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R.I.P末期ギャン、異世界転生 ―死んで借金がチャラになった俺は、異世界で命(チップ)をタダで貰ったので今度こそ遊んで暮らす―  作者: 黒瀬雷牙


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2/12

第一話 借金チャラになって異世界転生したのはいいけど、右も左もわからんし、結局金はない

 目を覚ましたとき、最初に思ったの

 眩しい、だった。


 空がやけに高い。

 雲がやけに近い。

 風が、変に優しい。


 草原。どこまで続くかわからない緑の海。

 アスファルトも、電柱も、コンビニもない。


 ……ああ、そうだ。


 俺は死んだんだった。

 借金も、督促状も、すべて置いて。


 死ねなかった……?

 いや、違う。これは……


「……異世界転生?」


 思わず声が出る。テンプレみたいな状況に、笑いが込み上げた。


 立ち上がって、体を確認する。

 痛いところはない。

 どこも欠けてない。


(マジかよ、ひょっとして俺は、タダで次の(チップ)貰ったのか!?)


 ポケットを探る。

 ない。財布も、スマホも、身分証も。金もない。

 でも……借金も消えた。


「ははっ!前の世界より万倍マシだぜ!」


 生き直しても、スタートは無一文。

 だがそれは、人生のリスタートを意味する。


 願ったり叶ったりだ。


 周囲を見渡すと、草原を貫くように一本の街道が伸びていた。その先に、小さな建物の集まりが見える。


 町だ。


 昔やったRPGの、最初の町。

 武器屋と防具屋があって、

 宿屋があって、教会があって……


 ああいう感じ。


 行くしかない。選択肢は、それしかない。

 俺は街道を歩き始めた。


 そのときだった。


 ぷるん。


 視界の端で、何かが跳ねた。

 次の瞬間、どんっと腹に衝撃。


「いってぇ!?」


 半透明の、青っぽい塊。丸くて、ぷよぷよしている。


 ……スライム?


 ゲームでしか見たことないやつが、普通に体当たりしてきやがった。


「ちょ、待て待て! 話せば」


 どんっ。


 二発目。

 地味に痛い。

 本当に地味に。


「この野郎!」


 反射的に足を振り下ろす。


 ぐにゃ。


 手応えは最悪だった。

 柔らかくて、ぬるっとして、気持ち悪い。


 もう一度。

 さらにもう一度。


 踏む。

 踏む。

 踏む。


 スライムはぷるぷると震え、やがて、ぽん、と音を立てて消えた。


 ……消滅?


 そこには、小さな、光る物体が残っていた。


 俺は息を整えながら、それを拾い上げる。

 丸い。硬い。金属っぽい。


 コインだ。2枚ある。


 手のひらの上で、太陽の光を反射している。その瞬間、脳内で、嫌というほど慣れ親しんだ思考が回り始めた。


(敵を倒す、ドロップ、通貨……)


 俺は、察した。


「これ、この世界の金だ」


 無一文だと思った。だが、この世界では命を張れば金が手に入る。


「いいじゃん、いいじゃん!働くよりよっぽどいいじゃん!!」


 俺はコインを握りしめ、街道の先にある町を見た。


 そのあとも、街道を進みながら何匹かスライムを倒した。ぷよぷよした感触にも、少しずつ慣れてきた自分が嫌になる。


 途中、茂みの向こうから、ギャギャッと、嫌な鳴き声が聞こえてきた。


 ゴブリンだ。


 緑色の肌。

 小柄な体。

 そして、剣を持っている。


(やばいって……)


 あいつ、完全に武装してる。スライムと違って、明確に殺しに来てる顔だ。


 目が合った瞬間、ゴブリンが叫び、こちらに走ってきた。


「無理無理無理!!」


 俺は全力で逃げた。草原を駆け、街道を外れ、転びそうになりながら必死で走る。


(はぁ、はぁ……!てかゴブリンやばいって!剣持ってるし!)


