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シロンはパン屋を営みたい……

 大会の賞金をもらうために、マードラ商会とやらに向かった俺たち。

 そこは大きい……屋敷っていうより城みたいなものでした。

 

「ここが私の家です、ルビニーラ様!」

「マードラ様、私ここに住んでもいいかしら?」

「ちょっとサルサさん。突然何言ってるんですわん?」

「だって見てよこれ。この門、アダマンタイトで出来てるわよ? 門に加工するだけでも大変なのに。どんだけ金持ちなのよ!」

「私、様って言われるの嫌だなぁ」

「えーー!? じゃ、じゃあもしかして……ルビニーラさんってお呼びしてもいいんですか!?」

「ルビーでいいよ。それよりお師匠、新しいシロンちゃんに私が早く乗りたいです!」

「うむうむ。しかしのう。わし、こんなもふもふに乗るのが夢じゃったからなぁ。ケルちんは乗り心地は悪くないんじゃが、もふもふ感が足りなくてのう。いやーしかし、本当に大きくなったのうシロン」

「ぐぬう。俺は乗り犬じゃないです。人を乗せて走るんじゃなく、人に乗って走りたい!」

「あんた何言ってるのか全然分からないわよ、それ」


 このままでは馬のように生きねばなりません。何か手立てを考えねば……大会のとき大きさ戻ったんですけどね? 

 しばらくしたらまた元の大きさですよ。

 魔珠を使い過ぎると小さくなる? 

 でも能力でいつでも前の姿に戻れると思ってたんですけど。

 戻し方が分かりません。

 今は黒百合様一人なので軽々と……いや、なんか本が二匹乗ってます。

 ピザミャンとアベニャンが俺の背中で本を読んでいますね。

 振り落としてやりましょうか。


「いやー儲かったミャン。ぼろもうけミャン」

「しかも売れた本を吹き飛ばしてくれたお陰で更に売れたニャン。ブルースにもお礼を言いたいニャン」

「お前らの役目は結局本を売る程度のものだったな……」

「してシロンよ。賞金を受け取った後はいよいよ旅立ちの時じゃ。分かっておるな?」

「分かっておりません。竜も倒したし一体どこに行こうというんですか?」

「魔王の下に決まっておろう」

「魔王!? シロンちゃんが魔王と戦うの? すっごぉーーい! 見たい見たい!}

「それだとあんたが召喚主なんだからあんたが魔王と戦うんでしょ!」

「う?」

「う? じゃないわよ全く。私はご免だわ。ここマードラ商会でゆっくりのんびり暮らして魔法の研究成果を上げるんだから」

「ふむ。お主は火炎魔法のスペシャリストになりたいんじゃったな」

「ちょっと黒百合様。それは誰にも言わない約束……あー、シロン! あんた何笑ってんのよ!」


 くっ……これが笑わずにおれますか。

 まさかサルサさんの目的がそんな中二病っぽいことだったなんて! 


「べ、別に笑ってません。火炎のスペシャリスト、いいじゃないですか。最大火力で何度まで出せるのか! これが鍵ですね!」

「やっぱりバカにしたわね……はぁ。だから言いたくなかったのよ。でもね、最大火力で鉄でもなんでも溶かす魔法を使えるようになりたいのよ」

「さしあたってはカマドで火をくべてこんがりパンを焼けるようになってもらうことですね」

「はぁ……聞いたらお腹空いてきたわ」


 確かに。でもこんなお城のような屋敷です。

 きっと豪勢な食事が出るでしょう。


 ――そして優勝祝いの食事処。

 豪勢な食事でしたが、やはり俺はパンが好きです。

 そう思っていたら「美味しいけど、シロンちゃんの焼いたパンが食べたいなぁ」

 

 さすがは俺のご主人。

 パンかぁ……こういう大金持ちの場所で焼くパンより、田舎で……そうだ! 

