採取の仕事
「聞--いてないニャ。なーんニャコラさっさ」
「なんだその掛け声。きりきり運べ! 鞭を打つぞ!」
「なーに言ってるにゃ! そっちこそもーうへばってるに違いないニャ!」
「くっくっく。俺の腕力は五十三万だ、覚えておきな」
「ニャ!? こいつとんでもなく侮れんやつニャ……」
「そんなわけないでしょ。どんな腕力よ。いいとこ十ちょいくらいしかないくせに」
「サルサさん、ばらさないでくださいよ。それにしても重いよー!」
俺たちは採取の仕事を引き受け、近くの森に向かった。
薬草摘みかと思って心躍らせていたんだ。このよく効く鼻の出番だー! と。
しかしそうではなかったのです。枝集めでした。
束にした枝を引っ張る俺とニャトル。ニャトルの腕力は低い。
当然俺も低い。このままだと夜が明けそうな程進んでいない。
「ダメニャー。もう動かないニャ。ちょっと休むニャ」
「おいまだ開始して三十分も経ってないぞ? ご主人にあおられる前にはよ!」
「だいたい無理ニャ。私ら腕力のない種族がやる仕事じゃないニャ……」
「そうだ! サルサさん。多分ぶっ倒れるけどいい物出すからそれに乗せて、こいつに
引かせてください。いきますよー! 出でよ台車のちっちゃいやつ!」
ごとりと小さな台車がでてきた。うわ、魔珠殆どロストしたよ。
「ごめんもう無理後よろしく」
「おお、台車じゃない。しかも何この足部分。すごっ。こんな加工品見たことないわ」
「へぇ。便利なもの出せるじゃない。さっさと出せよ」
「普通の喋り方に戻った? しょうがないわね、シロンも載せていくか」
「むふーん、らくちんです。レッツゴー! ニャトルはちゃんと運べ」
「ちっ、まぁいいニャ。それそれ行くニャー!」
かっ飛ばすニャトル。うおーーい、速すぎる! ブレーキーー!
あ……このパターン。知ってます。
「おいばかやめろ、前前―――前みろーーー!」
「ふっふー! 楽しいニャ! もうこのニャトルを止められるやつはいないニャ!
風のニャトル見参ニャーーーーたとらピギャッ」
ドカン! と木にぶつかってバラバラになる台車。
ポーンと飛び跳ねた俺は木の上に降り立った。着地成功! ポーズを決める。
……やってる場合じゃなかった。
拾った枝がバラバラだよー。
台車呼びだせたのにおしゃかだ!
「あーあ、こりゃ拾い直しね。先が思いやられるわ」
「もう動けません。ここで休みます。ずりずりせず、自由に動けるようになったのは
いいけどご主人は何処に?」
「そういやまだ来ないニャ。なにしてるニャ、あの突撃娘」
「いやな予感がするわ……目を離すとすぐよからぬ事に顔を突っ込むから」
「いーたーーーーー! 助けて、助けてーーー! サルサー! シロンちゃーん!」
「……ごめん、木の上からだとよく見えないよー。もう寝るね」
「寝てる場合か! 何であんなにトレントがいっぱいいるのよ! もう!」
「トレントって、動く木の!? どれどれ、見たーい! 見えないよー!」
「目の前にいるでしょ! ほら!」
本当に見えないよ? すごい大きな木でカサカサと動く目のある木……あれぇ?
すんごい小さい。木っていうより枝に見えるんだけど。
「ブランチトレントよ! こいつも立派なトレントなの! 気を付けて。木の魔珠を使うわよ!」
「ニャッハ! こんな小さい奴、ニャトルの相手じゃないニャ! くらうニャ! ニャゴパンチ!」
「うわ、肉球だよ。効くわけないだろー、そんなの」
しかしぷにゅんと一匹のブランチを踏みつけて抑えている。でも三十匹位いるんだよね。
残りの多数にボコボコと枝叩きされるニャトルとご主人。フフフ、いい眺めだ。
ここでやつならこういうに違いない……まるでゴミのようだ! と。
「ニャガガっ 見てないで助けろニャ!」
「よーし、少し魔珠も回復したし、何を出そう。こいつの弱点、火であってます?」
「あってるわ。何か出せるの? 面白そうだからちょっと見てよっと」
「いたたっ 枝で叩いてくるよっ! 面白がってないで助けてー!」
「あんたは少し反省してなさい。いいよ、シロン!」
「出でよ、フレイムランス!」
しかし何も起こらなかった。魔珠が足りないか……。
「出でよ、デスフレイムホース!」
しかし何も起こらなかった。魔珠が足りないか……。
「……あんた、遊んでるでしょ……ニャトルがやられてるのをじっくり見てるし」
「ニャニャ、信じられないほど薄情な奴ニャ。ニャトルが進化させてやったのを忘れてるニャ!」
「……手伝ってもらった記憶ないよー? まぁいい。俺はちゃんと手伝ってやるか!
出でよ! ライター!」
ぽてりと小さなライターが落ちる。よーしこれを使えば!
今は木の上だ。俺は無敵。動けなくても無敵。
「いくぞ、ワンハンド! 着火せよ!」
「何あれ。あんな小さい道具で火を付けた!? 信じられない。便利そうね。火力ないけど」
「ふっふっふ。このレバーをひねると、こうだ!」
ブオーと勢いよく火が出る。クックック。これなら魔王種も一撃だぜ。
あふん、風で消える……火を囲むもう一つの手が欲しいよー。
「それで、その火……使えるわけ? あの群れに」
「……よし、一匹燃えた! こいつを、投げつけて……もう魔珠が
ないよー。後よろしく」
「全然倒せてないじゃない! 一匹燃やして投げつけただけよ! まったくもう!
……燃え盛る大気の熱よ。万物を焼き尽くしそれらの身を滅ぼせ!
フレイムウィップ!」
炎のムチがブランチ共を焼き尽くす。かっこいい! よーし俺も覚えたぞ!
出来ないだろうけど。イメージを脳裏に焼き付けた。
にしても便利だなぁ。グループ攻撃なのかな? まとまってたの全部焼いたよ。
おしくもニャトルは焼けてないけど。
「す、すごいニャ……あんな技あるなら最初から使えばいいのに」
「だって、あんたら育てないと私が楽できないじゃないの」
「ふう、助かったー! さすがだね、サルサ!」
「あんたはどうしていつもそう突っ込んでってモンスター引き連れてくるのよ!
少しは自重しなさい!」
「えっへへー、これ見つけちゃって。つい……」
「それ、宝箱のカギ? どこで拾ったのよ、そんなの」
「枝が一杯落ちてるところだよ。肝心の箱がなかったけど。でも! お宝だよね?」
「そうね。鍵が落ちてるならそのあたりに宝箱もあるはずよ。ついでだから探すか。この枝
持ってった後にね」
「もう無理です疲れましたお休み」
「木の上で寝るな! ほらいくよ!」
サルサさんに無理やり降ろされる俺。別に登りたくて登ったわけじゃないやい。
結局重い枝をニャトルと運び、途中で俺たちはレベルアップした。
【シャキーン】
レベルもう五だよ! そろそろ鑑定してほしいよご主人ー。