表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

第2話 コクッたの? コクられたの?

 あれからずっと――私は、七五三くんのことばっか考えてます。


 私、やっぱり七五三くんのことが好き。

 ちょっとアレだけど、彼って、すっごく魅力的。


 私、彼のこと、もっと知りたい!

 もっともっと知りたい!

 何て言うか、彼への興味が止まらない!


 だから私――もぉ、思いきって告白するよ!

 『私と付き合って!』って、彼に気持ちを伝えてみる!


 でも……フラれたら、どうしよう?


 彼って、一体どんな女の子が好きなのかな?

 やっぱ可愛い系? 綺麗系?

 明るい人? 静かな人?

 彼ってちょっと変わってるから、そういうの、全然わかんない……。


 だけど――私、もう決めた!

 彼にコクる!

 この気持ち、もう絶対に止まんない!


       〇


 そんなわけで――その日の放課後、私は彼を校舎裏に呼び出した。


 はい。

 いよいよ告白です。

 一度も話したことない私に呼ばれて、彼は「えっと……」と少しとまどった表情。


 やっぱ七五三くんって、私に興味ないのかな?

 だとしたら、めちゃくちゃショックだよ……。


 でも、私はくじけない!

 なんとかして私の気持ちを、彼に伝えよう!


 勇気を出して、私は彼の前に立つ。


 え、でも、ホントにヤバいよ、七五三くん……。

 正面から見ても、マジでイケメンすぎ……。


「あ、あのね、七五三くん」


「うん。何?」


 初めて私に向けられた、七五三くんの言葉。

 子どもみたいに不思議そうな、彼の顔。


 か、可愛い……。

 思わず抱きしめたくなる気持ちをおさえ、私は思いきって彼に告げた。


「あ、あの、私ね……中学に入学してから、ずっとあなたのことばかり考えてるの」


「え? ボクのことばかり?」


「うん。そう」


「じゃあ――今日の夜ごはんのこととか、次の休みは何しようとか、そういうのは考えないの?」


 七五三くん――真顔です。


 え、えっと……それは、その、一体どういうことでしょう?

 もしかして七五三くん、マジで、子ども?

 子どもの、素朴な疑問?


「い、いや、そういうことじゃなくて……もちろんそういうことも考えるけど、大部分は七五三くんのことばっか考えてるって言うか……」


「大部分がボクのこと……へぇ、キミって不思議な人なんだね」


 う、うわぁ……不思議な人に、不思議な人って言われた……。

 まるでゴリラに『キミってバナナがよく似合うね♪』って言われた気分。


 だけど――私はなんとか心を落ち着ける。


 やっぱり七五三くんって、こういう子どもっぽいとこも可愛い!

 こんな人を、彼氏にしたい!


「だから、その……あのね、七五三くん。もし良かったら……私と付き合ってくれないかな?」


「付き合う? 付き合うって、何? 何するの?」


「何するって……いっしょに登下校したり、勉強したり、デ、デートしたり……」


「あぁ! それって、もしかしてアレ? キミはボクと恋人同士になりたいってこと?」


「あ、う、うん……まぁ、そういうこと……」


「そっか……だったら、真面目に考えなきゃいけないなぁ……」


「あの、返事はね、今じゃなくていいの。私、待ってるから。今日は、その、私の気持ちを、あなたに伝えたかったって言うか……」


「あぁ、そうなんだね。ところでキミ――名前は?」


「な、名前?」


 私、もぉ、大・大・大・大・大ショック!