「マードラさん。実は俺の背中に二人分乗せられるような固くない鞍みたいなのってあったら売って欲しいんですけど」

「あら、それならちょうどいいのがあるわ。持ってきてあげるわね。でも何に使うの? ワンちゃん」

「俺はワンちゃんじゃないやい! そうですね。実は少し考えたんですが……ご主人、お金を手に入れたので少し親孝行しませんか?」

「親孝行?」


 ふっふっふ。俺の成長、そしてお金。

 これだけ長い旅だったんです。一度くらい顔を見せに行くべきでしょう。


「サルサさん、シフォン村の方角分かります?」

「え、ええ。ずっと南東の方よ。でも、どうしたの?」

「ふむ、シロンよ。シフォン村か、そうかそうか」


 あれ。黒百合様から密かに逃げおおせる算段ということでご主人の帰郷を一時的に認めてもらう作戦なのに、妙に納得してくれている!? 

 これは良い感じに魔王とやらと対面せずに済みそうです! 


「あったわ。これでいいんでしょ? 後報酬の金貨……なんか全部で六千枚みたいだけど」

「六千枚……」


 あ、サルサさんが気を失いました。

 よだれを垂らして目がお金マークです。

 いいや、このまま連れてっちゃいましょう。


 マードラさんにお礼を告げると、まったくこれっぽっちも状況が理解出来ていないようで、首を傾げています。

 俺の背中にはご主人と気絶したサルサさんが乗せます。

 ……重いかと思ったけどそうでもありませんね。


「あれ? あれ? 帰っちゃうんですか? どうして突然? ルビーさん……」

「私もよく分からないけど、シロンちゃんが急ぎみたいだから! それじゃ黒百合様、またね!」

「うむ。直ぐに会えると思うぞ。のうシロン?」

「え、ええ。そうですねー。では!」



 マードラ商会の外に飛び出ると、俺は空を駆けあがります。

 ああ後ろめたい。俺はなんて悪いことをしてしまったんだ。

 そんな気分のまま空を駆けまわります。

 目的は南西。シフォン村です。

 大空を駆けるなんて夢のまた夢だと思っていました。

 小さくて弱い犬っころに転生した俺ですが、大きな犬っころになり、仲間も沢山増えました。

 そして……俺は竜を倒しました! 

 ちょっと愉快な仲間たちとも出会い、冒険し、そしてまた村に帰る。

 そんな俺たちの冒険が今、故郷に戻り終わりを――「シロンちゃん、前、前ーーー!」

「前? ええっと? あれ? 眩しい……」

「ふうむこんなところにいおったか。ニャトルよ」

「……お爺さんの声がするけど眩しすぎて見えません!」

「ふむ? おかしいのう。なんじゃこの大きな神獣は」

「何? どうなったのシロンちゃん!? 眩しいよー!」

「おーおー、すまんかったのう。しかし人の子に神獣、それにそっちは魔女の娘か。ふうむ。まぁよい。一度私の庵においで。はにゃぺにゃーらーぺにゃこ」

「呪文が適当すぎる! え? えー?」


 光に包まれて、そして……俺とご主人、そしてサルサさんは部屋の中におりました。

 一体何があったんですか? 

 えっと一体何があったんですか!? 


「ここは転生神の庵じゃよ。ふみぃの奴に随分と怒られてしまってのう。こんな小さな部屋にさせられてしもうたんじゃ」

「神様立場逆転してません?」

「ほっほっほ。まぁよいのじゃ。それで、お嬢さんちょいと失礼」


 転生神を名乗っていたのはお爺さんでした。

 キテレツな帽子を被り眼鏡をかけた温和そうなお爺さんです。

 そう、言うなれば……ダンベルドアさんみたい! どっかの学校の偉い人! 

 ご主人の手に何かを刻むと、なんとご主人の手からニャトルが飛び出してきやがるじゃありませんか! 

