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第三十四話 前世で取り立てられた俺が、今度は刈り取る側に立つ

 ここまで目立てば、外にはまたエタルド達がいるだろう。


 あの騎士団長の顔が脳裏に浮かぶ。

 包囲。拘束。尋問。

 全て、あり得る。


 それとコルディ。元気にしてるだろうか……。


「心配しなくていいよ」


 まただ。アケミは、俺の思考を読んだかのように肩をすくめた。


「この世界はさ、アタシたちがいたくだらない日本とは違う」


 その言い方に、わずかな棘が混じる。


「ここはね。金と契約が、剣より強い世界」


 カジノスタッフが深々と頭を下げる。


 アケミは、先ほどの莫大な勝利金から、必要経費と獲物への融資原資を除いた全額をカジノ口座へ預けた。


 出金はしない。数字のまま眠らせる。


 なるほどな。出金しなければ、これはただの内部資金。カジノにとっても都合がいい。


 それどころか、さっき契約書にサインした連中は、土地も屋敷も権利も担保にして再び突っ込んでくる。


 カジノは回る。

 アケミは回収する。

 依存者だけが自滅する。


「こちらへどうぞ」


 黒服に案内され、俺たちは奥へ進む。

 一般客は決して足を踏み入れられない区域。


 重厚な扉。

 静かな廊下。

 厚い絨毯が足音を消す。


 そして、部屋の中央に()()()()なものがあった。


 円形の台座。

 淡く揺らめく光。

 空間が歪んでいる。


 ゲームやアニメで何度も見た光景。


「転送ポータル……か」


 思わず呟く。


「あぁ。スーパーVIP専用」


 アケミが当然のように答える。


「転送先はアタシの家」


 家、ね。アジトのことをそう呼ぶのか。


「外は?」


 俺が聞く。


「今頃、騎士どもは正面玄関で張ってるさ」


 アケミはくすりと笑う。


「奴らは出口しか見ない。賭場の本質を知らないからね」


 台座に乗る。

 光が強まる。

 一瞬、浮遊感。

 視界が白に染まる。


 そして――


 湿った空気。

 見慣れた天井。


 アジトだ。

 数秒、本当に数秒だった。


「……便利すぎるだろ」


「金を落とす客は、守られるんだよ」


 イベルタがまだ状況を飲み込めずに周囲を見回している。


 エーテルキングスカジノの外では。きっとエタルド達が、真っ暗になるまで待ちぼうけだ。


 正面玄関を睨みながら。

 俺たちは、もうここにいるというのに。


 この世界は、武力と正義だけで回っているわけじゃない。金と契約と、抜け道。


 アケミはそれを知っている。


 まぁ……傀儡がバレたら終わりなんてもんじゃ済まないだろうが。


 だが、今は完全にこちらが一枚上だった。


 ふと思い出す。


「そういえば、なんで行く時は使わなかったんだ?」


 あれがあるなら、最初から使えばよかったはずだ。


 アケミはソファに腰を下ろし、靴を脱ぎながら答える。


「一通だからね、アレ」


「一通?」


「片道。帰り専用」


 さらりと言う。


「しかも高い。今日の勝ち分くらいするよ」


 ……は?


「買える時点でおかしいだろ」


「買えるのと、簡単に手に入るのは別問題」


 指を立てる。


「カジノと特別契約。身元保証。資産証明。魔術刻印登録。色々あるの」


 つまり。


 金だけじゃない。


 信用と支配の証でもあるわけだ。


「アタシ以外にも、二人ほど持ってるらしいよ。カジノ直通ポータル」


「他にもいるのか」


「いる。化け物がね」


 凄い世界だな。


 剣と魔法の世界だと思っていたが、

 実態は金と契約と抜け道の世界だ。


 俺は、まだ入口に立っただけらしい。


 その後、しばらく俺たちは下層区で日常を過ごした。


 派手な動きはしない。

 カジノにも近づかない。


 アケミは静かに帳簿をつけ、

 イベルタは借金帳と向き合い、

 俺はこの世界の構造を、少しずつ学んだ。


 魔法の事、魔物の事、この大陸の事。

 金が人を縛る仕組み。

 誇りが理性を壊す瞬間。

 依存が判断を狂わせる速度。


 筋トレや剣の稽古もやる。

 アケミに笑われながら、どつき回された。


 騎士どもがたまに彷徨いているが、ここはアケミの庭だ。簡単に見つかるはずもない。


 革命は、焦らない。熟すのを待つ。


 そして、一カ月後。

 俺のレベルは7に上がっていた。


 この日、アジトの空気が変わった。

 机を囲む人数が増えている。


「久しぶりだな」


 無精髭の男が椅子にふんぞり返る。

 ドナルド。取り立て専門家。


「全員、現在位置は把握済みだ」


 淡々と言う男。情報屋のロキ。エーテルディアのことなら全て知っていると言われる男。


「逃げ場は?」


 俺が聞く。


「僕から逃げられると思いますか?」


 即答だった。

 地図が広げられる。

 印が打たれている。


 屋敷。

 別荘。

 愛人宅。

 隠し金庫の倉庫。


 ……完全だ、恐ろしいほどに。

 俺の前世の借金は、一カ月や二カ月払わなくても、せいぜい督促状が届くだけだった。


 赤い封筒。

 電話。

 ため息。


 だが、こいつらは違う。

 一発目から、容赦がない。


「取り立て、行くわよ」


 アケミが立ち上がる。

 その声に、迷いはない。


 これは回収じゃない。

 刈り取りだ。


 依存した者から、

 未来ごと奪う。


 俺は喉を鳴らす。

 これが革命の第二段階。


 血は流れない。


 だが、確実に誰かが終わる。

 そして俺たちは、終わらせる側だ。

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