対戦相手に激やば発見なのです
受付から戻ってきた俺たちは、目を覚ましていたサルサさんに早速報告しました。
「……どうして私が助手なわけ?」
「えへへ。サルサいなかったから登録しちゃった!」
「しちゃった! じゃないでしょ。あーもう。せっかくゆっくりと観戦でもしながらバカンスを楽しもうとしていたのに。はぁ……なんで私寝てたのかしら……」
「でもサルサさん。このバトルオリンピアって、順位によって報奨金と賞品がもらえるみたいですよ。ほら」
俺はなんでも三つしまえるポケットから、ご主人に渡された本を取り出してサルサさんに見せます。
普段しまってあるものは宿屋で厳重に保管してあります。だって貴重品ですから。
帰り際に黒百合様にもっていけと言われたものも入っております。
それらはアベニャンに詰めておきました。
やつらはこれから本を売る作業らしいです。放っておきましょう。
「……優勝でレギオン金貨千枚!? 千枚って書いてあるわよ? 本当よね? 当然私ももらえるのよね? ね?」
「ぐええ。俺の首を絞めたら優勝が遠のきます……」
「はっ!? よーしシロンこっちへいらっしゃい。ブラッシングしてあげるわー。ほらほらー」
「げふっ。その手には乗りませんよ!」
「あらー。背中に毛玉があるのに本当にいいの? これから大会に出るのに恥ずかしいわよー」
「えっ? 毛玉? どこ? どこですか? 見えないー!」
「でも、サルサって回復魔法なんて使えないよね?」
「この大会本には助手がやっていいことと悪いことが書いてあるのよ。なぜかは想像がつくわ。これ、助手も召喚主も工作をしていいのよ。いいえ、工作した方が有利に戦えるんだわ。ただし禁止されているのが、リングに上がっていいのはあくまで召喚獣一匹ずつ。これは絶対だわ。それと武器の投げ込みも直接召喚獣には禁止って書いてある。つまり武器を投げ入れて召喚獣に使わせたりできるってことよ」
「なんですか、その激やばルールはー! 河原で一対一のタイマン勝負じゃないじゃないですかー!」
「戦うのはリングでしょ。なんで河原になるのよ」
「いえ。伝統的なやつでして。つまりサルサさんが何かしらの攻撃を出来るんですね?」
「私も出来るってことは相手側も出来るってことよ。これは参ったわね。つまり取り分の八割は私ね」
「それはがめつすぎますよサルサさん……」
「仕方ないわねぇ。取り分はあんたの活躍次第ってことにしといてあげるわ」
それにしてもどうしましょう。相手側の助手がバンバン攻撃してきたら、俺はどう立ち回れば?
いえ、いい方に考えればやりようはありますね。
しかし助手が攻撃しまくってたら、それはもう召喚獣バトルとは言えないのでは?
「あ、でもサルサ。ここ見て」
サルサさんの隣で本を見ていたご主人。
一人では読まないけどサルサさんと一緒なら読むんですね。
ご主人は寂しがりやなんです。
「えーと、助手の攻撃で敗退した場合、敗退させた助手は二試合の一切の助手作業を禁止する。これはもしかすると救済措置かもしれないわね。大会に参加したいけど、自分の召喚獣だけではとても戦えないタイプの召喚獣もいるもの」
「そうか。補助タイプの召喚獣もいるはずですもんね。でも、加減して召喚獣に倒させないとお手付き二回分。上手くできてやがります」
「それじゃニャトルの試合はだいたいサルサに任せるニャ」
「あんたもたまには真面目に戦いなさいよね!」
「そうそう、ニャトルちゃんのお友達がいたんだよ? ニョガルちゃん。可愛かったなぁ……」
「ご主人の可愛いの基準が分かりません……おいホノミィ。連携はちゃんと覚えてるんだろうな」
「連携? ……うん! ホノミィが全部燃やせばいーんだよね?」
「そうそう。燃えたお前を……っておい! 散々練習したのに覚えてないとは何事か! クワッ!」
「いーやー! 牙を見せるのは止めてって言ったのに、いーやー!」
「シロンちゃん、歯をむき出しにしててもかわゆい……」
さて、いよいよ大会は明日だったりするのですが、黒百合様は少し忙しそうです。
この大会に来た目的はご主人や俺たちの成長を見る以外にもあるようです。
大会主催者と思われる人物と面会し、ひっきりなしに頭を下げさせていました。
殺し系、コワイデス。
そんな怯え妄想をしていたら、当の本人がやってきてびくっとしました。
布団の中へダイブ!
「おーいシロン。いるかのうー?」
「……」
「あれ? おらんのかのう。ふーむ。どっこいせっと」
「あっ。黒百合様、そこは……」
「ふぎゃあーー!」
「む、なんじゃあ。おるではないか」
思い切り尻で踏みつぶされました……なんでここに座るの? 見えてたんですか? 透視ですか?
そうですか?
「せ、せっかく寝てたのに何の用ですか黒百合様」
「寝てた割には随分と威勢の良い声じゃったのう。明日のバトルオリンピア。少なくとも三位に入賞せい」
「三位って何回勝てばいいんですか?」
「お主はシードにしておいたからな。三回勝てば三位じゃ」
「シード? シードって強い人が選ばれるやつですか?」
「ルビーはわしの弟子ということで参加させておるからのう」
「大丈夫ですよ黒先生。シロンちゃんもニャトルちゃんもとーっても強くなりましたから!」
「黒百合様。なんで三位なの? 狙うなら優勝でしょ?」
そう言い放つサルサさんの目はエンマークで出来ていました。
「優勝はちと難しいかもしれんのう。まさかあやつがこのタイミングでバトルオリンピアに出場するとは」
「あいつ? あいつって誰ですか? バラモスですか?」
「誰じゃバラモスというのは。カインドというてな。やつは……竜使いなんじゃ」
「ええーー! やったーーー! シロンちゃんがついについに念願のドラゴンスレイヤーになるんだね! わーいわーい!」
「……辞退を。いや、ニャトル頼む」
「バカ言うんじゃないニャ! 焼け死ぬニャ? 氷ついて死ぬニャ? 踏みつぶされるニャ? 牙でざっくりニャ? ぽっくりさんニャ? ニャーー!?」
「お墓、用意しておくわね」
「ちょっとサルサさん! 縁起でもないというかその通りになる未来がみえる……」
「まぁなんじゃ。奴と当たるとしたら最後じゃ。ほれ、事前に入手した対戦表じゃ」
そう言って一枚の紙きれを渡してくれる黒百合様。
あの、辞退を。辞退プリーズ!
「やっと出番が来たわ! しかも大金入手のチャンスよシロン!」
「ええ。死亡フラグが立ってます」
「大丈夫よ。あんたはこずるい手が得意じゃない。相手は召喚獣でしょ? 野良の竜じゃないんだから」
「でもですよ? 竜と俺の背丈を見てください! みじんことケルちんくらいの差がありますよ?」
「そ、そうね。自分をみじんこに例えるなんてよほど怖いのね」
「あーー、こんなところになんで竜使いがいるんですかー!」
「さすがは賞金、金貨一千枚ね……私も何か卑怯な手を考えておかないと」
「えっ?」
「なんでもないわ。それより明日からなんでしょ? 対戦表はどうなのよ」
「それはですね……」
続くよ!