俺は聞いてない……
「……一体どんな進化したのよ、あんた」
「すっごぉーーーい! シロンちゃん、魔王倒しに行こ? ね?」
「ドラゴンからぶっ飛んで魔王なんですね……いやだぁーー!」
「うるさいニャ……せっかくゆっくり寝てたのに一体なんニャ?」
「おいニャトル。お前また面白変化したな」
「ニャ? 白い毛玉しか見えないニャ。シロンはどこニャ? ニャ? ニャトルもどこニャ?」
「ニャットシーにスコールシロンハート? どっちも聞いたことないわよ」
「違いますよサルサさん。スコルシロンハートにニャットしーっです。つまりこいつはネタ進化、俺は革新進化です!」
「ニャ? スコルシロンハートってなんニャ? ニャトルは静かに寝ていたかっただけニャ……」
「ニャトルちゃんがやっと見えた! すっごく見えにくい!?」
「もしかして視認阻害? そんなものかかってる生物なんて……そういえばどっちも神獣の類になってたわね。ふぅーん。これなら次の試合も勝てるんじゃない?」
「次の試合ですか、うーん。どうでしょうねぇ……」
絶対嫌です。だって次の試合勝ったらドラゴンが待ってるじゃないですか。
そんなのいやだーい!
「さ、そろそろ会場行かないと。シロンちゃんの能力楽しみだなぁ……魔法の欄がすっごく増えてたけど、シロンちゃんは魔法寄りの種族になったのかな?」
「この体、すごいですよ! 見て下さいこの変な手! ぬるぬる動かせます。空に浮かぶ俺の手!」
「うわぁ……えげつないわね。何それ……」
「これなら間違いなく美味しいパンをこねれるぞ!」
紫色の浮かぶ両手が俺の脇から出せるんです。こいつぁファンネル! そう、ファンネルです! うおー! 俺はついにファンネルを手に入れた!
「あんた……それ魔珠を大量消費するわよ。今は止めておきなさいよね」
「うっ……確かに無駄に使う代物じゃありませんね。レベルもまた一からだし、レベルアップすれば強くなる。しかし俺のステータス変じゃありませんでしたか?」
「うん。全部変ね」
「いえ、そうじゃなくて……ステータスがぞろ目フィーバーしたの全部失敗みたいな」
「ぷっ……あんたらしくていいじゃない。惜しいところで嚙み合ってないのがシロンのいいとこでしょ。さぁて、今日もお手付きで休みかぁ。はーあ」
「ええっ? サルサさんお手付きなんですか? 俺のマンティコア戦で?」
「そうよ。審判の判定は私の攻撃で倒したことになってたの。ま、精々頑張りなさい。負けてもあんたは二位なんだから」
「はー……い? 今なんて仰いました?」
「シロンちゃんこのままじゃ宿屋から出れないから一度しまうね! ニャトルちゃんも! ラールル、ラールル、ラールルーラー」
……ええっと。サルサさんがおかしなことを言ってましたがきっと聞き間違いです。
それに次はニャトルが戦う番です。
あれ? でもニャトルはどうやって進化したんでしょう?
またゴールデンデンゴロールでも踏み倒したんでしょうか?
あいつのステータスには確かに幸運とかいうバフが掛かってやがりました。
しかしこのダメ猫はなんと、デバフが常時掛かっています。
つまり大体寝てるわけですね。猫らしい。
しかし奴の器用さは侮れません。器用さだけぶっ飛んで他が死にステ。
そして俺より多い魔珠。完全に補助寄りのステータスに化け猫しやがったわけです。
はぁ、それにしても……「俺の体大きい……小さく出来ないのかなぁ」
「すぅー、にゃー……すぅー、にゃー」
「お前本当寝てばっかだな!」
ダメ猫は放っておいて自分の能力を思い出してみます。
まず、今回の進化は以前までの進化と比較にならないほど革新したってことです。
ぶっちゃけ項目が増えすぎて俺自身がどこまで使えるのか分かりません。
まず整理をしてみましょう。
種族名が変更。ただのウルフィから神獣ウルフィとやらに変わりました。これはより強い種族名、恰好良い種族名に変わった……だけでしょう。
そして種族形態。スコルというのはふみぃの奴が言っていた通りフェンリルの子供に違いありません。シロンは俺の名前でハートが温かいからですね。うんうん。
ステータスがべらぼうに高いのはきっとフェンリルの子供だからでしょう。
レベル一のステータスとは思えません。俺は今日から神である!
