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吐く息が白い。
今は初夏だと言うのに、道中でこの寒さならば、中腹にあるという村は一体どれ程の寒さなのだろうか。
やっぱり装備を揃え直してから向かった方がいいのでは・・・
「・・・いや、このまま向かう。」
少しでもいい。“五情の龍”の手掛かりを見つけるために
“五情の龍“が“魔王”と闘い、封印されたという時代から約千年
時折現れる魔物は冒険者や騎士などの退治を専門とする職に就く者達のお陰で、人々は平和な日々を送っていた。
ただ、どんな時代にも突拍子も無いことを考える者は一定数いるようで。
ある一人の馬鹿はこう言った。
曰く、『魔王が封印されている場所には、必ず金やら宝石やらが埋蔵されているらしい。』
ある一人の阿保はこう聞いた。
曰く、『魔王のカケラを倒せば、冒険者ギルドから一生遊んで暮らしても余る程の報酬金が貰えるらしい。』
そして全てを聞いたある一人の間抜けはこう考えた。
『では魔王のカケラを探して倒せば、英雄になれると言うことか。』
かくして、世界中で噂は噂を呼び、魔王のカケラを探すと意気込み、冒険者になる者たちは大勢増えた。
「そう言う訳だから、アンタも冒険者になったんじゃ無いのかい?」
「違います。」
弱々しいランプ複数で照らした小さな居酒屋のカウンターで、女将と未だ雪に塗れた客が話している
「私が探しているのは“五情の龍”です。聞いたことぐらいはあるでしょう?」
「いやいや“五情の龍”だなんて!ガキの頃に婆様から聞かされたことはあるけど、それこそ存在したかしないかも分からないような生物の話を信じて探す方がアタシは馬鹿だと思うけどねぇ」
アンタみたいな可愛い女の子が、こんな山奥の寂れた村に来るもんじゃないよ
やれやれと言いそうな顔で、女将はフライパンを振るう
「・・・それでも、私は“五情の龍”を探さなきゃいけないんです。」
ランプの炎が揺れ、少女の顔を淡く照らす
「へー。そりゃどうしてまた?」
「・・・分からないんです」
「分からないぃ??」
女将はこれまた変なことがあったもんだと聞き返す
「分からないのに探すってのはどう言うことなんだい?ええ?」
「何度もやめようと思いましたよ・・・でも、やめようって思ったら『もう少しだけ』、『探さないといけない』って言う思いが湧いてきて、結局探すことをやめられず、今に至ります。」
「ふーん・・・使命感ってやつかねぇ?」
「・・・・どうなのでしょうね」
そう言って少女は斜め上を見上げて、ぼんやりと思案に耽る
そんな少女の姿を見て、女将はフンス!と鼻息を荒くする
「ま!分かんないことは考えてもしょうがないもんさ。はいっお待ち!」
ごとりとカウンターに置かれた皿には、ふんわりと焼き上がったそれはそれは大きなオムレツが乗り、柔らかな湯気を立てている
「・・・・・!」
少女は一瞬目を輝かせ、フォークを握ろうとしてはた、と止まると両手を合わせて静かに合掌する
「?なんだい?それ」
女将は不思議そうに訊ねる
「食事をいただく時にいつもやっていることです。やらないと落ち着かなくて・・・」
「そうかい。さぁ、熱いうちにたべな!うちのオムレツは絶品だよ!」
「・・・はい。いただきます」
「あとアンタ、今日はウチに泊まりな。二階が宿屋になってる」
「いえ・・・それですと申し訳なく・・・」
「こんな吹雪の中で野宿するのかい?どちらにしろこの村にはここしか宿屋がないから泊まっていきな。一泊銅貨五枚だ」
「では・・・お世話になります」
「ああ、ゆっくりしていきな!」