デモンストレーションはグルグルなのです
打ちあがる魔法の音。大歓声の場内に包まれて、司会が進行しました。
封印の中によーく声が響いてきます。
『レディース&ジェントルメン! 皆さまお待ちかねのバトルオリンピア! 司会を務めさせていただきます、キャットマイルドです! どうもどうもー!』
「どこかで聞いた名前ね……」
ぼそりと呟くサルサさん。
俺もどこかで聞いたような気がしますが気のせいでしょう。
決して悪い集団のメンバーなどではないはず。
『早く試合を見たい気持ちもよく分かります! ですが、今大会では選手入場のデモンストレーションが入るのです! なにせこの大会は……年に一度開かれるだけの祭典! 召喚獣バトルオリンピアなのだから! 盛大な拍手で選手をお迎えください! 大勢いますから司会では主要な人物たちを紹介していきます。紹介されなかった方! 本来は全員ご紹介したいところですが……紹介されなくても残念と思わずダークホースになってやる! そんな意気込みで聴いていただければ幸いです』
良かったー。一人ずつずっとやってたらそれだけで日が暮れてしまいそうでしたもの。
でも待てよ? つまり俺の出番がない可能性もあるってこと? それは困ります。せっかくあいつらと練習したんですから!
『さて本大会最注目! 皆さんの視線をくぎ付けにしていそうなこの少女からの紹介だぁー! 名をルビニーラ。はるか遠方の小さなシフォン村出身。そして何を隠そうこの可憐な少女はあの最強最悪の……ひっ』
「黒百合じゃ。よいな?」
『そう! あの世界五本指の強さを誇る……黒百合と名を改めた……破壊神……の! お弟子なんです! そんな彼女が持つ召喚獣はー! さぁどうぞ前列の方もご一緒に、一斉に召喚を!』
『ラールル、ラールル、ラールルーラー!』
「吸ぅー、ニャー! 行くニャー!」
「こっちもだホノミィ! 曲芸、火炎のチューチュートレイン! フィーハー! ファンファンウィーヒッザ、ステープステーップ!」
「お、同じ風の中、うぃノー、ウィラブ、いーやー!」
「ヒーヒービーライクアスキーップスキーップ!」
「ときにゃーきをー、運ぶニャ、ニャーニャーニャーン……ニャ?」
「ちっがーう! チューチュートレインって言ったろ!」
『こ、これはどういうことでしょう! 犬がヘンテコな炎と空に浮かび上がった猫と共に歌いながら踊っております! これ、インパクト賞確定では? 勝てる召喚獣いますか?』
「人数が足りません! 全員横一列じゃなくて縦に並ぶのです! さぁ早く! 駆け足!」
くっくっく。飛び切りのを見せてやるぜ!
後ろ足立ちはプルプルするよー。
「さぁ俺に続いてゆっくり円の字を描くようにぐるぐると反時計回りに顔と右手を動かして! 同じポーズ! ハイ! ファンファン! あいてっ」
大盛り上がりを見せる会場の中、冷静な突っ込みが助手待機場所から飛んできました!
俺がアベニャンに持たせた拡声器です!
『助手側から熱い突っ込みが入ったぁー! これはもう決まりでしょう!』
「いつまでやってんのよシロン! それにあんたたちもつられてやってんじゃないわよ! 先に進まないでしょう!」
『すみませんでした……』
「第一ブロックほぼすべての召喚獣と召喚主を用いた曲芸に、会場内は興奮の渦に包まれました! 皆さん拍手ー!」
プリプリなサルサさんに止められて、ノリノリだった俺とホノミィ、ニャトルと縦一列一同反省のポーズをぴたりと合わせて行い、登場完結となりました。
「おい見たか。犬がしゃべってたぞ!?」
「面白い踊りだったな。また見せてくれよー!」
「一体感、すごかったわ! 召喚獣の紹介文は……シロン? ウルフィのシロンってこの本の作者ー!?」
『お静かに! 皆さんお静かにー! まだまだ選手入場はこれからです。お静かにー!』
ふっ……どうやら会場中をくぎ付けにしてやったぜ……と思っていたら! 背後に巨大な影が現れました!