 しかも寝てます。


「すぅー、ニャー。すぅー、ニャー」

「起きなさいニャトルよ」

「スゥー、ニャー。すぅー、ニャー」

「ふむ。このまま連れて行くとしよう」

「ええ!? 私のニャトルちゃんを連れてっちゃうの!?」

「ほっほっほ。直ぐに返してあげるから安心しなさい。彼から転生の代理猫の役割を消去せねばならんからね。さて、そちらの紙獣さんや」

「俺のことですか? 俺はシロンですが」

「お主は人の子であるが誤って魂を入れ間違えてしもうたようじゃ。これから元に戻そうと……」

「ちょっと待って下さいヒゲの方」

「ヒゲの方……?」

「せっかく強くなったのに戻されたらまた弱くなるじゃないですか、もー!」

「ふむ? そのままでよいと?」

「はい。だって俺、この姿になってまだレベル一しか体験してないんですよ? これから新たな魔法とかですね、覚えていくのに!」


 ここで終わったら勿体ないじゃないですかー! 


「ふむ、しかしな……いやわかった。お主がそう望むならそれでよかろう。しかし迷惑をかけたな、どれ……せっかくここへ来たのだし、お主たちに何か一つ特別なものでもやろう」

「お金がいいわ!」


 あれ、起きてたんですかサルサさん。

 そして欲しいのがお金って。


「私はシロンちゃんに似合う洋服がいいなー」

「ご主人……せめてご主人のものにしましょうよ!」

「だってシロンちゃんは私のだもーん」

「ほっほっほ。して魔女の娘よ」

「……! ちょっとあんた。なんで私が魔女だって……」

「え? 魔法使う女性が魔女じゃないんですか?」

「ううむ、少し違うのう。魔族の血と人の血が交じり合う者が魔女じゃよ。お主は金を貯めてその血を分けたいのであろう?」

「ち、違うわよ。私はただ……」

「あのー、どうでもいいので願い事叶えてさっさと元に戻して下さい。俺たち故郷に帰ろうとしてたんですから。あ、そうだ。それじゃ俺の願いはシフォン村まで一瞬で届けて下さい! ってさすがに出来ない……」


 と言うまでもなく目の前が見覚えのあるなんの変哲もない村になりました。

 嘘……本当に神様だったんですか!? 

 でも黒百合様も転移は使えるか。

 いやいや、これはそんな生ぬるいものじゃありません。

 神パワーですよ! さすがダンベルドア! ダンベルがくくりつけられている扉を開くとそこは目的地だったてきな奴ですね分かります! 

 

「これでよいかの?」

「……驚いたわ。それじゃ私の願い、金貨一億枚も叶うわね?」

「サルサ、一億枚なんて言ってないよ?」

「あんたはだーってなさい! さぁ! 早く!」

「お嬢さんや。お金というのは神が与えてはいけない最も主たるものだよ」

「……そう。ならいいわ。貴重な竜の涙を用いた杖。これで手を打つわよ」

「ふむ。いいじゃろう」

「まぁそんな伝説の杖用意なんて……ええっ!?」

「ほっほっほ。そしてお嬢さんは愛犬の服じゃったな。どれ、一つ恰好良いのを造ってやろうではないか。ほれ!」


 全身ピンクで白いふりる付きの服を着せられました。

 あの。

 ちょっと。

 これぇー? 


