魔道具屋さん
ショートの町に戻った俺たちは、さっそくギルドにゴブリン退治報告をした。
「はい、ご苦労様です。報酬はこちらに」
「ありがとうございます! それと報告なんですけど、ジルジラが出たんです。
冒険者に注意を呼び掛けてもらっていいですか?」
「この近辺にですか? 皆さん全員無事で!? 信じられない……すぐ警告用の張り紙を出します!」
「かなりの大型なので、それも書いておいてください! やっぱりこの場所でジルジラなんて
普通でないのよね。魔術ギルドにも伝えに行かないと。私、ちょっと行ってくるから。あんたたちは
魔道具屋に行ってて」
「うん! お宝、鑑定だね!」
「さっきの珠、使えなければ売って金にしてドラゴンキラーを買いましょう!」
「ニャ!? ドラゴンと戦うつもりニャ! こいつバカなのかニャ?」
「言ったろう。俺の腕力は五十三万だ」
「ばかめ。ドラゴンに腕力でかなうはずが無いニャ」
「まぁそうだよなー。飛んでたら殴れないしなー」
「うんうん。シロンちゃんもドラゴンと戦いたいのね。わかったわ、近いうち戦いましょう!」
「すみませんでした! 冗談、冗談ですって! 瞬殺どころか鼻で笑われて鼻息一つで
オシマイですから!」
「くっくっく。自業自得ニャ」
「さ、魔道具屋に行くよ! ついてきて!」
「まずい、ご主人がまるで聞いていない。俺の命もドラゴンまでか……」
とぼとぼと歩きながら魔道具屋とやらに向かう俺たち。
しばらく歩くと【ウサデンでんごろー】と書かれたお店があった。
「おい名前。誰が考えたんだこれ」
「どういう意味ニャ?」
「すいませーん。誰かいませんかー?」
「お前ら誰だウサ」
「うおー、びっくりした! え? うさぎ?」
「兎人族がそんな珍しいウサ?」
「別に珍しくないニャ。ニャトルの方がはるかに珍しいニャ」
「喋る魔獣ウサ? これは珍しいウサ」
「あのー、鑑定をお願いしたいんですけど!」
「鑑定より前に兎人族って何ー? 気になるよー」
「亜人も知らないのかニャ? 無知な奴め」
「聞いた事はあるけど見たことなんてないぞ。しかし亜人ていうより……」
そう、目の前にいるのは巨大な二足歩行兎。でかくて二足歩行で喋るという以外は兎だ。
人参をプレゼントしたら仲間になってくれそうだよ?
「鑑定に銅貨二枚もらうウサ。いいウサ?」
「はい、これ」
「ほう、なかなかいい魔珠だウサ。では早速……いくウサ……でんでんごろごろでんごろー。
ごろごろピョンピョンウサ魔珠鑑定!」
「それ、最後の魔珠鑑定以外いらなくない!?」
「……終ったウサ。真水の魔珠中と出たウサ。買い取るなら金貨一枚と銀貨二枚ウサ」
「鑑定が銅貨二枚だからぼろ儲けです、ご主人!」
「ど、どうしよう。私お金の事よくわからないのよ。サルサぁ……まだぁ……」
「どうするウサ。決めてほしいウサ」
「一端返してもらって後で決めればいいだけニャ。頭の回らない子ニャ」
「それだ! ニャトルちゃん、頭いい!」
「それじゃ返すウサ。他に無ければもう店を閉めるウサ」
「特にないウサ。さらばだウサ」
「真似しないでほしいウサ……そういえばこのホワイトウルフも喋ってるウサ……」
「ふっふっふ。我が名はシロン! 偉大なるハンディウルフィにしてウルフィ族最高の魔法を使えし者!」
右目に前足をピースもどきで当ててポーズを決める俺。あ、後ろ脚だけで立つのはつらいよー。
「砕け! えくすぷろー……」
「あ、鑑定終ったの? どうだった?」
くっ。またも詠唱を遮断されたか。やるなサルサさん。
「真水の魔珠中だって。どうしたらいいかな。売ると金貨一枚、銀貨二枚らしいんだけど」
「真水かー。あんたには使えないしこの子らにも使えない。私も水はパスね。そうだ! 欲しがってる
やつがいたからもう少し高く売れるかも。明日そいつも連れてダンジョンに行くわ。紹介する。
結構いいやつなのよ」
「本当? じゃあ明日は私とシロンちゃん、ニャトルちゃん、サルサにその人で五人パーティ!?
