第二話 宿代稼ぐのに一日中スライムを踏み続けるのは効率が悪いので、仕事を探すことにした
すっかり暗くなった頃、俺はようやく20Gを稼いだ。草原の端で、腰に手を当てて空を見上げる。夕焼けはもう消え、紫がかった夜が降りてきている。
「……やっとか」
スライム。
スライム。
またスライム。
一日中、踏んで、潰して、踏んで、潰して。
効率は最悪だった。
(これ、普通に働いた方が早いだろ……)
異世界に来て一日目で、すでに労働効率を考え始めている自分に苦笑する。
ともあれ、目標は達成だ。宿代20G。これで今日は寝られる。
「さて、町に戻るか」
踵を返した、そのときだった。
――ぞわり。
背中を、冷たい指でなぞられたような感覚。嫌な予感。ギャンブルで何度も味わったやつだ。
俺は反射的に振り返った。
そこには、がいこつが立っていた。
ただの白骨じゃない。
ところどころ欠けた骨。
ボロボロの革鎧。
刃こぼれした剣を、しっかりと握っている。
「……は?」
声が、情けなく裏返った。
見た瞬間、理解した。
こいつは違う。スライムどころじゃない。ゴブリンよりも、確実に強い。
(無理だ)
考えるより先に、体が動いた。
走った。全力で、町に向かって。
背後から、骨が擦れるような音がする。
がいこつも、走ってきている。
「やばいやばいやばい!!」
心臓が喉まで跳ね上がる。草原を駆けながら、頭の中で警報が鳴りっぱなしだ。
(これはスーパーリーチ発展だ、いや何考えてんだ俺は!そんなことより、完全に詰みのパターンだろ!!)
視界の先に、町の門が見える。
灯り。
人影。
たどり着いたら後半発展!……何考えてんだ俺は!
「助けてくれー!!」
ほとんど叫びながら、門をくぐった。直後、門の前に立っていた兵士が、俺に声をかける。
「どうかしましたか?」
「が、がいこつ……!がいこつに追われて……!」
息も絶え絶えに訴える俺に、兵士は笑った。
「それは大変でしたね」
「いや、だから今も俺を――」
振り返る。……いない。
さっきまで、確実に追ってきていたがいこつが、影も形もない。
「は?」
兵士は肩をすくめて言った。
「子供の頃、教わりませんでしたか?」
「……なにを?」
「アマス神の加護ですよ」
兵士は、当たり前のことのように続ける。
「この町には、神の結界が張られています。モンスターは、日没後でも中には入れません」
「……マジで?」
「ええ。ですから、もう大丈夫です」
俺はその場にへたり込み、地面に手をついた。
(結界……セーフティゾーン……)
頭の中で、ゲーム的な単語が勝手に浮かぶ。でも、さっきの恐怖は本物だった。あれは演出でも、イベントでもない。
(負けたら、終わりだった)
兵士は俺を見下ろし、少しだけ真面目な顔になる。
「ですが、見たところあなたはレベルも装備も最低。夜の草原は私たち、訓練された兵士でも危険です。無理な狩りは、おすすめしませんよ」
……無理な勝負は、破滅の始まり。
その言葉が、脳裏に重なった。
俺は立ち上がり、礼もそこそこに町の中へ入る。
(スライム踏み続けるの、効率悪すぎだな)
宿代は稼げた。
でも、今日みたいなのを毎日続けたら、いずれ大当たり……いや、大事故を引く。
(明日は仕事探すか)
異世界でも、結局そこに行き着くらしい。
ギャンブル依存症の俺は、今日も命を賭けずに済んだ。前の世界では、そんな当たり前すら守れなかったのに。
俺は宿屋の、いちばん安い部屋で一夜を明かした。
ベッドは硬い。
毛布は薄い。
天井には、よくわからないシミ。
それでも――
朝、目を覚ましたとき。
体の奥が、妙に軽かった。
「……なんか、強くなった気がする」
気のせいか?
いや、気のせいにしちゃ、やけに実感がある。
腕を握る。
足に力を入れる。
昨日より、ほんの少しだけ、反応がいい。
部屋を出ると、カウンターにいた宿屋の主人が、俺を見てニヤリとした。
「旅人さん、レベルアップしたようだな」
「……レベルアップ?」
思わず聞き返すと、主人は不思議そうな顔をする。
「知らないわけじゃないだろ?モンスターと戦ったり、クエストをこなせば経験値が手に入る。一定の経験値がある状態で、一晩ぐっすり眠ればレベルアップだ」
さらっと、とんでもないことを言う。
「野宿はダメだぞ、成長が定着しない。宿で寝る。これ、一般常識だ」
「……マジで?」
「マジだ」
断言された。
(いや、一般常識って……)
異世界の一般常識、情報量が多すぎる。
だが、話は筋が通っている。
昨日、スライムを踏み続けて、宿で寝た。
そして、今朝、体が軽い。
(……ほんとにゲームみたいだな)
その説明の中で、ひとつだけ、俺の耳に引っかかった言葉があった。
「……なぁ」
「ん?」
「クエストって、どこで受けるんだ?」
主人は即答した。
「酒場だ」
「……酒場?」
「仕事、情報、人脈、全部集まる場所だ。冒険者なら、まずはそこだな」
なるほど。スライム踏み続けるより、よっぽど効率が良さそうだ。
「ありがとう」
俺は軽く礼を言って、宿を出た。
朝の町は、昨日よりもずっと賑やかだった。露店が並び、人が行き交い、どこか活気がある。
そして通りの一角に、いかにも、って感じの建物があった。
木の看板。
ジョッキの絵。
扉の隙間から漏れる、騒がしい声。
酒場だ。
(朝だよな……?)
そう思いながら扉を開ける。
中は、もう出来上がっていた。
酒の匂い。
笑い声。
テーブルを叩く音。
朝だというのに、ジョッキを傾けている連中が何人もいる。
「……早ぇな」
俺は思わず呟いた。
だが、ここが仕事場らしい。
この異世界では、朝から飲むのも、クエストを探すのも、同じ日常なのかもしれない。
俺は一歩、酒場の中へ足を踏み入れた。
※今回の前半終了パターン
「さて、町に戻るか」
踵を返した、そのときだった。
――ぞわり。
背中を、冷たい指でなぞられたような感覚。嫌な予感。ギャンブルで何度も味わったやつだ。
俺は反射的に振り返った。
そこには、がいこつが立っていた。
ただの白骨じゃない。
ところどころ欠けた骨。
ボロボロの革鎧。
刃こぼれした剣を、しっかりと握っている。
「……は?」
声が、情けなく裏返った。
見た瞬間、理解した。
こいつは違う。スライムどころじゃない。ゴブリンよりも、確実に強い。
(無理だ)
考えるより先に、体が動いた。
走った。全力で、町に向かって。
背後から、骨が擦れるような音がする。
がいこつも、走ってきている。
「やばいやばいやばい!!」
心臓が喉まで跳ね上がる。草原を駆けながら、頭の中で警報が鳴りっぱなしだ。
(これはスーパーリーチ発展だ、いや何考えてんだ俺は!そんなことより、完全に詰みのパターンだろ!!)
視界の先に、町の門が見える。
灯り。
人影。
たどり着いたら後半発展!……何考えてんだ俺は!
アホなことを考えていたら、盛大に転んだ。
いってぇ……てか、やばっ
がいこつは俺に追いつき、その剣で俺を突き刺した
R.I.P