恐る恐る振り返ると、そこには巨大なりゅりゅ、竜がいます! しかも青い竜です! 竜なんて大体緑から始まるじゃないですか。青いやつは大尉クラスです。赤よりはマシですが強そうです!
『そしてそして! 早くもというか出番まだなんですけど? 待ちきれない男、カインドが、これまた待ちきれない青い竜をつれて先走り登場だぁー! 順番、守ってもらえないと困りますって!』
「きゃーー! カインド様ぁ!」
「しびれるぅー!」
「青色のドラゴン……素敵」
……一瞬で持っていかれた! そんなばかな俺のチューチュートレインが。
これがドラゴンの力なんですね。勉強になりました……。
カインドと呼ばれた男はどうやらヒゲが恰好良い、長い髪をポニーテールにした渋めおじさんでした。
いかにも強敵です。どうしよう。
でもなんで今出て来たんだろう? しかもこちらを完全にライバル視している目線ですよ。こりゃヤバイ。
――そして次々と紹介は進んでいきます。
紹介が進んでいくたびに自信をなくしていく俺とニャトル。
あんなに修行したのに、一回戦で負けるのではと尻尾が、尻尾が……縮こまりません!
ちなみにブロックは全部で四ブロックに分かれておりました。
初戦は無いので俺の役目は昼頃までお預け。
なんだったら先鋒はニャトルに譲ってサボってもいいんです。
大会のルールなどをキャットマイルドが説明している間は暇だったので、サルサさんの横に待機していました。
するとどういうことでしょう。
俺をじっと睨み続ける召喚獣がいるじゃああーりませんか!
ちょっと目立ち過ぎたようです。
「あんた、突っこみいれたけど、でかしたわよ。インパクトで賞の賞金。金貨百枚よ! 私の突っ込みが効果抜群だったから、山分けよね?」
「あの。サルサさんと山分けっていうかご主人と一緒に紹介された人々と山分けかなー……」
「何よ。私だって一枚くらい噛んでもいいじゃない!」
「ねぇサルサ。なんかシロンちゃんすっごく睨んでる子がいるんだけど……」
「おやご主人も気づきましたか。あの目……殺る気ですよ! ガルルルー」
「違うの。すっごい可愛い……」
「あら? あれってプレーリードッグじゃない。縄張り意識が高い珍しい種族よ」
「くっ……やつめ。俺を睨み殺そうとしてやがります」
「順当に勝てばあんたの次の対戦相手じゃないの?」
「なにー!? さては奴め。不戦勝狙いか……」
どうやら俺の次の対戦相手はこいつのようです。
準備は万全ですよ! ニャトルのね!
「……それで? あの踊りと歌はなんなの?」
「ふっ。伝説の踊り、HI-FIVEのI Like The Wayという曲のパロネタ……通称エグザイルグルグル踊りです!」
「長い。長すぎて分からない」
「いーんですよグルグル踊りで! 楽しいからサルサさんもやってみましょう! お前ら、いるんだろ。混ざれ!」
「いーやー!」
「なぜニャトルがいるのがばれたニャ?」
「う? 私もやるの?」
『全員集合! まず顔はなるべく固定します。左とか右とか向かず正面固定。首を動かし体を使ってゆっくりと時計が反対に回る動きを再現しましょう。ぐるー、ぐるーとこれだけをやります」
「ふーん。案外簡単ね。でもシロンと身長差が……あんた足プルプルしてるわよ」
「見たいー! シロンちゃんが見ーえーなーいー!」
「はい。ここで右手をグルグルします! 早すぎず、遅すぎず!」
「何この一体感。癖になりそう……」
「みんなも学校でやってみてね!」
「って、これから戦うってのに踊っててどーすんのよ!」
「ぐへぅ……だって楽しみたいじゃないですかー! それに昔、作者は東京駅に六人集めてこれを仲間内でやった愉快犯らしいんですよねぇ……」
『えーーー!』
シロンさんがトンデモナイことを暴露してる……!
続くよ!