「か、かわゆい。シロンチャン素敵……」

「うむうむ。さて、わしはニャトルを預かる。しばらくしたらまたここへ来よう。それではな」

「じゃなーい! 俺の恰好戻してぇーーー! こんな格好じゃ町中を歩けません……ってここは村なんですけど!」

「あーあ。どこかと思ったらシフォン村じゃないの。あんた、ここに来たかったの?」

「実はですね……」


 俺が魔王から逃げたかったこと。

 そしてどうせパンを焼くなら田舎がいいこと。

 ご主人の母上にお礼を告げたいことなどを伝えると、納得してくれました。


「大分長い旅だったもんね。そっかぁ。ここから始まったのよね」

「ええ。随分長い旅になりました。ご主人も竜を倒すなんて大それた願いでしたが叶えてあげれました。後は俺の願い! パン屋を開くをここで達成すれば!」

「あんたは、どうして生きていたいの?」

「え?」

「さっきのお爺さんの話じゃ、あんた、元々人間だったんでしょ? それならもとにだって戻れるんじゃない?」

「……うーん。叶えて欲しい願いはありますよ。でも、叶えてもらってもし死んでたら、俺泣いちゃいますから」

「ふうん。あんたにも大切な人がいた……とか?」

「人じゃなくて犬ですけどね」

「犬ってあんたじゃない」

「まぁ俺も犬なんですが、俺みたいな犬と一緒に生活してたんです。パン屋をしながら。俺がこんな姿になって消えた以上、きっとシロは死んじゃってます」

「そう……でも、弔ってやればいいじゃない。それが飼い主だったあんたの務めなんじゃないの。ほら、お墓作りに行くわよ」

「サルサさん……」

「なんならついでにお宝も掘り当ててくれていいのよ?」

「サルサさん……」


 喜びとけいべつのダブルパンチを重ねて来る彼女ですが、俺は彼女を気に入っています。

 ご主人はご主人ですが、サルサさんとは違うご主人といった感じがします。


 そして俺たちはここシフォン村に小さなパン屋とお墓を立てました。

 パン屋の名前は【焼き立てパン、シロ】

 今日もシフォン村にはいいパンの匂いが充満しています。

 ここから一日で向かえるショートの町からは、連日多くの客が来るようになり、小さな村は賑やかになりましたとさ。


 そして……その後黒百合様やカエサルさん、よくしゃべるキノコなどが来た上、地雷までも来たのは言うまでもないことなのです。

 その物語はまた、別のお話。


 END



「ちょっとー! ENDじゃないわよー! 私の秘密で後百話は伸ばせるでしょう、ちょっとーー!」

「ぐええ。む、無理です。そもそもこの物語は筆者がど素人極まりないときから開始していたもので穴だらけの作品……俺たちなんて、俺たちなんて……」

「あら、でもそれなりにファンはいたみたいよ? 毎週土曜にしか更新していなかったのに、あっちの投稿サイトで二万五千PVもあったじゃない」

「そうなんですよねえ。こちらは割と適当にほのぼのと書いていたんですけど。まぁ途中ぐだりましたけどね! ぐだってても同じ日に投稿し続けると決めていたので投稿しましたけどね!」

「そういうとこを気にしながら書けばもっと人気が出たんじゃないのかしら……」

「ぎくり。でも同じ日にこれだと決めて投稿し続けるのってとても大変です。そして他の作品に完結を追い抜かれ……ぐぬぬ」

「でも、確かに読者としては長いと飽きちゃうから適度な長さで面白いとこだけみたいのよねぇ……」

「俺の存在が面白ければいいじゃないですかー、もー!」

「何言ってるのよ。あんたが身動きできないときどーすんのよ」

「ぐぬぬ……そうか俺が絶対的主人公で修業無しで強いけど陰に隠れて実は強くないアピールをする猛者だったら!」

「ありきたりだわ。本当ありきたりだわーそれ」

「じゃあもっと違う革新進化をしようと思います。大谷選手に進化していいですか!」

「ダメに決まってるでしょ! なんで犬が野球やんのよ! ていうか最後までこんな後書き!?」

「ええ。この物語はきっと、将来作者が有名になったら書き直して売り物にしてくれる。そう信じておりますから! だから俺は大谷選手みたいなビッグネームになりますわん!」

「はいはい。私の魔術、ジェノサイドヒートくらい見せてやりたかったわー」

「ほうほう。それはどのような魔術で?」

「それは……ジェノサイドがヒートするのよ」

「ふわっとしてるからダメなんやないかーい!」

「いけない、ボケと突っ込みが交代してしまったようね。さて、それじゃ名残惜しいけど」

「シロンとサルサの漫才コーナーもこれでおしまいです。皆さん、ご愛読ありがとうございましたー!」



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