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第四十話 完全決着、これがアタシの戦い方

 アタシの名前はアケミ。


 槍の間合いは、三歩。


 踏み込めば死ぬ。

 退けば削られる。

 だから、潜る。


 エタルドの突きが風を裂く。

 石畳が抉れ、破片が舞う。


「遅いよ」


 槍の穂先の下へ滑り込む。


 蹴り。だが浅い。


 こいつ、体幹が異常だ。


 すぐに柄で殴り返してくる。

 短剣で受けるが、衝撃が腕を痺れさせる。


 重い。


 さすが名持ち騎士。


「変則か……面白い」


 戸惑ってるねぇ。

 でも、一流だ。


 アタシの間合いに慣れられたら終わり。


 だから削る。

 細かく、速く、連続で。


 蹴り。

 肘。

 短剣の逆手突き。


 血が滲む。

 だが、次の瞬間。


 槍の柄がアタシの太腿を打ち抜いた。


 鈍い音。


 遅れた。いや、違う。読まれた。

 エタルドの目が変わっている。


「三手先で足を出す癖があるな」


 クソッ。


 槍が横薙ぎに払われる。

 回避が間に合わず、腹を掠める。


 熱い。血が出てる。

 呼吸が浅くなる。


 距離を取る。


 エタルドは構えを崩さない。


「貴様の型は見切った」


 そう来るか。

 いいよ、ここからが本番だ。


 アタシは短剣を逆手から順手に持ち替えた。


 構えを変える。

 足運びも、重心を落とす。


「型を変えたか。悪足掻きだな」


 アタシは突っ込む。

 真正面から、槍の射程内へ。


 エタルドの目が鋭くなる。


 完璧な突き。

 避けずに、踏み込む。

 穂先が肩を貫き、視界が白くなる。


 だが、その瞬間。

 アタシは槍の柄を掴んだ。


 引き寄せ、間合いを潰す。


 エタルドの目が見開かれる。


「な……」


 蹴り。膝。


 全体重をのせた短剣。

 真正面から、胸へ。

 聖黒龍の牙で作られた、アタシの得物は鎧など当たり前に貫通する。


 全力の正面突破。


 血が噴き、エタルドの槍が落ちる。


「貴様……」


 アタシは息を荒げながら笑った。


「博打ってのはねぇ」


 血が肩から滴る。


「不利な時ほど、全部賭けるもんだろ?」


 エタルドが崩れ落ちる。

 観衆の息が止まっている。


 アタシは槍を引き抜く。

 肩が焼けるように痛む。

 でも、立つ。立ち続ける。


 これが、アタシの戦い方だ。


 イベルタとアリシアの方を見た。

 お互い血だらけ、なんつー姉妹喧嘩だ。


 アリシアがコチラを一瞥すると、悔しそうに叫んだ。


「全軍、撤退!!」


 これ以上の犠牲は不毛だと判断したのだろう。

 あの若さで、最適解だ。


 アタシも叫ぶ。


「情報屋!医者まで運ぶの、手伝いな!」


「……専門外ですよ」


「倍額払う」


 ロキはやれやれと言うジェスチャーをすると、ギャンに肩を貸した。


「仕方ないですね」


 アタシも歩くことすらキツイ。

 その時、誰かがアタシを担いだ。


「アンタに死なれちゃ、仕事が無くなる」


「ドナルド……悪いね」


 コルディも立ち上がると、イベルタに肩を貸した。とはいえコルディもそれなりに怪我をしている


「イベルタ姉ちゃん、さっきは……ありがとう」


「ううん、ごめんね。爆発、痛かったでしょ」


 アタシ達はそのまま、下層区の闇医者に向かった。


 下層区は、夜になると別の顔を見せる。


 血の匂いも、火薬の焦げも、この街じゃ珍しくない。だが今日のそれは濃すぎた。


 闇医者の診療所は、路地の奥、崩れかけた石壁の地下。ロキが扉を三度、間を空けて叩く。


 中から錆びた声。


「……死体なら帰れ」


「生きてますよ。たぶん」


 扉が開く。白髪混じりの老人が、アタシ達を一瞥した瞬間、舌打ちした。


「派手にやったな」


「仕事だからねぇ」


 地下室に運び込まれる。灯りはランプひとつ。薬品と血の混ざった匂い。


 まずはギャン。ロキが静かに横たえ、医者が胸に耳を当てる。


「……貫通はしてない。肋骨ヒビ。内出血多めだが、運がいい」


「運だけで生きてる男ですから」


 ロキが淡々と返す。


 アタシは壁にもたれ、肩の傷を押さえる。

 血は止まりかけているが、槍の穴は深い。

 医者が近づいてくる。


「お前は縫う」


「麻酔は?」


「あるわけない」


「だろうね」


 歯を食いしばる。針が肉を貫くたび、視界が揺れる。


 イベルタはコルディに支えられながら座っている。


「ひどい有様だな……」


 医者が軟膏を塗る。

 イベルタは小さく笑った。


「満身創痍の妹相手に、ほとんど何もできませんでした」


 アタシは鼻で笑う。


「上出来だよ。よく生き残った」


 ロキが口を開く。


「騎士団は一時撤収。ですが……」


 空気が変わる。


「騎士長エタルド戦死。この事実は、必ず波紋になります」


 当然だ、あいつはただの兵じゃない。()だ。


 アタシはゆっくり息を吐く。


「上層は本気で来るねぇ」


「ええ。粛清名目で、下層区を焼く可能性もある」


 イベルタが恐る恐る言う。


「いくらなんでも、そんなこと……!」


「するさ」


 アタシは即答した。


「秩序ってのはね、見せしめで保つもんだ」


 沈黙。ランプの火が揺れる。

 その時、ギャンが小さく咳き込んだ。全員が振り向く。


「……うるせぇな」


 かすれた声。

 ロキがわずかに目を細める。


「お目覚めですか」


 ギャンは天井を見たまま笑った。


「勝ったか?」


 アタシは肩を押さえながら近づく。


「ギリギリね。アンタにしちゃ、よく耐えたよ」


「そうか……」


 ゆっくり首を傾け、こちらを見る。


「なら、革命はまだ続くな」


 ああ。終わらない、ここからだ。

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