考えている。


 俺はと言えば、暇だった。


 アジトの外の石段に腰を下ろすと、隣にコルディがいた。


 星を見上げながら、ぼんやりしている。

 しばらく黙っていたが、ふと聞いてみた。


「なぁ」


 コルディがちらっとこちらを見る。


「俺たちは、お前の父親のエタルドと、兄のアルベルトを殺した」


 少し間を置く。


「……そこのところ、どう思ってんだ?」


 コルディは一瞬きょとんとした。

 そして、吹き出した。


「何が俺()()よ」


 肩を揺らして笑う。


「あんたはオヤジにやられて伸びてただけじゃん」


「うっ……」


 痛いところを突かれた。


「二人を殺したのはアケミ。あんた関係ないでしょ」


「なっ……」


 言葉に詰まる。


「……まあ、そうだけどよ」


 コルディはしばらく笑っていたが、やがて表情を戻した。空を見上げたまま、小さく言う。


「仕方ないよ」


「仕方ない?」


「お互い、譲れないものがあったんでしょ」


 静かな声だった。

 俺は眉をひそめる。


「お前の親でも……か?」


 コルディは少しだけ黙った。

 そして、苦笑する。


「……わかんない」


 正直な答えだった。


「わかんないけどさ」


 少しだけ、夜風が吹く。


「アケミを恨んではないよ」


 その時だった。

 遠くから、叫び声が聞こえた。


「魔物だ!!」


 ざわめきが広がる。


「街の外にヤバい奴がいる!!」


 人の気配が一気に騒がしくなる。

 俺は立ち上がった。


「なんだ?」


 コルディも立ち上がる。


 通りの方を見ると、冒険者や商人たちが慌てて走っている。騎士団も動き出しているようだ。


 俺はコルディに聞く。


「なぁ、街はアマス神の加護で安全地帯なんだろ?」


 この世界に来て、何度も聞いた話だ。

 神の加護。魔物は入れない。


「何を焦ってんだ?」


 コルディがこちらを見る。


 その顔は、真顔だった。

 こいつが真顔になるってことは、絶対ろくでもない事だ。


「アマス神の加護はね」


 低い声で言う。


「完成した魔物は通さない」


「完成した?」


 嫌な言い方だ。コルディは続ける。


「でも」


 一瞬、間を置く。


「元人間の魔物は通れる」


 俺は目を見開いた。


「……元人間?」


 そんなものがあるのか。


「人間が魔物になるのか?」


 コルディは小さく頷いた。


「なるよ」


 そして、通りの向こうを見つめる。


「しかも」


 低く呟いた。


「大抵、そういう奴ほど――」


 その時。遠くで、地面が揺れた。

 誰かが叫ぶ。


「来るぞ!!」


 コルディが小さく呟いた。


「……最悪のやつだ」


 夜のざわめきは、瞬く間に街を覆った。


 叫び声。

 駆ける足音。

 騎士団の号令。


 俺たちは、流れに押されるようにエーテルディアの門へ向かった。


 遠くからでも分かる。


 門の前には、整然と並ぶ鎧の列。


 騎士団だ。その先頭に立っているのは、金髪を後ろで束ねた男。


 ライネルだった。


 俺たちに気づくと、騎士たちの間に一瞬、緊張が走る。


 当然だ。討伐対象が、のこのこ現れたんだからな。

 だがアケミは構わず歩いていく。


「アケミ殿。それにイベルタ達」


 ライネルの声は静かだった。

 敵を見る目ではない。状況を見極める目だ。

 アケミは肩を竦める。


「この街のためだ」


 軽く笑う。


「一時共闘だよ」


 騎士たちがざわめいた。

 だがライネルはほんの一瞬考え、頷いた。


「……恩にきる」


 その時だった。


「揃ってるねぇ」


 聞き慣れた声。門の壁にもたれ、腕を組んでいる男。ロキだ。


 情報屋は俺たちを見て、苦笑した。


「タイミングが悪いね」


 そして声を張る。


「気をつけてくれ」


 その目は、いつもの軽さがなかった。


「奴はケンジ」


 一拍置く。


「魔族に落ちた転生者だ!!」


 空気が凍った。


 転生者。


 その言葉に、俺の背中を冷たいものが走る。


 門の外。


 暗闇の中に、一人の男が立っていた。


 黒い衣。角。


 そして、妙に人間くさい顔。

 ケンジは、ゆっくりと笑った。


「へぇ」


 面白そうに俺を見る。


「お前か」


 一歩前に出る。


「噂の転生者」


 値踏みするような視線。

 そして、鼻で笑う。


「……見るからに雑魚だな」


 騎士たちがざわめく。

 だがケンジは気にしない。

 俺を指さした。


「お前も自殺だろ」


 その言葉に、胸の奥がざわついた。


「それがどうした……!?」


 思わず叫ぶ。

 ケンジは楽しそうに笑った。


「魔王によるとな」


 軽く肩を回す。


「転生者は、死因に応じた能力を得るらしい」


 騎士たちが剣を構える。

 だがケンジは構わない。

 俺を見たまま続ける。


「だが――」


 手を上げる。

 ゆっくりと、掌を前に向ける。


「自殺は無能力なんだとよ」


 その瞬間、騎士団が一斉に突撃した。


「突撃!!」


 鎧の波が押し寄せる。

 だがケンジは動かない。


 ただ、手のひらを向けた。

 次の瞬間、何かが暴れ出た。


 空気が歪む。

 音が消える。


 そして、黒い何かが膨れ上がった。

 それは、音だったのか。

 衝撃だったのか。

 あるいは世界そのものだったのか。


 ケンジが呟く。



「黒の鳴動(めいどう)



 何が起こったのか、分からなかった。

 ただ一瞬。本当に、一瞬だった。


 気づいた時。


 ケンジが手のひらを向けていた方向は、

 街ごとそのまま、なくなっていた。

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