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こっくりさんに怖い話させてみた

「ヒロ、なんか超怖い話ない?」

 人気のない図書室の一角。僕らはいつものように暇を持て余していた。目の前の机には「あなたはこの恐怖に耐えられますか」などと銘打たれた怖い話傑作選やら有名な怪談師の著書やら世界の呪い図鑑やらが散らばっている。

 夏も近づく八十八夜。気温だけが夏を先取りした五月の始め。納涼のためでも好きな子とのつり橋効果を狙うためでもなく、僕らはただただそういう趣味で古今東西の怖い話を収集し、これ面白いこっちはダメとシビアな論評を繰り広げ、そして現在、深刻なネタ切れに悩まされていた。

「ないよー、だってもうネットにも図書室にも知ってるやつしかないし」

「じゃあなんかして遊ぶ? ひとりかくれんぼとか、こっくりさんとか!」

「あきた」

「えーじゃあどうする? ヒロ、アイデア出してー」

「タクミも考えなよー」

 タクミがうんうん唸りながら机の周りを回りだす。僕も頬に手を当てて、良いネタはないかと思案する。

 僕らは飢えていた。真新しいネタを求めていた。図書室のホラーなんて生ぬるい。ネットの話は見尽くした。となれば後は、自分で考えるしかない。

「うーん、難しいな……二十人かくれんぼとか、……口裂け女にてけてけの怪談喋らせるとか、うーん」

「それだー!」

 タクミが突然、全人類の鼓膜を破壊するような声量で叫んだ。そしてがっはっはと高らかに笑う。

「それだよ! 組み合わせればいいんだわ。かー、さすが俺」

「え。なになに」

「こっくりさんに、怖い話させよう!」


「はてさて。ろうそくとライターと十円玉、あとひらがなローマ字とかいろいろ書いてある紙。準備万端」

 放課後の教室。タクミが用意した数々のブツを横目に、遮光カーテンを閉めていく。てきぱきと準備を進め、二分とかからずに前も後ろもわからない完全な暗闇が完成した。

ライターの金属音と共にタクミの顔が闇に浮かび上がる。悲鳴を上げる僕を無視してろうそくに火を移しながら、タクミは上機嫌に微笑んでいる。

「じゃあ始めるか」

「でも、本当にこっくりさんって怖い話してくれるのかな」

「聞かれたことに何でも答えてくれるわけだから、大丈夫だと思うよ」

 ろうそくの乗った机を挟んで向かい合う。机の中央、ゆらゆらと揺れる橙の火が二人を鮮明に、教室中を淡く照らしている。

「こうしてみると結構雰囲気あるな……」

 タクミがぶるっと体を震わせる。

「ビビってんの? 珍しいね」

「ヒロ、悪い」

神妙な表情を浮かべる。

「うんこ」


「タクミがあんなに面白いとは珍しい……」

 五分たってもタクミは戻らなかった。どうやらかなりの難産らしい。

「……先にはじめちゃうか」

 にやり。僕は半分ほど燃え尽きたろうそくの前に座り、汚れた十円玉に指を乗せた。先手必勝だ。

「こっくりさんこっくりさん。あなたが知っているとっておきの怖い話を教えて!」

 ずずず、と十円玉が動き出す。まるで意思をもっているかのように、それでいて不気味なほど静かに、ゆっくりと移動する。最初は「ひ」に止まった。次は……「ろ」。さらに「き」、「い」、「て」と移動する。

「ひろ、聞いて……?」

 怪談の始まりらしからぬ文章だ。なにか間違えたか? これじゃまるで、僕に何かを聞いてほしいような……。

 き、の、う、と十円玉は緩慢に動き続け、時間をかけて短文を生成していく。

『きのう ひとりでこっくりさんをした』

「──昨日? ……誰が?」


『じゅうえんだま てをきった ちがついていた』

「十円玉? 血がついてた? 意味が分からん」


『それで いれかわった』

「入れ替わった……? 誰と誰が? 血のせいで?」


『いまのたくみ べつじん』

「……」

 生唾を飲みこむ。……そういえば。今日のタクミはいやに冷静だった気がする。それに元々ギャグなんてするタイプでもないし。そう、言ってしまえば、まるで別人のような──


『ひろ にげて』

「そんな……嘘だろ? 逃げるったってどこに……」


『はやく』

 けたたましい音を立てて引き戸が開いた。心臓が跳ね、目がくらむ。強い光で細まった視界の中、一人の男が僕の方へまっすぐ歩いてくるのが分かる。

「あー、勝手に始めるなよな。抜け駆けは校則違反だろうが。いやー、でも悪いな、めっちゃ時間かかっちゃって。トイレが壊れててさ、職員室まで行って先生呼んでから別のとこでうんこしてた」

 言いながら、タクミは消えかかったろうそくを新しいものに取り換え、教室の戸を閉める。部屋の明かりはろうそくだけ。そしてまた向かい合って座った。

「……で、こっくりさんからはなんか聞けた?」

「いや……何も」

 僕の答えからわずかに間が空く。恐る恐るタクミの表情をうかがうと、先程と変わらぬ微笑がろうそくの火に照らされていた。

「ふーん、やっぱ二人でやるものだもんな。それじゃ、始めようか」

 そうだね、と答えつつ、僕は胸をなでおろした。タクミがいつもより冷静に見えたのはきっと気のせいに違いない。普段とキャラが違うのはたぶん漫画にでも影響されたんじゃないだろうか。

 もしかしたらあれが、こっくりさんの考えたとびきりの怖い話だったのかもしれない。流石はこっくりさんだ。今まで聞いたどんな怪談よりも怖かった。今日の夜はトイレに行けないかもしれない。

 タクミがろうそくの向こうでにやにやと笑いながらこっちを見ている。どうせ何かバカバカしいことでも思いついたんだろう。

「どうした?」

「ちょっと提案があるんだけどいいかな」

「へー、なに?」

「……十円玉に血をつけてやってみないか。やべーことが起こるんだって。面白そうだろ、一緒にやろう。俺の血はすでにつけてあるから、ほら、手出して……いいだろ、ちょっとちくっとするだけだって。なんでそんなに嫌がるんだよ……あ、」

 ろうそくの火が消える。

「──もしかして、聞いちゃった?」


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