表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
R.I.P末期ギャン、異世界転生 ―死んで借金がチャラになった俺は、異世界で命(チップ)をタダで貰ったので今度こそ遊んで暮らす―  作者: 黒瀬雷牙


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/12

第十話 いざカジノへ!遊べるかどうか、じゃない。やれるかどうかだ

 大都市・エーテルディア。


 街道を抜けた瞬間、空気が変わった。


 石造りの高い建物が立ち並び、いくつもの塔が空を突き刺すように伸びている。通りには人、人、人。冒険者、商人、旅装のままの連中、派手な服の連中。

 夕暮れだというのに、街は眠る気配がない。


 飲食店の呼び込み。楽器の音。

 魔導灯とネオンが混ざり合った、妙にけばけばしい光。


「……すげぇな」


 思わず、呟いた。


「これ、ほんとに中世ファンタジーか?」


「中世ってなんですか?」


「いい、独り言だ」


 俺は首を回しながら街を見渡す。


「ここも、アマス神とやらの加護、受けてんのか?」


 イベルタは、当然のように頷いた。


「はい。特にエーテルディアは、アマス神殿に巨大な結界石がありますから」


「結界石?」


「街全体を覆うほどじゃないですけど、中心部はかなり広い範囲でモンスターを寄せ付けません」


 なるほど。だから街道の手前でマッドドッグが出て、ここから先はいないわけか。


「ふーん……」


 俺の関心は、もう別の方向に向いていた。


「で」


 イベルタを見る。


「カジノは?」


 その一言に、イベルタは一瞬だけ目を見開いた。


「……何ヶ所か、ありますけど」


「いくらからだ」


「え?」


「220Gでやれそうなとこ」


 遊べるかどうか、じゃない。

 やれるかどうかだ。


 勝負の土俵に、立てるかどうか。


 イベルタは、俺の顔をじっと見たあと、少しだけ困ったように笑った。


「……ギャンさんらしいですね」


「褒めてねぇだろ」


「褒めてません」


 即答しやがった。

 それから、くるりと踵を返す。


「なら、ついてきてください」


「あるのかよ」


「あります。ちゃんと」


 イベルタは、迷いなく人混みの中に入っていく。

 俺はその背中を見失わないように、少し距離を詰めた。


 大通りを外れ、一本、また一本と細い路地に入る。

 喧騒はまだあるが、空気が少しずつ変わっていく。


 高級店の匂いが消え、代わりに、酒と汗と欲の匂いが濃くなる。


「……なぁ」


 歩きながら、聞いた。


「まさか、裏とか言わねぇよな」


「裏です」


「即答かよ」


「でも、危なくはないですよ。たぶん」


「たぶんって、信用できねぇな」


 路地の奥。ひときわ派手なネオンが灯っている建物が見えてきた。


 金色に縁取られた看板。少し古びているが、無駄に主張が強い。


「……ここです」


 イベルタが足を止めた。


 俺は、建物を見上げる。


 豪華ではない。

 上品でもない。

 だが――


(臭ぇ)


 勝負師特有の、あの臭いがする。

 負けた奴と、勝った奴の念が染み付いた場所。


「……いいな」


 思わず、口角が上がった。


「220Gでも、立てるか?」


 イベルタは、少しだけ間を置いてから答えた。


「ええ。立てます」


 それから、小さく付け足す。


「……生き残れれば、ですけど」


 俺は、懐に手を入れ、残りの金の重みを確かめた。


 220G。


 俺の命。

 俺の未来。

 俺の、全財産。


「上等だ」


 扉に手をかける。


「ここからが、本番だな」


 ネオンの光が、俺の影を歪めていた。


 店に入ると、そこは拍子抜けするほど普通のバーだった。


 木製のカウンター。

 酒瓶の並ぶ棚。

 客も数人いるが、酔って騒ぐでもなく、静かに飲んでいる。


(……ただのバー?)


 そう思った瞬間、イベルタが自然な仕草でカウンターに近づいた。


 マスターに顔を寄せ、短く何かを囁く。言葉は聞こえない。だが、合図のようなものらしい。


 マスターは一瞬だけ俺を見て、何も言わず顎で奥を示した。


「こちらへ」


 スタッフオンリーと書かれた扉。

 イベルタが先に入り、俺も続く。


 中は事務所のような部屋だった。

 机、書類、金庫。

 そして壁一面の棚。

 本がぎっしり並んでいる。


(……図書館?)


 イベルタは、その中の一冊に手をかけた。

 だが、それは本じゃない。


 傾ける。

 カチリ、という音。


 次の瞬間、棚全体が低く唸り、横にスライドした。


「……なるほど」


 現れたのは、隠し扉。


 扉の向こうから、光と音が漏れてくる。

 コインの擦れる音。

 笑い声。

 そして、あの空気。


 扉を抜けた先には、まったく別の世界が広がっていた。


 円形のカウンター。

 テーブルゲームの島。

 スロットのような魔導装置。


 そして――


「いらっしゃいませ♡」


 カウンターの内側に立つ、バニーガール。


 黒いバニースーツ。

 耳。

 無駄に完璧な営業スマイル。


「Johnnyカジノへようこそ!新規の方ですね? ご登録をお願いします」


「登録?」


 思わず眉をひそめる。


「身分証とか……ないけど」


 そもそも、この世界にそんな概念あるのか?イベルタが、肩をすくめた。


「予想通り。ギャンさん、マイステータスカード無いんだ」


「……マイステータスカード?」


「だから、表じゃなくて裏にしたの」


 なるほど。そういうことか。

 バニーガールは、にこやかに説明を続ける。


「こちらは偽名で構いません。会員カードで、チップの貯蓄と清算を管理しています」


「偽名OKとか、信用ゼロだな」


「信用がある場所だと、私たち困っちゃうので♡」


 妙に納得できる理屈だった。

 イベルタが、小声で補足する。


「ここ、非合法なんだ」


「やっぱりな、カジノは違法なのか?」


「ううん、カジノそのものは違法じゃないけど……」


 指を立てる。


「合法でやると、税金がかかるの」


「……あー」


「だから、内緒で運営してる。税金がない分、還元率が高い。勝ちやすい、と言われてる」


 言われてる、か。バニーガールが指でWを作る。


「お店もお客様も、ウィンウィンです♡」


(なるほど、信用はしねぇが……嫌いじゃねぇ)


 俺が登録用のカードに、適当な偽名を書いていると、横でイベルタが何やら受け取っていた。


 チップ。


「……100G分」


 バニーガールが、事務的に告げる。


「紹介料です。ありがとうございました」


 イベルタが、俺を見る。


「えへ」


「……お前」


 さっきまで泣いてた女が、満面の笑みだ。


「ちゃっかりしてんな」


 俺は、カードとチップを受け取り、周囲を見渡す。


 ここが、裏の賭場。

 税金も、建前もない場所。


 あるのは――

 運と、金と、欲だけ。


(……いいじゃねぇか)


 懐の220Gを思い出す。


 少ない。

 だが、ゼロじゃない。


 俺は、カウンターに一歩踏み出した。


「さて……」


 心臓が、久しぶりにいい音で鳴っている。

 イベルタは、楽しそうに笑った。


「いよいよですね、ギャンさん」


 ああ。

 やっとだ。

 ここからだ。


 俺の異世界ギャンブルライフは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