 しばらく逃げて、振り返る。……追ってきていない。その場にへたり込み、深く息を吐いた。


(戦闘、選ぶ必要あるな……)


 命がチップなら、無謀な勝負は破産一直線だ。そんな当たり前のことを、俺はようやく理解し始めていた。


 やがて、街道の先に見えていた町へ到着する。


 木と石でできた建物。

 低い城壁。

 門の前には、行き交う人々。


 町だ。俺は門をくぐり、町の中を歩き出した。


「……いや、マジで」


 思わず声が漏れる。


「ゲームん中みてぇだ……」


 武器屋。

 防具屋。

 露店に並ぶ食べ物。

 鎧姿の冒険者らしき連中。


 全部、見覚えがある。でも、どれも現実だ。

 そんな中、ふと耳に入ってきた人の話し声。


「今日の護衛依頼、報酬が安すぎるだろ」

「最近は近場の草原でも油断できねぇからな」


 ……ん?


 俺は足を止めた。


(今の……)


 言葉自体は、聞いたことのない音だった。日本語じゃない。絶対に。


 なのに。


(……意味、全部わかるぞ?)


 別の方向からも声が聞こえる。


「宿代、また上がったのか?」

「仕方ねぇよ、物資が足りない」


(は?)


 頭の中が一瞬、真っ白になる。


「いやいやいや……」


 俺は自分の耳を疑った。


 日本語じゃない。なのに会話の内容が、そのまま理解できている。翻訳されてる感覚とも違う。考える前に、意味が入ってくる。


(なにこれ……オート翻訳?)


 異世界転生。

 モンスター。

 ドロップアイテム。

 そして、言語の壁もなし。


 ……都合、良すぎだろ。俺は町のざわめきを聞きながら、小さく笑った。


(ほんと、出来すぎてる)


 まるで、俺がここで生きることを最初から前提にしているみたいだ。


 俺は、手の中のコインを握りしめた。


 さて、まずは情報だ。


 金はない。

 知識もない。


 でも、理解できる言葉だけは、ある。異世界での最初の一歩は、どうやらそこから始まるらしい。


 とりあえず宿だ。どんなシステムか知らねぇけど、久々に走って普通に疲れた。


 俺は町の中央にある宿屋の扉を押し開けた。


「いらっしゃい」


 カウンターの向こうにいたのは、恰幅のいい中年のおっさん。いかにも宿屋の主人って顔だ。


「あ、おう……い、一泊いくらですか?」


 ちょっと声が裏返った。

 自分でもわかる。緊張してる。


「エコノミーなら20G。スイートなら120Gだ」


 ……G?


(あぁ、これか)


 俺は道中で倒したスライムから手に入れた硬貨を、ポケットから出してカウンターに置いた。


 チャリン、チャリン。


 主人は一枚ずつ数えて、首を横に振る。


「旦那、これ8枚しかないよ。12枚足りない」


「……あ、あぁ。すまん」


 俺はそれ以上何も言えず、逃げるように宿を出た。

 扉が閉まった瞬間、思わず小さく息を吐く。


(てかこれ……1枚1Gかよ)


 めっちゃわかりやすいじゃねぇか。


(てか日雇いとパチンコ屋しか行ってなかったから、

 人と喋るの普通に緊張したぜ……)


 異世界転生しても、コミュ障は治らないらしい。


 俺は夕暮れに染まり始めた町を見上げた。

 日が沈むまで、まだ少し時間がある。


(よし)


 俺は拳を握る。


(今日は金を稼ぐ)


 宿代20G。

 今8G。

 あと12G。


(スライムだけ探して殺せば、楽勝だろ)


 多分。

 そう、多分だ。

 でもな。


 現実でもそうだった。


「多分勝てる」

「次はやれる」


 その言葉に、俺は何度も身を滅ぼしてきた。


(今回は違う、もう同じ轍は踏まねえ)


 ここは異世界。命がチップで、負けたら終わり。

 今の俺がゴブリンに突っ込むのは、ルーレットで()に一点賭けくらい無防だ。


 俺は町の外へ向かって歩き出す。


 夕焼けの草原。ぬるい風。

 遠くで、ぷよんと嫌な音。


(いたな)


 スライムだ。


(よし……)


 俺は自分に言い聞かせるように呟いた。


「これは勝負じゃない、作業だ」


 まずは宿代。

 まずは生き延びる。


 ギャンブラーの第二の人生は、意外と堅実な一手から始まろうとしていた。

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