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第十四話 俺の名前はマッキ=ギャン。Levelは2です。

 翌朝。


 俺は集合場所、昨日の裏カジノバーの前に立っていた。約束の十五分前だ。


 ……早すぎるか?


 いや、こういう時だけは遅れない。

 金の匂いが絡む約束だからな。


 だが、そこにいたのはイベルタだった。


 壁にもたれ、腕を組み、欠伸を噛み殺しながら、すでに待っている。


 思わず足が止まった。


 約束していたのだから当然?違う。

 俺より先にいることが、異常なのだ。


「おはよーございまーす! やっと来ましたね!」


 にこにこと手を振る。


「……早いな」


「十五分前行動は基本ですよ? ギャンさんこそ意外です」


 意外、か。こいつの中で俺は、時間にルーズなクズ扱いなのだろう。……間違ってはいない。


 そのまま、イベルタに案内され、冒険者ギルド協会へ向かう。


 朝の石畳。露店の準備をする商人たち、焼きたてパンの匂い。だが、俺たちの話題はクエストではない。


 ギャンブルだ。


 ギャンカスが二人揃えば、世界が滅んでも話題はギャンブルになる。


「ギャンさんは、シックスボール以外なら何をやりますか?」


 歩きながら、イベルタが横目で聞いてくる。


 俺は即答した。


「あのカードゲームとスロットだけは無い」


「え、なんでです?」


 目を丸くする。

 

 あのカードゲーム。

 前世にもあった、()()ゲームと同じ。

 タイガー&ドラゴン。バカラもそう。


「あれを選ぶ奴はギャンブラー失格だ。はっきり言ってど素人。わざと負けてるとすら言ってもいい」


「ええ!?」


「一回二回ならたまたまということがあるが、続ければ100%必ず負ける設計のゲームだ。プレイヤーが介入できる余地がほぼ無い。期待値を削られるだけ」


 スロットも同じだ。


「スロットはこの前言った通りだ。運頼りすぎる。俺は揺らせる余地がある勝負しかやらん」


「揺らせる……?」


「ポーカーやブラックジャック、相手の思考や打ち方、記憶力など、技術が介在する賭博だ」


「ポーカー?ブラックジャック?」


 このリアクション、この世界には無いのか……

 運だけじゃない。

 癖、焦り、欲望、記憶力。

 その人間の、実力が絡むゲーム。


「真のギャンブラーはな、確率を待つんじゃない。確率を作る」


 自分で言っていて、少し酔う。


「そ、そうなんですか……」


 イベルタは半信半疑の顔だ。まあ当然だろう、俺はただのギャンブル依存男、しかも一人ではクエストもこなせない落ちこぼれだ。


 だが、ギャンブルに関してだけは、俺は本物だ。

 死ぬほど、否、実際ギャンブルで死んだ。


 俺以上のギャンブラーも、たくさんいただろう。

 

 年収数億の人間が一日で数千万溶かしても、割合で言えば痛くも痒くもない。

 だが年収三百万で数千万動かす奴は、ただの狂人だ。そして、そういうぶっ飛んだ、()()は実在する。


 ……でも、イカれ具合で言えば、俺だってカンストだ。ギャンブルの借金が原因で、死んじまってんだから。


 そうこうしているうちに、巨大な石造りの建物が見えてきた。


 冒険者ギルド協会。


 重厚な扉。

 槍を持つ衛兵。

 朝だというのに出入りする冒険者の列。


 重厚な扉を押し開けると、空気が変わった。


 村の酒場とは別世界だ。


 磨かれた石床。高い天井。壁には依頼書が整然と貼られ、武器を背負った冒険者たちが静かに順番を待っている。


 酒を煽っている酔っ払いなど、一人もいない。


「まずは、マイステータスカードを発行しましょう!」


 イベルタが当然のように言う。


「ここでできるのか?」


「はい。ここは冒険者のクエスト管理だけじゃなくて、仕事の紹介、住居の契約、夫婦の登録まで扱ってるんです。……って、ギャンさん知らないこと多すぎません?」


 俺は説明するのが面倒だから言っていないが、異世界転生者なんだから仕方ないだろうが。


 受付へ向かう。白い制服の女性が、慣れた手つきで水晶板のようなものに触れた。


「隣村でのクエスト達成実績がありますね。マッキ=ギャンさんでよろしいですね?」


「……は?」


 なんだその名前。まあ確かに村の酒場で末期ギャンだ!と名乗ったが……


 フルネーム扱いか?てかそれじゃあギャンが名字で、マッキが名前みたいになってるじゃねぇか。


 俺が口を開く前に、「はい、そうです」とイベルタが即答した。


「なんでお前が答えるんだよ」


「だって合ってますよね?」


 合ってるけど違う。違うけど合ってる。

 くそ、ややこしい。


 数分の手続き。


 身分証も何も提示していないが、水晶板が淡く光り、俺の掌に温かな魔力が流れ込んだ。


 そして、薄い金属製のカードが差し出される。


「こちらがマイステータスカードです。紛失時は再発行に500Gほどかかりますのでご注意を」


 高ぇな。


 受け取る。ひやりと冷たいが、内側から微かな鼓動のような振動がある。


 表面には文字が浮かび上がっていた。


【マッキ=ギャン】

Level 2


「……低すぎね?」


「残念ですが、マイステータスカードの判別は絶対です。マッキ=ギャンさんの今のLevelで間違いありません」


 他にも細かい項目が並んでいる。

 筋力、敏捷、魔力、称号欄、討伐履歴。

 だが、細かく読む気はしない。


 どうせ俺はギャンブラーだ。

 戦闘職じゃない。


「イベルタは何レベルなんだ?」


 聞くと、彼女は待ってましたと言わんばかりにふんぞり返った。


「よくぞ聞いてくれました!」


 カードをばしっと突き出す。


【イベルタ=ローキンス】

Level 42


「……」


 強いのか?基準がわからん。


「どうですか?」


「……高いのか?」


「えぇ!? 高いですよ!? この都市の平均冒険者はせいぜい20前後ですよ!?」


 そうなのか、じゃあ上位か。


「じゃあお前やっぱり、強いんだな」


「腐ってもローキンス家の人間ですから!」


 その目は、ほんの少しだけ誇らしげだった。


 俺は自分のカードを見る。


 Level 2。


 笑える。


 借金で死んだ元ギャンブラー。

 異世界に来ても、底辺スタート。


 だが、レベルは飾りだ。

 数字は結果、本質じゃない。

 俺はカードをポケットにしまい込んだ。


「で? 今日はクエストか?」


「その前に」


 イベルタが人差し指を立てる。


「ギルド登録したということは、正式にパーティーを組めます」


「……」


「組みますよね?」


 Level42とLevel2。


 不釣り合いにもほどがある。

 確率を作るには、駒が必要だ。俺は肩をすくめた。


「でも、組んでくれる奴なんかいるか?」


「ここは大都会ですよ?冒険者もたーくさんいるから大丈夫大丈夫!」


 イベルタがにやりと笑う。


 そんな俺たちを見ている影があることを、俺たちはまだ知らなかった。


「一族の面汚しが、ローキンスの名を口にすんじゃねぇ」


 俺たちの知らないところで、悪意が胎動している事を……

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