女性になって告白を
俺は、今までただの友達だと思っていた、小学校からの友達の谷川勇次がなぜか最近、気になっている。
俺は、姉の優理に相談することにした。
俺は、夕御飯の支度をしている姉に、「姉ちゃん。ちょっと相談したいことがあるから、ご飯食べ終わったら、いいかな?」と訊いた。
「何?ご飯支度しながらで良ければ、今訊くよ」と姉ちゃんが言った。
「あのさ。姉ちゃんも会ったことの有る、同級生の谷川勇次っているだろ」と俺は言った。
「うん。何度かうちに遊びに来ているよね」と姉ちゃんが言った。
「最近、俺、変なんだ」と俺は言った。
「変って?」と姉ちゃんが言った。
「俺、勇次の事が気になって仕方がないんだ」と俺は素直に姉ちゃんに打ち明けた。
姉ちゃんは、夕御飯の支度の手を止め、「それって、勇次君を恋愛の対象として見ているということ?」と訊いてきた。
「わからないけど、そうなのかもしれない」と俺は答えた。
「で。優翔はどうしたいの?勇次君に告白するの?」と姉ちゃんが訊いてきた。
「したいけど、勇次がどう思っているかわからないんだ。それに、告白して、気まずくなって、今までの友達の関係が崩れるのが怖いんだ。男の俺が男に告白したら、周りが変な目で見るから。俺が女ならな」と俺は愚痴っぽく言った。
「じゃあ。女になればいい話じゃない?」と姉ちゃんが言った。
「え?性転換手術しろってことかよ」と俺は言った。
「違うわよ。何でも願いが叶うラーメン屋があるって聞いたこと有るでしょ。そこに行って、『女になって、勇次君と付き合いたい』と願えばいいじゃない」と姉ちゃんが言った。
「ああ。噂では聞いたことがあるよ」と俺は言った。
「じゃあ。今度の日曜に二人で行こ」と姉ちゃんが言った。
「わかった。予定を空けておくよ。何だ、姉ちゃんも叶えたい願い事があるのか?」と俺は言った。
「え?まあね。そうだ。優翔。テーブルを拭いた後に、出来た料理をテーブルに運んでくれる?」と姉ちゃんが言って、台拭きを俺に渡した。
「エーッ」と俺は、文句を言いながら、渋々台拭きを受け取り、テーブルを拭くため、台拭きを湿らせ、テーブルを拭きに行った。
日曜日
俺達は、何でも願いが叶うラーメン屋に昼前に入った。
俺達は、注文したラーメンを食べ始めた。
俺は、この間の姉ちゃんの助言通り、『女になって、谷川勇次と付き合いたい』と願った。
「もしかして、君が谷口優翔くんかい?」と店主がテーブルに来て言った。
「そうですが。なぜ俺の名前を?」と俺は、店主に言った。
その声は、いつもより高くなっていた。
「この前、『君が自分を好きになるように』と願った男子がいたんじゃ」と店主が言った。
「それが谷川勇次だと言うんですか?」と俺は言った。
「たぶんの。どうやら、彼は、君が好きだったみたいじゃ」と店主が言った。
「どうやら、相思相愛だったみたいね。良かったじゃない」と姉ちゃんが言った。
「良くない。男の俺を好きなら、女になったら、嫌いになるかもしれないじゃないか」と俺は言った。
「でも、『女の子になって、勇次君と付き合いたい』と願ったんでしょ。だったら、女の貴女を受け入れてくれるわよ」と姉ちゃんが言った。
「でも」と私は不安げに言った。
「この店の力を信じなさい」とお姉ちゃんが言った。
「う、うん」と私は返事をした。
「私の願いも叶ったことだし、早く食べて帰ろ」とお姉ちゃんが言った。
会計を済ませ、私達は、仲良く店を後にした。
商店街に向かって歩いていると、前から勇次君とお兄さんでお姉ちゃんの同級生の勇太さんが歩いてきた。
「あら。谷川君と勇次君じゃない」とお姉ちゃんが二人に気づき、声をかけた。
