第十五話 触れば感電の危険物!?雷鉄鉱石の納品クエスト
ギルドの依頼板の前で、俺たちは腕を組んだ。
羊皮紙に並ぶ文字列。
討伐、護衛、採取、運搬。
「採取って言ってもな……」
俺は鼻を鳴らす。
キノコか? 薬草か? 石ころか?
報酬だけ見れば判断できるが、危険度まではわからない。
そのときだった。
「あ、これにしましょう!」
イベルタが一枚の依頼書を引き抜く。
「前にいたパーティで手に入れたことがあります! 場所もわかりますし、効率いいですよ!」
彼女が選んだのは、
雷鉄鉱石の納品 700G
「新緑鉱石より高いな」
「はい。難易度も上がりますが、お金のためです!」
にこりと笑う。
700G。悪くない。
俺たちは受付へ向かった。
白制服の受付嬢が、淡々と説明する。
「雷鉄鉱石は素手で触れると感電します。扱いには十分ご注意ください」
「……は?」
「採掘用の絶縁手袋は貸し出し可能です。破損時は弁償になりますので」
さらっと怖いことを言うな。
イベルタは慣れた様子で手袋を受け取った。
「大丈夫ですよ。コツがありますから」
「そのコツ、後でちゃんと教えろよ」
クエストを受注し、俺たちは街を出た。
森へ続く街道。
朝露が光り、鳥の声が響く。
そして、ぬるっと現れる青い塊。
「スライム!」
イベルタが叫ぶより早く、俺は銅の剣を振り下ろした。
べちゃっ。
手応えが軽い。
だが、横から小さな影が飛び出す。
「ゴブリン!」
棍棒を振りかざして突進してくる。
「ちっ!」
慌てて剣で受け止める。
腕が痺れる。思ったより重い。
後ろから、イベルタの声。
「左!」
反射的に身を引く。
次の瞬間、イベルタの短剣が閃き、ゴブリンの首元を正確に切り裂いた。
血飛沫。
崩れ落ちる小鬼。
「……手伝えよ」
俺は息を整えながら言う。
「ダメです。ギャンさんのレベル上がりませんよ?」
「ぐ……」
確かに。
いつまでも守られてちゃ意味がない。もう一体のゴブリンが迫る。
今度は自分から踏み込み、剣を横薙ぎ。
浅い。だが怯んだ隙に蹴り飛ばし、追撃。
そして、倒した。
「今ので経験値入りましたね」
「わかるのか?」
「パーティー組んでますから」
そうか、俺は一人じゃない。
森を抜け、岩肌の露出した山道へ。空気が少しひんやりしてくる。
やがて、ぽっかりと口を開けた闇が見えた。
「ここです」
雷鉄鉱石が取れるという洞窟。
入口周辺の岩は黒く、ところどころ青白い筋が走っている。パチ、と小さな火花が散った。
「……今、光らなかったか?」
「地面に露出してる部分は微弱に帯電してます。だから絶縁手袋必須なんです」
中から、低く唸るような音が聞こえる。
風か?それとも、またゴーゴンみたいな化け物か……?
「ビビってます?」
「ビビってねぇ」
嘘だ。少しビビってる。
だが、ここで引いたらLevel2のままだ。
俺は銅の剣を握り直した。
「行くぞ」
「はーい」
俺たちは闇へ足を踏み入れた。洞窟の奥で、青白い光が脈打っている。
洞窟の奥。
青白い光が脈打つ岩壁を、イベルタが指差した。
「あ!」
小走りで駆け寄る。
「ありましたよ! 雷鉄鉱石の鉱脈!」
岩肌に走る稲妻のような青い筋。
確かに、周囲より強く光っている。
「おぉ……で、どうやって掘るんだ?」
俺が剣を構えかけると、
「離れてください」
ぴしゃりと止められた。
イベルタはすっと弓を構える。
「……?」
次の瞬間。
ヒュッ――
放たれた矢は鉱脈に命中。
――ドンッ!
小さな爆発。
「うぉ!?」
衝撃で思わず身を伏せる。
青白い光が弾け、岩が砕け散る。
「とっておきの爆発矢です。矢尻に火薬を仕込んであります」
さらっと言うな。
煙が晴れると、砕けた岩の中から、青く帯電する塊がいくつも転がり出ていた。
パチ、パチ、と小さな火花が跳ねる。
「ありったけ持って帰りましょう!」
イベルタの指示に従い、俺は絶縁手袋をはめる。
触れた瞬間、微かな振動。
だが痺れはない。
「……本当に素手だったらヤバかったな」
「だから言ったじゃないですか」
袋いっぱいに詰め込む。
想像以上に重い。
これで700G。悪くない。
俺は周囲を見回した。静かだ、モンスターの気配もない。
「今回はモンスターにも出会わなかったし、楽勝だったな」
俺がそう言って入口へ歩き出そうとした、その瞬間、イベルタの手が俺の胸を押し止めた。
「止まって」
同時に、短剣が閃く。
キィンッ!
何かを叩き落とす。
「……矢?」
岩陰から、足音。
ゆっくりと現れたのは、長身の男。
整えられた銀髪。
上質な革鎧。
手には黒い弓。
冷たい視線がイベルタを射抜く。
「コソコソしないで出てきなよ、アルベルト」
イベルタの声は、さっきまでとは別人のように低い。
男は鼻で笑った。
「相変わらず勘だけは鋭いな」
洞窟内に響く、乾いた声。
「ローキンスの面汚しめ」
弓をゆっくりと構える。
「おとなしく死んでくれよ」
空気が変わる。
さっきまでの採取クエストの空気は消え失せ、張り詰めた殺気だけが残った。俺は状況を理解しきれないまま、銅の剣を握る。
「……知り合いか?」
「従兄弟、昔から嫌いだった」
短く答えるイベルタ。アルベルトと呼ばれた男が、口元を歪めた。
「出来損ないが冒険者ごっこか?相方も弱そうだな、そんなザコにしか相手にしてもらえなくなったかw」
視線が俺に向く。
値踏み。嘲笑。
胸の奥がチリ、と焼ける。
「ギャンさん、下がって」
「嫌だね」
即答だった。Level2?知るか。
俺はムカついたんだ。
「アルベルトは強い」
「そうか、でも舐められておうそれと引けねえな」
確率は待たない。
作るんだろ。
アルベルトの指が弦を引き絞る。
洞窟の奥で、雷鉄鉱石が不穏に青く瞬いた。




