決闘
「……は?…………」
セルスは驚きつつもその言葉に納得していた。この世界で最も恐ろしい魔王相手に一人で行かせるわけ無いことは当然だと思ったからである。
(だからと言って一人で戦っても瞬殺されるとは思っていないが……)
「それで。俺らは何人で行けばいいんだよ」
「4人だよ」
「4人?」
「そう4人。あっ、4人と言ってもこの国の中でいま集められる人選としては選りすぐりの人達だから、君の足は引っ張らないと思うよ」
4人で行くということにも驚いたがセルスが一番驚いたのは……
「ずいぶん俺を過大評価するんだな」
「いやいや過大評価なんかじゃ無いよ。適切な、評価だと思うよ」
「会って一日目のテロリストだぜ。そこまで俺の実力を信頼できんのはなんでだよ?」
「うーん……ウィンドとあそこまで戦えるのは少ないからね。少なくともただの賊にはあんなことできないでしょ」
根拠としては薄い気がするがこれ以上聞いても意味はないだろう。
「それで君はどうするんだい?この依頼、受ける?受けない?」
「……」
4人で魔王退治。2000年前、多くの屍のうえで葬り去った魔王をたった4人で討伐するのは常識的に考えて不可能だろう。だがそんなことは些細な理由だ。子供の頃に見たあの化け物は魔王にも引けを取らないほどに恐ろしいだろう。
「やる」
「……勝つ気かい?」
「ぶっ殺してきてやるよ」
そう聞くとアルノルトは苦笑した後に手を前に出し力強く宣言した。
「魔王討伐依頼に〈勇者〉アルブライト、〈赤の魔剣士〉バーガード、〈闇土の魔術師〉カナにとともに〈神速〉セルスを任命する!!」
……
「神速ってダサくね」
「そうかな。僕はかっこいいと思うよ」
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その後一日が経過し、朝となった。セルスは魔王討伐の遠征までは城に泊まることになった。といっても村に大切なものを置いてきたわけでも無いので、心置きなく過ごしている。
城で与えられた部屋はとても広く、料理人が用意してくれるものはどれも絶品ばかりだったのでセルスもとても満足していた。
(ここまで待遇がいいとは思っていなかったな。それでも、どこからか視線を感じるし一切警戒してないってこともないんだろうけど)
実際、セルスの部屋をアルノルトお抱えの暗殺者が一日中見張りをしている。だが、自分らの監視がばれているなど1ミリも思っていないはずだが……
そんなことを考えながら朝ごはんを食べているとドアがノックされた後、メイドが入ってきた。
「セルス様。国王陛下が訓練場に来るようにということです。」
そう聞いた後セルスは朝食を済ませメイドとともに訓練場へと向かった。
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訓練場に着くと噂の3人がすでに待っていた。
セルスは金髪の男が〈勇者〉で、赤髪のがっしりとした男が〈赤の魔剣士〉、魔術師のローブを羽織った小柄な女が〈闇土の魔術師〉だろうと推測していた。
……名前?そんなものは一切覚えていない。
それでも頭の中から名前を引っ張り出そうとしていると、赤髪の男が叫んだ。
「おいおい、新入り!!新入りのくせに俺らよりも来るのが遅いのはどいうことだあ!?」
こういう輩はどこにでもいる。セルスも冒険者になりかけの頃はよく怒鳴られてたものだ。しばらく何も言えずに黙っていると、勇者が口を開いた。
「ガーナード。彼はこの城に来てまだ短いんだ。少しの遅れなんて多めに見るべきだと思うよ」
「てめェはそういうとこが甘すぎんだよォ!」
勇者は肩をすくめた後、セルスの手を取った。
「挨拶が遅れてすまない。僕の名前はアルブライト。〈勇者〉と言った方が伝わるかな? そこの彼は〈赤の魔剣士〉のガーナード、彼女は〈闇土の魔術師〉のカナだ。僕のことはアルと呼んでくれ」
セルスが名前を覚えようとぼーっとしていると、アルブライトが手を取ったまま見てくるので慌てて名前を名乗った。
「俺の名前は……セルス、です」