やったー! 今から楽しみ! ……お腹空いたなぁ……」
「そうね。それじゃ今日はいい店紹介するわ。外で食べましょ」
宿屋に戻るのかと思ったら思わぬ外食。これはまさか……ついに!
しばらく歩いたところに一件のお店。そう、これを待っていたんだ。
居酒屋【俺たちの楽園】
看板にはそう書かれている。おお、楽園! ここが楽園か。しかしお酒は飲めない。
でも雰囲気を味わえるぞ! いくぜ野郎共!
「あら、サルサじゃない。あんたが言ってた幼馴染ってそっちの可愛い子?」
「そうよ。ルビニーラ。召喚獣が二匹いるけどいい?」
「ええ。その子たちも立派な冒険者でしょう? 大歓迎よ! いっぱい注文していってね!」
「そんな食べれないし駆け出しだからお金も無いって。カーチェル、あっちのテーブル使っていい?」
「うん、平気よ。私も後でテーブルに座るからよろしくー」
「はいはい。ちゃんと仕事もしなさいよね」
おお、いい雰囲気。酒場娘とのやり取りが実にいいです、サルサさん。
俺はさっさと言われた方向のテーブルに向かう。よし、あの席だ……と思ったらニャトルめ!
「ふっふっふ。ここがニャトル様の席ニャ! 特等席ニャ!」
「ちっ。こいつ猫まっしぐらの効果か!? 随分と早くなりやがった」
「そういえば二人共レベル上がったんだよね。少しは能力増えたのかな?」
「いやご主人。それはもう少し先の楽しみにしましょう。レベルが十になったらで」
「そうね。そんな頻繁に鑑定するほど、高いレベルじゃないし。どうせ大したことないわよ」
「クッ。だがその通りだ。俺にはまだ魔王は倒せない」
「魔王なんて一生かけても倒せないわよきっと……」
「なにー!? この世界の魔王はそんなに強いんですか? というかいるんですね本当に!」
「ええ。変わり者の魔王ならそれなりの数いるわよ」
「なんと魔王が複数体? いや、魔族の王様が何人いてもおかしくはないか……」
「一番近いところでこの町の北にいるわよ」
「はい? 魔王が町の北? 突然町が襲われるイベントフラグですか?」
「何言ってるのよ。魔王が町を襲撃するわけないじゃない。そんな事したら交易が成り立たないでしょ?」
「はい? 交易?」
「あんた、本当に何も知らないのね……魔族は作物を育てる能力がないのよ。だから人族を利用しないと
食糧事情なんかに大きく支障をきたすの。知恵のある魔族程上手く人族と交渉するわ。
だからこそ魔法も使役可能になるのよ」
「共存共栄の関係なんですか。知らなかったー」
「ふん、無知な輩ニャ。それより魚料理はまだニャ?」
「まだって……まだ何も頼んでないわよ」
「ニャーん……お腹すいたニャ……」
「はいはいお待たせ―。注文取りにきたよー」
「それじゃこれと……」
その夜はこの店で大騒ぎ。俺もせっかくなんで冒険者の皆さんに一発芸能力を披露して気に入られた。
やっぱり酒場は楽しい! 笑いあう冒険者と肩を並べ、調子にのって酒をぺろりした俺。
冒険の後はこうでなくちゃね!