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別の世界ではただの日常です

アンケート

作者: 茅野榛人

 僕は今日で二十歳になる。

 我ながら良くここまで生きてこれたと思う。

 僕は中学生時代、生きる希望が持てず、常に自殺の事だけを考える毎日を送っていた。

 いかに苦しまずに自らの命を奪うことが出来るか……そのことで頭を埋め尽くしていた。

 そんなことばかり考えていたのにも関わらず、僕は今、こうして生きている。

 自殺の事ばかり考えていたことは事実だが、考えるだけで満足していたのだ。

 辛くなったら自殺の事を考えて、満足して、また辛くなったら……これの繰り返しなのだ。

 その為僕は今、こうして生き延びている。

 ただループは消滅していないため、今でもほんの少しだけ自殺願望はある。

 未だに自分が生きている意味は見つけられていないのだ。

 ただ、生きる楽しさは見つけることが出来た。

 周りに溶け込むことだ。

 周りに溶け込むこと、それは独創性を失うことではないかと思うかもしれない。

 しかしこう考えてみるとどうだろうか……独創性は無いかもしれない、しかし独創性を持っている人間より、楽をして生きることが出来る。

 このように考えると、周りに溶け込んで、人生のテンプレートのような生涯を送る方が良いのではないかと思えるのだ。

 僕はこの、いつの間にか思いついていた考えを大切にすることにした。

 僕は有名人にでもなりたかったのだろうか……。

 中学生時代と言えば、頻繁にとあるサイトにアクセスしていた思い出がある。

 サイト名は、『ミリオンアンケート』。

 そのサイトには、様々なアンケートが掲載されていて、アンケートには、住所とメールアドレスを打ち込むと、回答することが出来るようになっている。

 アンケートの掲載期間は全て一週間、それを過ぎると、最も得票数を得た選択肢を選んだ人から抽選で選ばれた一名に一週間以内に、当選を知らせるメールが届き、その後景品が届くのだ。

 当時インターネット上では、サイトには景品と表記してあるが、本当は現金百万円という噂が飛び交っていた。

 アンケートは最大百万個まで掲載され、一つのアンケートの掲載期間が終わると、直ぐにまた新しいアンケートが掲載されるので、実質無限にアンケートが掲載される。

 しかし僕は、自殺願望で頭を埋め尽くしていたためか、当選するはずがないであろう選択肢を選び続けていたのだ。

 案の定当選を知らせるメールは届かず、サイトを見つけてから一年ほど経過した頃、突然サイトは消滅した。

 恐らくこのサイトの突然消滅が、中学生時代の僕にとって、かなりのインパクトだったのであろう。

 今となっては、もう昔の思い出だ。

 そんな思い出を振り返っていると突然、スマートフォンにメールが届いた。

 困惑して暫く体が動かなかった。

 差出人は、ミリオンアンケートだった。

 件名には、『当選のお知らせ』と書かれていた。

 どうして今頃ミリオンアンケートから当選を知らせるメールが届くのだ……それ以前に……ミリオンアンケートは既に消滅しているはずだ……。

 本文にはこう書かれていた。

『この度は当選おめでとうございます! このメールが届いてから十分後に景品が到着します!

 当選したアンケート

 一生飲むことが出来なくなるのであればどれを選ぶ?