「はッ! 二つ名も無いような雑魚を討伐隊に入れるとは王さまは何を考えてんだァろうなァ!!」
叫び出すガーナードにいい加減うざったくなってきた時、先ほどまでだんまりだったカナが口を開いた。
「……ガーナード、うるさい。そんなに嫌なら実力を確かめればいい」
「オォ!!久々に口を開いたらいい事言ってくれるじゃァねェか!どうだ新入り、俺と決闘と行こうぜ!!てめぇが負けたらここから出ていくんだなァ!」
「ガーナード、いい加減やめるんだ。まさか彼がそんな条件飲むわけが……」
「いいぜ、やってやるよ」
そう聞いた瞬間アルブライトは目を丸くし、カナは無表情、ガーナードは凶暴な笑みを浮かべた。
「クックックッ、そう来なくてはな!!新入りィ!!」
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「決闘は訓練場の中で行う。魔法、魔剣、何を使っても構わないが、相手に致命傷を負わせるのは反則だ。相手に参ったと言わせるか戦闘の続行が不可能だと僕が判断したら決闘は終わり、でどうかな?」
決闘をするになってから一番早く動いたのがアルブライトだった。決闘には審判が必要らしく、色々と考えているようだった。
「おいおい、そのルールだと俺が魔剣を使ってもいいように聞こえるがそれでいいのかァ?」
「……決闘において使ってはいけない武器は一般的に無いからな。だが、セルスがこのルールに承認すればの話だが……」
アルブライトが困ったような顔でセルスの方を見てくるが、本人はため息を吐いてから言う。
「何を使っても構わない。これは俺の実力を示す為の決闘だろ。俺はお前を倒して実力を示せばいい。簡単なことじゃ無いか」
「おいおいおい。その言い方だと俺が負けるように聞こえるんだがァ?」
ガーナードが少し怒気を含ませながらそう言うとセルスはやけにニッコリと笑った。
「そう言ってるんですよ。分からないんですか?ガーナードさん?」
「………あんまり調子に乗るなよ。クソガキがァ!
」
「はいはい二人とも。それぐらいにして始めるよ」
アルブライトがそう言うと二人とも決闘の位置に着いた。
「ルールは先ほど言った通り。汝らに神々の祝福があらんことを。それでは……初め!!」
先に動いたのはガーナードの方だった。
「こっちから行くぜェ!〈火球〉!!、「〈炎の矢!!〉」
〈火球〉、〈炎の矢〉はそれぞれ火属性魔法の初級と中級魔法だ。ガーナードはそれらを4発ずつ放ち、〈火球〉を囮に使い〈炎の矢〉をセルスに当てる算段なのだろう。だが、
「いつから自分が先に動いたと錯覚していた?」
「なっ!?……」
ガーナードが魔法を打ち終わったと同時にセルスが目の前に現れたのだ。
(俺が魔法陣の構成に周してる間に、俺と魔法陣の間に移動したのか!?)
セルスによる短剣の攻撃を間一髪で避ける。だが、頬からは一筋の血が流れた。
「ちっ、〈火球〉!!」
ガーナードは真下に魔法を打ち、爆風でセルスと距離をとった。
「思ってたよりは強いじゃねェか。移動系のスキルか?少しずつこっちを削ってく気かもしれねェが、種が割れればこっちのもんだァ」
「まだ自分が優位に立ってるとでも思ってんのか?勘違いも甚だしいな。その頬の傷は誰につけられか考えろ」
すずしい顔をするがそれはガーナードも薄々感じていた。セルスから感じる強さとも違う"違和感"を。だが、それは認めるわけにはいかない。セルスの強さを分かっていてもプライドという壁が邪魔をするのだ。
(セルス・オーグメント……。スピードは俺には分がわりィかもなァ。だが!……。)
「これならどうだァ……、〈火球〉!!」
ガーナードは火球の魔法陣を訓練場の真上に散りばめる。こうすればセルスはどう避けようとも火球に当たるだろう。
刹那、訓練場に轟音が響き渡る。あたりには煙が舞っている。
一部を除けば。
「自分の真上には魔法陣をつくらないよな」
「……ッ!!」
気づけばセルスはガーナードの真上にいた。あの一瞬でガーナードの上に魔法陣がないことを確認して動いたのだ。
ガーナードの防御よりも早くセルスは蹴りを放つ。その瞬間、ガーナードの巨体は吹き飛ばされていた。




