第二十三話 情報屋ロキと、支配する者たち
僕の名前は、ロキ。
このエーテルディアで情報屋として生活をしている。
僕は今日、エーテルディアの上層部に来ている。
石畳は磨き上げられ、街灯は魔導石で白く輝き、空気すら澄んでいる。
下層区とは、同じ街とは思えない。
巨大な石造りの館。ここが会合の場だ。
政治屋、都長、議員、表カジノの経営者、護衛騎士。
所謂、支配層。
円卓を囲み、香の匂いが漂う中、僕は壁際に控える。
「エーテルディアの収税は素晴らしい。王都を超えている」
絶賛するのは、王都から来た政治屋の男。細い目の奥に、計算しかない。
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
都長が深く頭を下げる。腹は出ているが、動きは妙に軽い。
「しかし、下民の中に、よからぬ連中もいるようだね」
空気がわずかに変わる。都長と議員たちは視線を泳がせる。
沈黙。
その時、鎧をまとった男が一歩前に出た。
「スリーセブンス……冒険者ギルド協会にも討伐依頼は出しましたが、煙のような奴らで、中々捕まりません」
エタルド=ローキンス騎士長。
整った顔立ちだが、目の下に疲労が滲む。
報告を聞いた瞬間、議員の一人が机を叩いた。
醜く太った女だ。宝石をこれでもかと身につけている。
「捕まりません、じゃないよ。しっかりしてよ! エタルド=ローキンス騎士長!!」
脂汗が揺れる。他の議員が、下卑た笑みを浮かべて囁く。
「ローキンス家でマトモなのは、王都へ行った騎士長の兄と、その長兄だけでしょう。身内にギャンブル依存者いるし、落ちぶれましたな」
わざと聞こえる声量。
騎士長の顎が、わずかに強張る。
「……アイツはその兄の娘です」
悪手だな。ここはのらりくらりとかわすべき場面だ。だが、ちっぽけなプライドを守るために、事実を言ってしまった。
太った議員が目を細める。
「ああ、あの金借りの娘ね? 家名に泥を塗った」
笑いが起きる。表カジノの経営者が、指を鳴らす。
「ギャンブル依存の血は厄介ですな。街の治安にも影響します」
僕は内心で笑う。
あなた方が一番、ギャンブルを煽っているのに。
政治屋が静かに口を開く。
「ローキンス家の名誉回復には、結果が必要だ。スリーセブンスの首を取ればよい」
騎士長は黙っている。誇りと焦燥が、鎧の内でぶつかっているのが見える。
「討伐依頼の金額を上げましょうか?」
都長が言う。
「いや、2,000Gで十分だ。欲に目が眩んだ冒険者が動く」
政治屋の声は淡々としている。
僕はそこで、静かに口を開いた。
「恐れながら」
全員の視線が集まる。
僕は深く礼をする。
「スリーセブンスは単なる盗賊ではありません。下層区の支持も厚い。力で押せば、反発が広がります」
「ほう、情報屋風情が意見を?」
太った議員が鼻で笑う。
僕は微笑む。
「事実を申し上げただけです。今、下層区で暴発が起きれば、税収にも影響が出ましょう」
都長の眉がぴくりと動く。
金の話は、彼らに効く。
わかりやすくて助かるなぁ。
政治屋が椅子にもたれた。
「では、どうする?」
「泳がせるのも一手かと」
僕はさらりと言う。
「より大きな獲物が網にかかるまで」
騎士長が、わずかにこちらを見る。
理解した顔だ。スリーセブンスだけではない。
異界の賭博師と、実力だけは一流のイベルタも動き始めている。
議員が吐き捨てる。
「好きにしなさい。ただし結果を出しなさい、騎士長」
会議は終わり、重い扉が閉まる。
廊下に出た瞬間、騎士長が低く言った。
「……ロキ。何を企んでいる」
僕は微笑む。
「企みなど。僕はただ、街の均衡を守りたいだけですよ」
半分は本当だ。残り半分は――
面白いから。
下層区の義賊。
転生した賭博師と、凄腕のダメ人間。
名誉に縛られた騎士長。
おそらく彼は、スリーセブンス討伐を名目に、アルベルトとコルディを動かす。そして名誉回復と同時に、面汚しの処分。一石二鳥ってところか。
駒は揃いつつある。
この盤面、誰が最後に笑うのか。
僕は静かに、夜の上層区を歩き出した。