 1……水

 2……お茶

 3……コーヒー

 4……ジュース

 貴殿の回答

 1……水』

 あまりにもシンプル過ぎる内容に不信感を抱いたが、書かれていた当選したアンケートの内容は、僕が一番最初にミリオンアンケートで回答したアンケートだったのだ。

 水と回答した事も覚えている。

 しかし当時の僕は、当てないように回答をしていたため、得票数が集まりにくいであろう『水』を選んだのだ。

 なので水という回答が一番の得票数を得るというのは些か疑問を覚える。

 しかし当選したと書かれている以上、水が一番の得票数を得たと考えざるを得ない。

 メールが届いてから十分後、インターホンが鳴った。

 しかし玄関の扉を開けるも、そこには誰も居なかった。

 僕は質の悪い悪戯を受けたと思い、ペットボトルの水を飲もうとした時だった。

 水を口に含んだ瞬間、口の中に激痛が走り、口に含んだ水を全て吐き出してしまった。

 僕は口の中を噛んでしまったのかと思い、鏡で口の中を見てみるも、特に異常は無かった。

 一体さっきのは何だったのだろうか……。

 そこで僕はふと、あのメールを思い出した。

 まさか、水を一生飲めなくなっても良いと回答したから、本当に水が飲めなくなったのだろうか……いや……流石にそれは有り得ない……有り得ない……。

 そう思い、心を落ち着かせながら床を拭いていると、再びメールが届いた。

 そのメールは、またしてもミリオンアンケートからだった。

『この度は当選おめでとうございます! このメールが届いてから十分後に景品が到着します!

 当選したアンケート

 一生触れることが出来なくなるのであればどれを選ぶ?

 1……パーソナルコンピューター

 2……携帯電話

 3……ゲーム機

 貴殿の回答

 2……携帯電話』

 本文に書かれているアンケートに答えた記憶はある。

 当時の僕は確かパーソナルコンピューターが一番の得票数を得ることが出来るのではないかと踏んだのだが……。

 しかし今度は事前に玄関で犯人を待ち伏せすることにした。

 十分後、犯人が現れる様子はない。

 待ち伏せされていることに気が付いて怖気付いたのか?

 その時だった。

 勝手に僕の家のインターホンが鳴った。

「うわ!」

 僕は声を出して驚いてしまった。

 犯人は透明人間なのか? いや有り得ない!

 僕は再び家に入り、届いた二つのメールを消そうとスマートフォンに触れた時……触れた手に激痛が走った。

 痛みは先ほど口の中に走った痛みと全く同じだった。

 僕は焦り始めた。

 当選を知らせるメールに書かれている事が現実になってしまう。

 適当に回答したが為にこんな思いを……。

 しかし……当時の僕は当てるつもりが毛頭無かったのだ……なのにどうして当選する……それも僕が回答して行った順に……。

 呼吸が荒くなり、怯えていると、三度目のメールが届いた。

 激痛に耐えながらメールを見る。

 ミリオンアンケートからだった……。

『この度は当選おめでとうございます! このメールが届いてから十分後に景品が到着します!

 当選したアンケート

 死に方を選べたらどれを選ぶ?

 1……窒息死

 2……失血死

 3……溺死

 4……感電死

 貴殿の回答

 1……窒息死』

 これは……当時僕が唯一真面目に回答したアンケートだ……どうして忘れていたのだろうか……。

 暫くして、インターホンが鳴った。

 すると突然家中の水道から大量の水が噴き出してきた。

 慌てて逃げようとしたり、水を止めようとしたが、家中の物全てがまるで空間を固定されているかのように動かず、外には出られず、外に流れる事無く家の中に水が溜まって行く一方だった。

 嘘だろ! 死に方を選んだだけで今すぐって言う訳ではない! どうして僕がこんな目に遭わなければならないのだ! ふざけるな! それに……僕は窒息死を選んでいるのに……これでは溺死してしまうではないか! 誰か! 助けて! 助けてくれ!


「それにしても奇妙な事件だな……」

「ですよね……首周りに跡が無くて……口の中にも傷が無いのに……」

「窒息して亡くなっている……それもガイシャの誕生日に……」

「これ見て下さい!」

「何だ?」

「死亡推定時刻に、ガイシャのスマートフォンに届いたメールなのですが……」

「ミリオンアンケート? なんだそれ」

「私も気になって、差出人のメールアドレスを調べたのですが、実在しないメールアドレスでした」

「え? 気になるな……」

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― 新着の感想 ―
[一言] テンポが良く一気に読み終わりました。残酷なお話は苦手なのですが、その様な箇所もなく面白く拝読いたしました。
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