第三十八話 中央広場の死闘、1:99の賭け
僕はロキ。
この革命戦争、僕はアケミさんのおかげでかなり儲けさせてもらった。
そして、やっぱり面白い事になった。
中央広場はもう処刑場じゃない。
完全に戦場だ。
悲鳴。
血。
焼けた石の匂い。
でも僕は安全圏。
人混みに紛れて観戦だ。
イベルタも恐ろしく強い。嵐龍の牙を振るうたびに騎士が吹き飛ぶ。
元々化け物じみた才能はあった。だけど、ギャンブル依存で装備にお金をかけなかった。いや、手に入れた武器すら、賭博資金のために売っていた。
だからいま、アケミさんから借りると言う形で、相応の武器を手にして、本来の実力になった。
それでもやっぱり、格が違うのはアケミさんだ。
騎士達を薙ぎ倒し、ついにアルベルトの眼前へ。
「くそババア!」
アルベルトが短剣を振り下ろす。
焦り。
怒り。
恐怖。
全部が混ざった一撃。
アケミさんは、半歩だけずれた。
空振り。
次の瞬間、カウンターの一閃。
短剣を持っていたアルベルトの右腕が、宙を舞う。
血飛沫が弧を描く。
「ぎゃあああぁぁあ!!」
「うるさい」
冷たい声。
アケミさんは苦しむアルベルトの顔面を、拳で殴りつけた。
骨の砕ける音。
「う…うぁ……」
地面に転がりながら、アルベルトが顔を上げる。
その視界に映るのは、地獄の鬼。
本気で怒ってる。
「ゆ、許してください!」
とっさの命乞い。さっきまでの騎士様はどこへやら。
「アンタ、ゲイン達を殺したんだよな」
静かな確認。
「お、俺1人じゃない!コルディもやった!!」
……ああ。最悪の答えだ。
「おかしいねぇ」
アケミさんの声が、さらに低くなる。
「下層区の住民の話じゃ、女の子は退屈そうにあくびをしていただけ、らしいけど」
僕が流した情報だ。見聞きした物ではなく、僕自身がこの目で見た真実。
アルベルトの顔に、はっきりと焦りが浮かぶ。
「う、嘘だ!」
失礼なやつだな、僕の情報を嘘扱いとは。
アケミさんは、一瞬も迷わなかった。
短剣が閃く。アルベルトの喉が裂ける。
だが、深くない。
致命傷じゃない。
血が溢れ、泡立つ呼吸。
「嘘ばかりつくやつは、しゃべる必要ないだろ」
アルベルトは、首と、切断された右肩から出血している。
止まらない。
止めてもらえない。
騎士団の誰も助けに来ない。来られない。
アケミさんが立っている限り。
僕は思わず笑ってしまった。
ああ、終わったな。
アルベルト=ローキンス。
名家の血。誇り高き騎士候補。
その最期は、広場の石畳に転がるただの肉塊。
でも、まだ死んでない。
アケミさんは、わざと生かしてる。
見せしめだ。上層区への宣戦布告。
一方、ギャンはかなり削られている。
肩で息をし、膝がわずかに震えている。
剣を握る手も、もう余裕はない。
一方――エタルドは当然無傷。
鎧に傷一つない。
呼吸も乱れていない。
まるで稽古でもしているかのような冷静さ。
このあとアケミさんが加勢にでも入らなきゃ、ギャンは死亡確定だ。
感情論じゃない。
純粋な戦力差。
そしてもう一つの戦場。
イベルタとアリシア。
嵐龍の牙を握る姉と、利き手を潰されながらも立つ妹。
「優秀な騎士達を無傷で完封ですか、少しは腕を上げましたね、姉さん」
アリシアの声は静かだ。
血を流しながらも、表情は変わらない。
あれがローキンス家の本質。
痛みも恐怖も、外に出さない。
アリシアはローキンス家で三番目に強い。
王都にいる党首と、その長兄。
殲鬼 シュレイド=ローキンス
神殺し クラウド=ローキンス
二つ名を持つその2人には及ばないが、少なくともエタルドは超えている。
とはいえ今は利き手を潰されている。
騎士を前に出して時間を稼ぎ、その間に脳震盪も回復したらしい。
立ち姿が安定している。
焦点も合っている。
一方のイベルタは実力発揮。
実力に見合った武器。
おそらく、今日のイベルタは過去最高。
だが相手は満身創痍とはいえアリシア。
勝率は、6:4でアリシア。
怪我があっても覆るほどの差はない。
技量と戦闘IQでまだ上をいく。
そして中央。
ギャン対エタルド。
あれは勝率1:99。
いや、もっと低い。
あの実力差で、よく耐えていると言っていい。
この戦いの勝敗の行方は、僕でもまだわからない。
革命が完成するか、ここで潰えるか。
少なくとも一つだけ確かなのは、今日この広場で、エーテルディアの秩序は壊れ始めている。
そして僕は、その最前列で観戦している。
ああ、やっぱり。
面白い。




