第三十五話 不幸な美少女? いいえ、優秀で強くて可愛い私、投獄中
私の名前はコルディ。
異界の賭博師を逃した罪で、現在投獄中の、不幸な美少女……いいえ、優秀で強くて可愛い美少女である。
不当。
極めて不当。
私は強い。アリシアちゃんほどじゃないけど、少なくともイベルタ姉ちゃんやアルベルト兄さんよりは強いし、優秀だ。
あと、イベルタ姉ちゃんよりずっと可愛い。
ここ重要。
石壁に背を預け、鉄格子越しに通路を見る。
じめっとした空気。
かび臭い毛布。
粗末なスープ。
劣悪。
実に劣悪。
だが。
「また貴族様が屋敷売ったらしいぜ」
「騎士団の副隊長も飛んだとか」
囚人同士の噂。
看守の独り言。
私レベルになるとね、独りごつも拾える。
情報は、音の隙間に落ちている。
何やら外では、面白いことが起きているらしい。
スリーセブンスのボス・アケミ。
金借りのイベルタ。
そして、その連れの男。
「……あいつだ」
ギャン。あいつらが、貴族や騎士から借金を取り立てて回っているらしい。
くくっ。やっぱり面白い。
あの時、逃がして正解だった。
退屈な秩序を壊してくれる匂いがしてたんだよね。
「上層部、ピリついてるらしいぞ」
「カジノの税収が増えてるのに、財政は苦しいままだと」
なるほど、税で儲けてる。
だけど、追いつかない。
なぜなら、取り立てられた連中は、さらに取り返そうとカジノに投資する。
金が回る。
回りすぎる。
回転速度が、国家の計算を超える。
面白い。
実に面白い。
「あ〜……早く外に出たいなぁ」
私は天井を見上げて伸びをする。
革命の匂いがする。こんな湿っぽい場所で腐っている場合じゃない。
「アンタは重罪人だから、しばらく出れないでしょ」
隣のおばんがうるさい。
丸顔。
貫禄。
人生三周目みたいな目。
てか、ホントに三週目でしょ、絶対。
「脱獄とか考えないことね」
「考えてないよ〜」
本当だよ?今はまだ。
鉄格子の鍵穴をちらっと見る。
看守の巡回間隔は約二十三分。
夜は二十八分。
左から三番目の看守は、歩幅が微妙に一定じゃない。
鍵束の音で分かる。脱獄なんてしない。
今は。
でも、外がそんなに面白いことになってるなら。
ちょっと、出番が欲しいなぁ。
ギャン。アンタ、ちゃんと面白いことしてる?
私を退屈させたら、許さないよ?
石牢の奥で、私はくすりと笑った。




