バトルオリンピアに登録なのです
謎の爬虫類男にぶつかったご主人。
平謝りすると、その爬虫類は一枚の布を取り出してご主人についた汚れを払ってくれます。
「こちらこそぶつかってしまい申し訳ありません。お怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です。バトルオリンピアの受付を探してて……」
「それなら逆方向です。ご案内をしましょう」
「いいんですか? ええっと、トカゲさん!」
「ご主人、ストレート過ぎぃ!」
「おや? 今の声はどこから……」
「わ、わーん。わおーん」
「このバカ。声出すんじゃないニャ……」
「こっちですね! 一人で行けますから!」
「いえ、混雑していて危ないのでご案内します。どうぞ」
爬虫類の方は再び猪突猛進するご主人にブレーキをかけてくれました。
こういうところが田舎娘なんですね。だがあえて言おう。それは萌えであると!
どうやら爬虫類の方は紳士のようです。
身なりも良く、丁寧に人々を避けて受付前まで案内されました。
そして受付について驚きました。
受付全員爬虫類です。
「申し遅れました。我々バトルオリンピアスタッフです」
両手の人差し指をピンと伸ばしたまま、腕をクロスさせてポーズを取るジェントルメン爬虫類。
それに呼応するように、受付爬虫類も同じポーズをしました。
いえ、周囲にいた爬虫類ズ全員が同じポーズを取っています。
何かの合図ですか、このやろー。
「わぁ。そのポーズ、私も覚えておきます! ね、シロンちゃん、ニャトルちゃん!」
「わ、わんー……」
「ニ、ニャ……」
くっ。嫌だと言えない状況で!
ぐぬぬ。解せぬ。解せぬまま受付開始です。
本大会は召喚獣一匹同士の戦いで、二匹呼び出せる召喚者なら、どちらを召喚して戦わせても構わないというルールです。
ただし同時には出せません。どちらかを出したら最後までそいつで戦うルールです。
リングの外に出たら負け。
参ったとは言えないので、動けなくなったと判断されたり、一方的になぶり殺しの状態になったら負け。
また、制限時間を越えて戦闘が続いた場合、審査員による判定が入ります。
この審査員に黒百合様が入ると言ってました。
ご主人はサラサラと登録受付をすませます。
「あのー、助手っていう欄があるんですけど」
「ええお嬢さん。一名あなたを手助けする者を同行させられますよ。勝ち上がっていけば召喚命令で疲労するでしょう?」
「えーっと……はい! 分かりました! サルサ……と。よろしくお願いします!」
「この場に不在であれば、当日こちらを首から下げてくださいね」
そう言ってプレートつきの首飾りを渡されたご主人。
助手かー。はっきり言ってご主人にはあまりいらないなー。
だって俺たち、ご主人から命令されて動くタイプの召喚獣ではないんです。
本来はケルちんみたいに黒百合様の指示をうけて攻撃したりするのが召喚獣の正しい在り方。
しかし俺もニャトルも完全独立型で、出しっぱなしにしても召喚主に何ら影響を及ぼさない召喚獣です。
これは召喚獣の中でもレア中のレア。
つまりご主人はウルトラレア召喚獣とまぁレアだね召喚獣を持っているんですね。
しかもですよ。この命令というのがですね。実はご主人も出来るんです。本当は。
ただ、あの性格ですから。
ドラゴンと戦わせようとはするんですが、俺たちに命令なんてあまりしたくないようです。
のびのびとしている俺たちを見ているのが好きなんだとか。
いいご主人に拾われたなぁ……。
「さ、シロンちゃん。そろそろ戻ろうか?」
「ワ、ワーン」
「そだった。黒先生のとこに行かないとね。どこだろう?」
「ニャ、ニャニャニャニャ、ニャーニャニャーニャニャーニャ!」
「ワンだって?」
「どしたのニャトルちゃん?」
「ニャガ……ニャガガ!」
ニャトルは必死に闘技場開催場所を指し示した後、反対方向を首で示しています。
俺もご主人も首を傾けます。
闘技場開催場所に何かいて、反対へ急いで行けってことか。
「分かった! こっちだね!」
「ンニャガーー!」
当然ご主人は俺たちを抱えて闘技場の方へ全力疾走です。
さすがご主人。ぶつかったばかりなのにもう覚えてません。
ニャトルより物忘れが激しいようです。
「ニョガ? お前……ニャトルじゃないニョガ?」
「ニャー? ニャニャー……」
「なんだその仮面。はっはっは。それで変装してるつもりニョガ?」
なんとびっくりニャトルの知り合いに遭遇?
