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召喚者アルマド

 ◆


 しからば、とアルマドが魔法陣の上に立ち、ハルバードを構えた。その場の者達はこれから何が起こるかを理解している。


 闘舞が始まるのだ。


 闘舞とは魔法詠唱と近接戦闘の身のこなしを一体化させた非常に難易度の高い業であり、これを十全にこなす者は戦場の支配者となる。


 特殊な身振り、手振り。足の運び。

 これらは1つ1つに意味があり、組み合わせる事で魔法を成す。それを近接戦闘をする際に行う事で、ただの打拳が焔を纏い、蹴りが風刃を生む…そして剣を振るえば紫電が迸り、敵を焼くのだ。


 一応技術として体系化されてはいるものの、これを十全に操ることができるのは王国広しといえども騎士団長アルマド・ゴアただ1人。


 純戦闘能力では紛れも無く王国最強であり、先日も魔王軍の四天王…確か火の四天王とやらが急襲してきた際も、ものの12秒で五体をバラバラにしてしまった程だ。


 アルマドは、その巨体に似合わぬ軽やかさでステップを踏んだ。身体は、風に舞う葉のように、その動きは絶え間なく流れる水の如く滑らかだった。


 ――Hard, big, strong, a man among men


 足はまるで影のように地面を滑り、その場に居た魔術師達はムウだとかウオオだとか呻きだす。

 なぜならばアルマドの足の動きに注目すると、その足の運びが複雑な魔法陣を描き出していたからだ。


 ――his figure exudes supremacy and radiance


 アルマドの闘舞は、まるで夢幻の世界を創り出すかのような幻想的な雰囲気を漂わせていた。


 ――A believer in the power!!


 アルマドの全身から光の粒子が舞い散る。


 ―― To destroy all who oppose him…A warrior among warriors


 ・

 ・

 ・


 魔法陣が鈍い銀色に輝き、銀光が召喚の間に満ちた。

 光の中から現れたのは…


挿絵(By みてみん)

『……ガガガ…ワ、タシハ…人型殲滅兵器T9999…コノホシ、ヲ…環境汚染ヨリ…マモル、マモル、マモル…ヒトヲ殺シテ…マモル、マモル…マモル…人類殲滅プロトコルを適用…ガガガガ…』


 T9999を名乗る銀色のますらおは、不穏な事を言うなり両の腕を広げた。


 その両手に光が収束していく。

 この場の者たちは知る由もないが、T9999は行き過ぎた環境保全思想の最終形態である。

 つまり、環境を守るためには人間を滅ぼしてしまえばいいという思想のもとに設計された。


 従って彼が出来る事は人類殲滅のみだ。

 両手に光が収束していくが、これは人類殲滅レーザーのチャージである。


 その最大出力は9億2400万メガワットを誇り、これは柏崎刈羽原子力発電所1号機から7号機の総出力を大きく上回る。具体的にいえば11万2546基分の出力となる。


 これが放たれれば、魔王、魔王軍はおろか、人類生存圏にも、いや、この惑星に深刻な傷痕を残すだろう。


 ・

 ・

 ・


「そうか…失敗したか。では帰っていいぞ」


 アルマドが残念そうにいい、T9999は送還された。

 魔王は斃せそうだったが、世界が滅んでは余り意味はないからだ。


 ◆


 ゲーリックは拳を握り締め、歯を食いしばり、アルマドの業前を内心で賞賛した。


 呼び出したものはちゃんと仕事してくれなさそうだったので失敗扱いとはなったが、それはそれであれ程の存在を呼び出すというのはアルマドの魔法の才覚が極めて優れている事を意味する。


 プライドの高いゲーリックにとってそれは苦痛でしかなかったが、真のプライドというのものは他者の業が優れていたならば賞賛するだけの度量を持つ。


 詠唱鍵を口に出すのではなく、肉体で表現するという絶技はゲーリックをして模倣出来ない。


 ――しかし、“今は”という条件が…つくッ…!


