随分長い事晦まされていたようです
「あのー、クロマさん。とっても興味津々な事を尋ねてもいいですか?」
「はい。何でしょう?」
「どうしてここで宿屋をやろうって思ったんですか?」
「えっと、それは……」
返答に詰まってしまうクロマさん。
やっぱりおかしい。
この町に来て八年? その間ずっと人目につかないところで宿屋をやるなんて。
すると……クロマさんの影にぽこりと目のようなものが出てきました。
「おい。変な質問するな。こいつの頭が疲れるだろ。ウキャキャ」
「ななな、何か出た! お化けだーー! 悪霊退散!」
「お前、何言ってんだ。俺がクロマだよ」
「はい?」
「だから、俺がクロマの本体だって」
「わ、わわ、私ちょっと嫌な予感がするからお布団に入って耳を塞いでいていいかしら」
「ずるいですぅ、おいてかないで! 私も怖いですぅ!」
「びびび、びびるこたぁねえよ。やや、やつは実体があるじゃないかほらぁ!」
俺たちは大パニックです。サルサさんと地雷フィーさんは既に尻を向けながら
逃げようとしてやがります。
そいつは影から目を出して喋り出した途端、クロマさんは遠くを見るような
表情をしているように見えるけど、俺は全然これっぽっちも全くびびびびったり
していません。
尻尾の毛がふわぁーーーっと逆立ってたりしますけど全然で全然なゴラァンタ
さんです。はい。
「はー。全く人間に合わせてやってるのにどっこらーいと。
んで、何でこんなとこで人間が宿屋やってるかって? その方が面白いからに
きまってるだろ。人間が遊びに来ないじゃんか。ウキャキャ」
「つまり、この町に人間はいない?」
「いいや、あれは正真正銘人間だ。シローネの方にもさっき話した奴はいるぞ。
あっちに宿屋があるのも間違いねーよ。辺境伯が言う怪しい集団ってのは
実は知ってる。でも知らない方がいいと思うから知らんぷりしてたのに。
本当に知りたいのか?」
「そりゃ仕事ですもん。びびってないけどちゃんと仕事はやりますよ? びびって
ないけど」
まさか体を乗っ取って宿屋をやってたんだろうか。
抜け殻クロマさんの表情が危険だよ!
「あ、あの。クロマさんは平気なんですか? 無理やりここで仕事させてるんですか?」
「無理やりなわけねーよ。あいつ、ちょっと脳以外が壊れててうまく喋れ
ないしうまく歩けないんだよ。だから代わりに楽しく暮らしてやってるのさ。
他にこの町で住んでる奴もだいたいそうだ。俺たちが動かしてやらないと動け
ないんだ。そのままじゃかわいそうだし死んじゃうだろ。お前たちがいう怪しい
集団っていうのはな。そういったやつらをここへ捨てに来る奴らだよ」
滅茶苦茶いい奴じゃないかクロネ族! びびってごめんなさい。本当に。とっても。
そっか。捨てられた人を助けてあげてるのか。
つまりクロマさん本体は……体が不自由な状態ってこと?
それをちゃんと動かせられるなんてすごい! クロネ族!
「それじゃ、今回の調査っていうのはそれを報告すれば……いや待ってください。
集団って聞いたんです。何かよくない組織がって可能性もあるんですよね」
「どうしても調べたいならそうだな……お前とそっちの召喚獣。
お前たちの影になり、その場所に案内してもいい。人型はやめとけ」
「わわ、私はそもそも遠慮しようと思っていたし何も聞いてないから
シロン頑張って!」
「ニャガ!? ニャニャ、ニャトルの影に入る何てそんな恐ろしい事
転生神様が許すはずないニャ!」
「んじゃ決まりだな。俺はクロネ族のクロマ。コゲクロをニャトルって奴に
入ってもらって俺はお前に入るぞ」
「シロンさんのご冥福、お祈りしてますぅ……」
「死んでないよ! むぅ……これは確かめに行くしかないようですね。
わかりました。俺の体、使ってやってください!」
原因を探るべく、俺とニャトルはクロネ族が影に入り、調査を開始することに
なりました。
はてさて、どうなるのか。それよりご主人たち、どこぉ!?
「早く調査してきてよね」
「サルサさんと地雷フィーさんだけ寝てるなんてずるいです!」
「きっと夜、お化けが出るニャ。そうに違いないニャ」
「そもそもずっと夜なのよねぇ……」
「ニャガ!?」
「でも、クロマさんが影に入ったら、シロンさんどうなるんですかぁ? 気になりますぅ」
また来年!?