「よーっ。谷口、買い物か?」と勇太さんがお姉ちゃんに声をかけた。
「うん。谷川君たちは?」とお姉ちゃんが言った。
「俺達は、今日、母さんいないから、昼飯食いに行っていたんだ」と勇太さんが言った。
私は、恥ずかしくてお姉ちゃんの後ろに隠れていた。
それに気づいたお姉ちゃんが、「何、私の後ろでもじもじしているの。話があるなら、堂々と話せばいいでしょ。ほら」と言って、私を勇次君の前に押した。
「キャッ。押さないでよ。お姉ちゃん」と私は言った。
「谷川君。私達邪魔だから、行こうか」と言って、お姉ちゃんは、勇太さんの腕を掴んだ。
「行くって何処に?」と言って、勇太さんは、理解していないようだった。
「もーっ。鈍感なんだから。いいから行くよ」と言って、お姉ちゃんは、私にウインクをして、勇太さんを連れて行った。
「あ。優理さん、兄ちゃん。待って」と言って、勇次君は、二人の後を追おうとした。
私は、勇気を振り絞り、勇次君の腕を握り、「ま、待って」と言った。
「何だよ。兄ちゃん達行っちゃうだろ」と勇次君は言った。
「あ、あの。勇次君」と私は言った。
「何だよ」と勇次君が言った。
「あの。良かったら、私と付き合ってください」と私は頭を下げて言った。
「え?」と勇次君が言った。
「駄目かな?」と私は顔を上げて言った。
驚いた顔をしていた勇次君は、「急で驚いただけだよ。俺も、谷口のことが好きだから、俺で良ければ、宜しく」と言って右手を差し出した。
私は、その手を握り、「宜しくお願いします」と言った。
その後、私達は、喫茶店でお茶して、学校へ一緒に登下校する約束をして、別れた。
勇次君とお茶している時に、お姉ちゃんからLINEがきた。
〈勇次君のお母さんの帰りが遅いなら、夕御飯、うちに食べに来なよと伝えて。もちろん、勇次君だけね〉と書かれていた。
そのLINEは、私が、勇次君と一緒にいるのを知っているような内容だった。
「ただいま」と言って、私は、玄関の扉を開けた。
夕御飯の支度をしていたのか、台所からお姉ちゃんが顔を出した。
「お帰り。聞くまでもないけど、どうだった?」とお姉ちゃんが言った。
「OK貰えた。一緒に登下校する約束をしたよ」と私は言った。
「そう。よかったじゃない」とお姉ちゃんが言った。
「何でわかったの?」と私は言った。
「振り向いたら、手を繋いで歩いていく所だったから。成功したんだなってわかったの」とお姉ちゃんが言った。
「そうだったんだ」と私は言った。
「勇次君が来るんだから、荷物置いたら、手伝ってね」とお姉ちゃんが言った。
「はーい」と私は返事をして荷物を置きに行った。
料理を見て、勇次君が、「少し、豪華ですね?」と言った。
「だって、今日は、二人の交際記念日だから、少し豪華にしたの。勇次君、優奈、末長くお幸せにね」とお姉ちゃんが言った。
「はい」と勇次君が元気良く返事をした。
「うん」と私は、勇次君を見て返事をした。
「勇次君なら、うちに来て、ご飯食べるのは、大歓迎だから。いつでもいらっしゃい」とお姉ちゃんが言った。
「いいんですか?」と勇次君が言った。
「前もって言ってくれればいいよ。ただし、勇次君だけね。谷川君は、連れてこないでね」とお姉ちゃんが勇次君だけという所を強調して言った。
「わかりました」と勇次君が言った。
それから、お父さん達がいる時でも、勇次君は、うちにご飯を食べに来るようになった。
私達の交際は、家族公認となった。
お父さんは、息子が出来たみたいで嬉しいようで、勇次君を気に入っている。
お母さんは、お姉ちゃんが勇太さんと付き合ってくれることも願っているようだが、お姉ちゃんには、その気がないのは、端から見ても明らかだった。