にしてもこいつは……ええっと、犬? 俺のライバル? みたいなやつです。
結構大きいですがきっと犬です。
「わー。可愛いわんちゃん」
「おい小娘。誰がわんちゃんだ。どう見ても猫ニョガ!」
「……え?」
「ニャガ……」
「えー? 犬だよぉ。だってほら。お耳とか鼻とか。よしよし」
「ニョガー……じゃねえ! 誰が犬だ誰が! おいニャトル。お前転生の仕事をサボって一体何してるんだ」
「ええいしらばっくれようとしてたニャに! ニョガルがどうしてこんなところにいるニャ!」
「ふん。それはな……召喚獣にされたニョガ」
「ニャ? ニャゴハーッハッハッハ。まぬけなやつニャ」
「それ、ブーメランだぞ。さすがダメ猫」
「ニョガ? ニョガーッハッハッハ! なんだお前もニョガ。まぬけなやつニョガ」
「それも、ブーメラン!」
「ねえねえ。あなたのご主人は? 大会にも出てるの!? ドラゴン、戦える?」
「ニョガ。なんだこの娘は。危険なワードをつぶやいてるニョガ」
「気にしない方がいいニャ。それより転生神様はどうしたニャ? どうしてニャトルを迎えに来ないニャ?」
「ニョガ? お前いつからいないニョガ? とっくにバカンスに出かけたニョガ。フミィのやつに丸投げニョガ」
「ニャガ……ひとまず怒られなくて済みそうニャ」
「うみゃぁー。ニョガルちんみーっけ。ふぁうあー!」
突如後ろからピンク髪ツインテール娘がニョガルを抱き上げて上に放り投げます。
その挙動を俺とニャトルが目で追います。
放り投げられたニョガルをピンク髪ツインテールのツイン髪でお手玉されるかのように弾いていきます。
「ニョガ、ニョガ、ニョガ! 止めろニョガ!」
「ほらほらー。ご主人様とお呼びうみゃあー」
「もしかして、ニョガルちゃんのご主人はあなたなの?」
「んー。誰うみゃあー? ……あれ、ニョガルがもう一匹……」
「絶対取り消して欲しいニャ! 全然違うニャ! そんな犬みたいなのと一緒にしないで欲しいニャ!」
「うみゃあー? あんたの召喚獣もしゃべるのぉー? ほいっ」
ニョガルを弾くのを止めて抱き上げる謎のピンクツインテール。
こいつはライバル臭がプンプンしやがります。
「うみゃはガレット。よろしくうみゃあー」
「私はルビーだよ。こっちがシロンちゃんでー、こっちがニャトルちゃん!」
「ふーん。バトルオリンピア、出るのぉー? うみゃに当たって負けても恨まないでね。行くよぉニョガル」
「くらくらするニョガー……」
「なんだったんだろう? あ、黒先生いたー!」
こうして俺たちはバトルオリンピア登録を済ませました。
開催日は直ぐです。
楽しみですニョガ!
「……登場シーンはなくとも、登場シーン確保はあったわ」
「よ、よかったですねー。セコンドですよ、セコンド!」
「うふふふ……ちゃんと考えがあるのよ。出番を勝ち取る考えがね!」
「お、おう。それはまた楽しみというか不安ですね……」
「いい? 主人公であるルビーは確かに可愛いわよ。スタイルもいいし? 天然ぽさと田舎っぽさもあるし? ルビーだし?」
「そ、そうですね。ご主人は確かに可愛いです」
「でもね……そのそばに光る突っ込み役がいて初めて光る宝石なの!」
「いーや―! ホノミィがその役に適任だからって嫉妬はいーやー!」
「あんた、まるっと二話分一言もないじゃない」
「ガーン……」
「おいピアノでガーンを表現するな読者に伝わりにくいだろ」
「こうなったら魔法であっと言わせてやるんだから」
「新魔法がいよいよ!? いえ、新しい技や異能を見せるのは俺の役目なんですが……」
「その能力、誰が突っ込みいれんのよ!」
「そうでした、その役目はサルサさんですね、はい」
「いーやー! 私がその役、奪ってやるんだから!」
……激しい取り巻きバトルも開始されそうですね。
ではまた来週!