 もう一ヶ月以上同じ教室にいるのに、しかもとなりの席なのに、私、彼に名前も覚えられてない……。


 こ、これは脈なしだよ……。

 トホホすぎるよ……。

 私、もぉ、マジで泣きそう……。


「あの……葉月、しずく、です……」


「じゃあ、葉月さん。ちょっとそこに立っててくれる?」


 泣きそうな私にまったく気づかず、七五三くんが明るく言う。

 絶望の中、私はなんとか顔を上げた。


「ここに? ここに立っとけばいいの?」


「うん。背すじを伸ばして『気をつけ』のポーズ。まっすぐに、前だけを見て。あぁ、ラクな感じでいいよ。フツーに、こぉ、自然に」


「こ、こぉ?」


 なんだかよくわかんないけど、私は『気をつけ』のポーズをとる。

 すると彼が、ポケットからサッと何かを取り出した。


 な、何ですか、それ?

 メ、メジャー?


 つまりセロテープみたいにグルグルと布が巻かれた、距離を測定する道具。

 巻尺まきじゃくっていうのかな?

 とにかく、それ。


 それを構えた彼が、私の足もとにひざまづく。


「それじゃあ、葉月さん。ちょっとこれの先っちょを踏んどいてもらえる?」


「ふ、踏めばいいの?」


「うん」


 七五三くんに言われた通り、私は巻尺の先っちょを踏む。

 すると彼は、カラカラカラカラと私から遠ざかっていった。

 距離的には、五メートルくらい?


 あの、すいません、七五三くん……。

 それは、その、一体何の距離を測ってるのでしょうか?


「なるほど……非常に興味深いな……」


 な、何が?

 何が、なるほど?

 何が、興味深いの?


 とまどうしかない私を放置し、七五三くんは次に自分の右手の人差し指にツバをつける。

 それを空にかざし、ジッと見つめた。


 か、風向き、ですか?

 風向きを……確かめていらっしゃる?


「ウ、ウソだろ……こ、こんなことって、ありえるのか?」


 七五三くん、何かにビックリ。

 私は、もぉ、完全に意味がわかりません……。


 次に彼は、両手を使って窓を作る。

 画家とか映画監督とか、そういう人が自分の作品の構図を考えるポーズ。

 どうしたらいいのかわかんない私は、校舎裏でずっと『気をつけ』。


 えっと、あの……私、今、何をしてたんだっけ?

 そ、そうだ!

 告白だ!


 私、七五三くんにコクッてたんだ!

 でも、コクッて『気をつけ』のポーズって、一体何?


 七五三くんが、私に近づいてくる。


 地面に置いていた自分のスクールバッグを開き、中から茶色い何かを取り出した。

 パルプ紙で表紙が作られた、小さめサイズの――ノ、ノート?


 それ、ノートなの?

 辞書じゃなくて?

 あ、厚っ!


 それを開き、真剣な顔で、七五三くんがペンを走らせる。

 『気をつけ』のポーズのまま、私はこっそりと、彼のノートをのぞき込んだ。

 なんだかよくわかんない記号が、次々と書き込まれていく。


 な、何ですか、それ?

 こ、古代文字?


 色んなイラストや数式みたいなのが、ものすごいスピードで書かれてますけど……。

 おまけに、何が書いてあるのか、さっぱりわかんないんですけど……。


「あの、七五三くん……それは、その……何?」


「あぁ、うん。キミが一体どんな人物なのか、今ちょっと確認してるんだ」


「は、はぁ……」


 その謎の文字で?

 記号で?

 数式で?

 一体、私の、何がわかるの?


 七五三くんは、サラサラとペンを走らせ続ける。

 『気をつけ』のポーズのまま、私はその場に棒立ち。


 あ、あの、あのね、七五三くん。

 私、これ、人生、初告白だったんだよ?

 初告白でこれって、一体、どういう状況?


「よし! すべての謎は解けた!」


 あ、あぁ……はい、良かったです……。

 って言うか、私には、あなたのすべてが謎ですけど……。


「でもこれは、ボクが悪かったなぁ……」


「な、何がでしょう?」


「完全にボクのミステイクだ。ボクはキミを見つけることができなかった」


「は、はい?」


「本当に、すいませんでした」


 いきなり、七五三くんが私に深々と頭を下げる。


 え? え? え?

 な、なんで?

 何が、『すいませんでした』?


