ゴブリン退治
「ついにこの俺、シロンが伝説の勇者になるときがきたな」
「何言ってるニャ。勇者って何ニャ。勇ましい奴の事かニャ?」
「何を言ってる。勇者ってのは勇気があるやつの事だぞ。ひと様の家のタンスをあさったり
その辺のツボをぶち割ったり、コワモテのおっさんにパフパフされたりと忙しい奴のことなんだ」
「ただの変質者じゃないのよ! あんたそんなのになろうとしてるわけ?」
クッ。こいつらはわかっていないようだ。勇者とは伝説に残る偉業をなすもの。
そう、俺が並べ立てたものはどれも伝説に残る。
汚名という名の伝説がな!
「それはいいとして、この草原、なんていう場所なんですか、サルサさん」
「シロップ草原っていうのよ。そういえばあんたみたいな名前ね」
「そんな甘ったるい名前じゃありませんよ! でもシロップが手に入ったらお菓子の材料になるなぁ」
「みんなーーーー! あっちにゴブリンいたよーー! こっちにきてーー!」
偵察に行っていたご主人が戻って来た。本来偵察って召喚獣の役目じゃないの? とも思ったけど
俺もニャトルもまだまだ弱い。偵察の機能は果たせないだろう。
「そういえばゴブリンって弱いんですよね?」
「弱いけど、基本は集団で生活しているのよ。だから場合によってはとても厄介で、冒険者も
苦労したりするわね。範囲攻撃がないと、一匹ずつ倒さないといけないでしょう? 戦士なんかはあまり
戦いたがらないわ。服とかも汚れるし」
「へぇ。一杯いるって聞いて、すごーく嫌な予感がするんですけど」
「あら奇遇ね。私もだわ」
「ニャトルもそう思うニャ」
三人ででかいため息をついた時だった。
「キャーーー! 見つかっちゃったーーー! 助けてーーーー!」
「……早速だよ。ほらサルサさん、ゴーなのです」
「あんたが行きなさいよ! あんたのご主人でしょ!」
「おうちに帰りたいニャ。今日の魚が恋しいですニャ」
こちらへ駆け込んでくるご主人。後方に土煙が見えます。そんな馬鹿な。
「あのー、土魔法とか使えないんですか? サクというか堤防というか」
「土魔法、覚えてないのよ。火と水と風は使えるけど」
「一杯いるニャ! パッと見ただけでも二十はいるニャ……あわわわ」
「ゴブリンの弱点教えてください!」
「あいつらは火が苦手よ! トレントと似てるわね。何かいいアイデアないの?」
「音とかにもびびりますか!?」
「ビビるわ! 急いで!」
「シロンちゃーーーん! 助けてーーー!」
「あんたはどうして毎回突っ込んでいくのよ! 今度からシロンに偵察行かせるから
おとなしくしてなさい!」
「だってー、見に行きたくなっちゃったんだもーーーん!」
「ええい、ままよ! 出でよ、ロケット花火の束! わずか二百円足らずのものなら呼べるだろう!」
ぽとりとロケット花火の入った袋が落ちてくる。
「サルサさん! この袋の中の棒の部分を持ち、ゴブリンに向けて……こないだの
ライターで着火してください!」
「わかったわ! こう? 何かシュルシュル言ってるけど」
「導火線が本体に近づいたら手を放してください!」
「わかった! うわっ!」
ヒューーーーと音を立ててゴブリンに炸裂するロケット花火。次々と火を付けて飛んでいく。
ゴブリンたちは攻撃されたと思い大パニック。逃げ出す者が多数。
「いまだ、いけ! ニャトル!」
「ニャニャーー! 私の出番だニャ! ニャゴパンチ!」
しかしゴブリンには効果が無かった。
「ニャゴキックにゃ!」
しかしゴブリンに効果が無かった。
「猫だましニャ!」
ゴブリンは既にパニックだ! 効果が無かった。
「おい、せっかくのチャンスを無駄にするな。真面目にやれ!」
「私の攻撃、全然効かないよー。エーン」
「ニャトルの武器になりそうなものを召喚しないと、こいつが役に立たなすぎる……しかしロケット花火
でだいぶ魔珠を使ってしまった……ん? 戦わせるってより引き付けさせればいいのか。素早いし。
「出でよ小さい紐! ……よーし、サルサさん。お昼用に持ってきた干し肉一個ください!」
「はい! 何かいい案があるのね?」
「ワンハンド! ニャトル、ちょっとじっとしてろよ……ここをこうして。よし出来たぞ」
ニャトルに干し肉をくくりつけた俺。ちょっとやそっとじゃはずれない。
「これでどうするニャ?」
「走ってくれ」
「ニャ?」
「走ってくれニャ」
「真似するニャ! ……何かゴブリンがこっちをおいしそうにみてるニャ」
「テッ、テッテッ、ピーーーー! レッツゴーニャトルーー!」
「ニャーーーー! 迫って来る、迫って来るニャーー! ゴブまっしぐらニャ!?」
ぴゅーと勢いよく逃げるニャトル。十数匹のゴブリンに追い掛け回される……が、速い!
なんという速さだニャトル。これはあれにちがいない。
「いい技を手に入れたじゃないかニャトル。間違いない。猫まっしぐらの効果だ。パフ技だったようだな」
「絶対使い方間違えてるニャーーーーーー!」
「よし、今のうちにこっちのゴブリン倒すよ! ……燃え盛る大気の熱よ。
万物を焼き尽くしそれらの身を滅ぼせ! フレイムウィップ!」
「合わせるよ、サルサ! 空を漂う空気よ。万物ありて吹き荒れる風とならん。
導くは突風となり対象に吹き荒れろ、ストロングウインド!」
二人の攻撃が重なり、広大な範囲を覆う火となった。おお、一杯倒したぞ! 二人とも凄い!
でも詠唱中に殴られたら中断されそう。だから召喚獣が引き付けて……あれ?
あんまり俺たちは盾になれない召喚獣な気がするなー。
そうすると本来呼び出すのは盾になるような物や者がいいんじゃ?
頭に入れておこう。
結局一匹も自力で倒せなかったよー。そういえばニャトルは何処行った?
「おーいニャトル、戻ってこーーい」
「あそこにいるわ! 木の上で滅茶苦茶くつろいで休んでる!」
「あれぇ? 追っかけてったゴブリンはどこー? ……こっちへ来たーー!?」
「まずいです。もう魔珠がありません後よろしく」
「あんたら、本当に役にたたないわね!」
結局もう一度ご主人とサルサさんがゴブリンを退治してくれた。
俺たちの活躍はまだまだ先になりそうです。はい。