しおり
川沿いにのびる小道をぬける。
あの時計台まであと少し。
『響くん…どうやったらそんなにうまく口笛が吹けるんですか…??』
そう言ってがっくりと肩を落とすあいつに、
笑いながらコツを教えたのもこのあたりだ。
…あいつとの思い出なんて忘れてしまおうと思ってから、
一体何日たったのだろう??
結局オレは忘れることなんてできずに…
こうして、あいつとの思い出の場所に向かっている。
いつも決まって夕方5時に、
あいつと待ち合わせしてた、駅前の時計台。
電車の時間の関係からか、
時間に律義なあいつには珍しく、
必ず2分半遅刻してた。
改札口から小走りでオレのもとにかけよってくるあいつをよく抱きしめてたっけ。
あいつは顔を真っ赤にさせて…
だけど強がってそれを夕日のせいにするんだ。
……どうして今はもう、隣にあいつがいないんだろう??
何度も悩んだけど…
今だにはっきりとした答えは見つからない。
『約束』なんて、曖昧な言葉に未来をぬいつけた。
それが果されるなんて確証はどこにもないのに……
目に映るのはまっすぐにのびる、夕日に照らされたきれいな道。
少し前まではそこにあいつがいて…
眩しいほどにきれいだった景色。
今そこにあいつがいないように……
今見ている景色もきっといつか、消えてしまうのかもしれない。
少し切なくなって、オレは顔をふせた。
地面を見つめると、素朴な小さな花がオレを見つめる。
いつかあいつは、こんな花を摘み取ってオレの家に持ってきた。
『響くん!このお花、ここに飾っておきますね!』
了承も得ずに勝手に部屋の窓際に飾った花。
オレは文句を言いながらも笑っていた。
どこにでもあるような、
平凡でありふれた、
だけど今はもうない、
素晴らしい昼さがり。
2人でいつも、『今』を生きようと言っていた。
だけどそう言っている間にも、
『今』は容赦なく逃げていくということを、
オレ達は時の流れに教わった。
ぼんやりと歩いているうちに時計台につく。
時計台にもたれかかって、あいつにもらった腕時計を見る。
時刻は丁度5時。
後2分半したら、並んで歩きだす2人がいたのにな。
ため息を一つついて、歩いてきた道を引き返す。
1人鳴らす足音。
悲しくなんかない。
自分にそう言い聞かせる。
心が明日に向かうには時間がかかるだろうけど……
そよ風が頬をなでる。
あいつは今その瞳に、
何を映し、
何を思い、
何を望んだのだろうか??
あいつのことを忘れずにいることと、忘れること、
どちらがオレにとって幸せなのか分からない。
ただ…
立ち止まり、空を見上げる。
夕暮れ色のオレンジの空。
今、たしかに言えること。
「…今日も、好きだった」
気持ちを言葉にすると、自然と笑顔になった。
目を閉じて、また歩き始める。
「響くん」
誰かに名前を呼ばれて、目をあける。
オレは少し目を見開き、
小さく微笑んで名前を呼んだ。
「詩織」
Aqua Timezのしおりが好きすぎて小説にしました!
響視点で曲まんま使ってます(汗