 だがゲーリックは賞賛し、この場での敗北…そもそも勝負などはしてないが、敗北を認めながらも、未来はそれを覆すことを心に誓った。


 悔しさと賞賛がないまぜになった感情を持て余すゲーリックだが、不意に王都に接近しつつあるモノの気配に気付くと、おもむろに魔法を詠唱し始めた。


「Concept art of Magic!」


 ゲーリックが拳を天に突き上げ、高らかに宣言する。

 “Concept art of~”の詠唱鍵は最初に宣言する事で魔法の発現をある程度安定化させる。

 さらに、発現する魔法の品質…規模を高める効果をも持つ。


 これは彼がそれなり以上には本気であると言う証だ。

 女王やクラリス、他の重臣達は表情に驚きを浮かべた。

 なぜここで魔法を?という表情だ。


 なぜならば詠唱鍵の種類からして、勇者召喚の魔法ではなかったからだ。


 そして続く詠唱鍵に表情を青褪めさせた。


「Stars shining in the sky… meteor showers pouring down, bursting down to earth, meteo strikes, great magic…--ar 16:9!」


 なぜならば、ゲーリックが並べている詠唱鍵から分かる事は、行使されようとしているのは彼の攻撃魔法の中でも上位に位置する戦略級魔法…その名も“流星”だったからだ。


 しかもただ詠唱をしているだけではない。

 “--ar 16:9”という詠唱鍵までも使用されている。

 これは魔法を拡大する効果を持つ詠唱鍵だった。


 つまりゲーリックは広範囲に隕石の雨を降らそうと考えている…と言う事になる。


「ゲーリック!!一体何をッ!?」


 女王が問いただすがゲーリックは答えない。


「まさか貴方…この王国をッ…!?」


 女王はゲーリックの裏切りを疑った。

 これは当然の疑念であった。

 ゲーリックがどれ程の規模の流星群をよんだかはこの時点では分からないが、それが王国の領土を傷つけるであろうことは明白だったからだ。


 女王は近衛を招集しようとし、そして口を噤んだ。

 足音…それも沢山の足音がしたからだ。


「きゅ、急報!!!魔王軍が…侵攻中との由!大軍です!軍を率いているのは魔王軍四天王、風魔将デスサイクロンとの事!」


 伝令の兵士達の絶叫が響き渡る。


 風魔将デスサイクロンは魔王軍四天王でも知将として知られており、個としての能力より、軍勢の指揮能力に定評がある。知将デスサイクロンが軍を動かすと決めた時は、敵を確実に皆殺しに出来るという算段が整った時だ。


 だが…


「終わった」


 ゲーリックが静かに次げた。


 そう、終わったのだ。

 王国魔法師団長ゲーリックは索敵結界を王国全域にひろげている。如何なる手段であろうとも彼の感知を逃れる事は出来ない。


 風魔将デスサイクロンが王国領土に踏み入れた時点で、ゲーリックはそれを感知し、魔王軍に星を降らせた。


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「おお…星が、ながれていく!」


「これが王国魔法師団長の力!」


「これで時を稼げたぞ!勇者様を召喚すれば…我等は魔王軍に勝てる!」


 王国民達は空を流れる星々に希望の煌きをみた。

 なお、風魔将率いる魔王軍は壊滅した。


 そしてこの時、伝令の兵士はふと思った。


(もしかしたら勇者召喚なんてせずにこの人達が普通に戦えば…魔王を斃せるのでは?)


 彼の名はトム。

 何のとりえも無い平凡な兵士である。

 しかし王国広しと言えども、真実に気付いているのはこの時点で彼1人だけであった。


 ◆


「やれやれ。皆情けないわね。業が雑なのよ。私が召喚してあげる。真の勇者をね。従順な猫ちゃんみたいな勇者をよんであげるわ」


 揶揄するような声が召喚の間に響き渡る。

 女王が、ゲーリックが、クラリスが、アルマドが、他の者達も声の方を向いた。


 そこに居たのは王国直属暗殺部隊“毒猫”の長、プリン。

 かつて領土拡張主義に染まり、周辺諸国に喧嘩を売りまくっていたサディスティックという名の暴力国家があった。


 ノウベル王国の隣国でもあるその国は、当然の如くノウベル王国にも侵略の手を伸ばしてきたが、プリン毒猫長は単騎でサディスティック王国の侵攻軍3万を3日3晩かけて皆殺しにしてしまった。1日あたり1万人殺したのだ。


 紛れもなく怪物である。

 そんな彼女は体術は勿論の事、魔法にも造詣が深い。


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