 顔を上げた七五三くんが、スクールバッグに分厚いノートを戻す。

 入れ替えるように、中からウエットティッシュを取り出した。

 一枚を抜き取り、手を拭く。

 右手を、私に差し出してきた。


「あの、葉月しずくさん。良かったら――ボクとお付き合いしていただけませんか?」


「は、はい?」


「ダメでしょうか?」


「え? いえ、わかりました。よ、よろしくお願いいたします」


 彼の右手を、私は握り返す。

 すると彼は、子どもみたいな顔でほほ笑んだ。


「うわぁ。すごく嬉しいよ。どうもありがとう」


 えっと、あの……これは一体どういう状況なんでしょう?


 コクッたの、私、だよね?

 え?

 七五三くん?


 どっち?

 どっちなの?


「じゃあ、今日からボクたちは恋人同士だ。呼び方は、どんな感じがいい?」


「えっと……な、七五三くんにおまかせします……」


「そっか。じゃあ、最初は――苗字呼びでいこう」


「うん。わかった……」


「色々決まったところで、いっしょに帰ろっか」


 スクールバッグを拾いあげ、七五三くんが歩きはじめる。

 あわてて自分のスクールバッグを取り、私は彼の横に並んだ。


 初めていっしょに歩く、私と七五三くんだけの校内。

 私たちが、付き合いはじめた瞬間。


 って言うか、これって、何?

 こういうので、いいの?

 コクるって、ホントにこんな感じ?


       〇


 帰りの通学路を歩きながら、私はとなりの七五三くんを見る。


 やっぱ彼、超イケメン。

 女子にモテる要素、テンコ盛り。

 この人が私の、生まれて初めての彼氏……。


「ねぇ、葉月さん」


「え? な、何?」


「葉月さんって、今まで彼氏とか、いたことある?」


「ううん。ないよ。そういうの、あんまりよくわかんなかったから」


「そっか。じつはボクも彼女ができるのは初めてなんだ」


「そ、そうなの? 七五三くん、すっごくモテそうなのに?」


「あのね、葉月さん」


 七五三くんが立ち止まり、真顔で私を見つめる。


「モテるとか、モテないとか、そういうのは、どうだっていいんじゃないかな? 大事なのは、自分が好きな人に『好き』って言われることだとボクは思うよ」


「そ、そうだね……うん、それは、ホント、そうかも」


「ほら、葉月さん。見て。今日も綺麗な夕暮れだ」


 七五三くんが、オレンジ色に染まった町の風景を指さす。

 彼のとなりで、私もそれを見つめた。


「思い出って、きっとこういう風景といっしょに心に残っていくんだろうね。ボクたちが恋人同士になって、初めて見る夕暮れだ。ボク、これ、ずっと覚えとくよ」


「うん……私も、覚えとく……」


 私と七五三くんは、その夕暮れの中、家に向かって歩いていく。


 なんか、落ち着くなぁ……。

 話したのは今日が初めてだけど、私、七五三くんといっしょにいると、なんかラク。

 カッコつけなくていいような気がするよ。


       〇


 そしてその日――私に、生まれて初めての彼氏ができた。


 私の彼氏・七五三くんは、とっても変わった人。

 すごくすっごくヘンな人。

 でも告白する前より――私は、彼のことが好き。


『モテるとか、モテないとか、そういうのは、どうだっていいんじゃないかな? 大事なのは、自分が好きな人に『好き』って言われることだとボクは思うよ』


 あの夕暮れの中で、七五三くんが言った言葉。

 なんか、すごく深い。


 彼って、たまに子どもみたいな顔をするけど、ホントはすごく大人なのかな?

 なんか、マジで、他にはいない感じの人。

 一体、何を考えてるのか、さっぱりわかんない。


 私の彼氏は、ヘン。

 めっちゃ、アレ。

 つまり、アレカレ!


 でもそんな彼といっしょに過ごすのが、今からとっても楽しみです♪


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