そして種族技。これは種族が大きく変化したからか、以前までの種族技は使えないようです。
早速紫苑の両手を動かしましたが、以前よりパン作成がはかどりそうです。他はよく分かりませんがこの中にやばいのがあるのだけは分かります。
気になったのが習得技です。この中には前進化で培った技があるままです。これは忘れないってことは使えるってことなのでしょう。
そしてこの中で最も注目しているのが【自由転身】です。
もしかしたらこれで小さい姿にも戻れるのかも? と考えています。
だって、大きすぎて目立つし動き辛い! こんなサイズじゃご主人やサルサさんを乗せて運ぶ馬と大差ない状況に陥いるじゃありませんか!
俺は人を乗せて歩く馬とは違うんです。格好良く可愛いウルフィでなければファンが泣くのです!
他の習得技は物騒なので置いておきましょう。
そして次。ここからは新しい項目ですよ。びっくりです。
固有常駐バフなるものが出てきました。これは恩恵に近いのでしょうか。種族技とは違い、常時発動型の恩恵ですね。
ここに俺が望んでいた全てがあります。自動魔珠回復! これがあれば俺の異界召喚が最大限に生きるわけです。もう俺が最強であることは変わりありません。えっへん!
そしてどうやらスコルというのは魔法特化型の神獣のようです。
使える魔法がたった一つしかないのですが、一杯魔法を覚えそうなんですよ。びっくりです。
そしてさらに! 契約妖精枠が増えてるじゃありませんか。
正直要らないです。あんなうるさい妖精、一匹でも要らないです。
そーいやあいつ、寝てるんでしょうか?
ざっと確認しただけでもこんな強そうな俺ですが……ちょっと嫌な予感がしています。
そんなこんなで考え事をしていたら、ついに会場へ到着してしまったようです。
『お集りの皆さん! 本日は決勝戦ということもあり、超満員です! それもそのはず。期待の超新星にして可憐! 破壊を司る黒百合様の弟子、ルビニーラ選手と、常勝無敗、竜を呼び出し灰燼と帰す男、カインドとの勝負です! この対戦、大陸中を沸かすビックカードとなります! まさに決勝に相応しいカードですが、会場からはルビーコールではなく、シロンコールが湧き上がっています!」
「うおーー! 面白犬はまだかーーー!」
「カインド様ぁー! 瞬殺してあげてー!」
「いっぱい笑わせてくれー! 頼むぞー!」
なぜでしょうか。会場からは決勝だの笑わせろだの罵倒の連鎖が聞こえます。
どれも俺が勝つ的な話じゃない。
というより、俺は、俺は!
「ラールル、ラールル、ラールルーラー!」
「決勝なんて聞いてないよぉーーーーーーー! わおーーーーーん!」
「ついに始まるわね。シロン対ドラゴン」
「ギブしていいですか? 秒でギブしていいですか?」
「何言ってんのよ。あんたせっかく進化したんでしょ? その能力試してみたいわよね?」
「うっ……でも、ドラゴン、ブレス、怖いデス」
「当たらなければどうということはないわ!」
「それ、どっかで聞いた台詞……」
「それにほら。あんた会場中であんなにバカにされてるのよ? 悔しくないの?」
「それはそうですね。俺なんか秒殺的なこと言ってるお姉ちゃんがいやがりました!」
「そうそう。だから実力を見せつけてやんなさい。骨は拾ってあげるから」
「骨になる前に助けて頂けませんか?」
「無理よ。だって私、お手付きだもの。きっとルビーがどうにかしてくれるわよ」
「ご主人なら骨になった後、シロンちゃんをよくもっ! って言うと思います」
「あー……あはは。まぁ頑張んなさい!」
大丈夫、だってシロンは……また来週!