奇天烈な本|崇拝《すうはい》城
俺たちはご主人に無理やり着せられたものを装備し、城へと戻りました。
この城は、ある山の近くにあります。
その名も本崇拝城。
城門はまるで本のページを開いたような形です。
道にはおかしな文字がびっしりと書かれ、原稿用紙を地面に押し広げたような世界が広がっています。
噴水のようなものもあります。
しかし噴射されているのは水じゃありません。
文字です。
よくわかりませんよね。どういう原理で文字が噴射されるのか。
試しに飛び込んでみたら、体中が黒い文字だらけになり、とても怒られました。
そして建物内。
額縁にきれいに飾られているのは本です。
そして、この城の特産物は紙と本。
それで生計を立てているのです。
つまりここは紙と本の王国なのです!
「よーやく戻ってきたミャン。早速仕事ミャン」
「なんで入口で構えてるんだよ、ピザミャン」
「決まってるニャ。ニャトルの位置を奪おうとしているに違いないニャ」
こいつはピザミャン。語尾がミャンという本に猫耳が生えた謎の生命体です。
尻尾もあります。猫と本が合体した、そんな存在です。こいつは右大臣というやつらしいです。
偉そうにはしていないので、悪い大臣ではありません。
好きなものはピザ。本がピザを食べるのかって? それはもう、食べます。
特にチーズのカリカリな奴が好みらしいです。
なにせここには、パンの酵母が大量にあるのですから!
「おうおう、戻ってきたニャン。さぁ楽しい楽しい製本の時間ニャン……」
「おいだまれ。語尾直せって言ったろ。ピザミャンはともかくお前は猫ではない!」
「相変わらず口が悪いニャン。そんなことより早く片付けないと夕飯無しニャン」
「……やらせていただきます」
こっちがアベニャンです。こいつは丸々とした分厚い辞書……のような本ですが、ピザミャンと違って胴体部分があります。その胴体はまるでちくわです。
別に穴が開いてはいないのですが、色合いがちくわです。
耳は垂れ耳なので、一見すると犬の耳です。
しかし名前はアベニャン。
ゆえに語尾はニャンです。
ご主人てきにはアベニャンの方が可愛いらしいです。
この城をご主人が気に入ってしまったのは、こいつらのせいです。
アベニャンの言うところの製本とはいたって簡単な作業のことです。
ローノ先生の作った道具に魔珠を流します。
魔珠は使うほど眠くなるのですが、これを延々と繰り返すわけです。
とてもつまらないので定期的にニャトルと抜け出していたわけですね。
食べ物のためとはいえ、しんどい……しかし魔珠は使うほど、使える量が増える! レベルアップだけではないということを知りました。
俺は今まで大して魔珠を使っていませんでしたが、俺の能力を知った黒百合様は様々な実験を試みておりました。
今では俺自身も能力について把握し始めたわけなんですよ、ふっふっふ。
つまりこれから俺の無双が……「さっさとやるニャン」
「ふぇい……」
「つまらない時間のスタートニャ……」
そんなわけでこってり絞られた俺たちは、グースカ眠りにつき……起きるとサルサさんや黒百合様たちが戻ってまいりました。
「ただいまー。あー疲れた。ご飯はまだかしら」
「ふう。しかしのう……うーむ。果たしてよいものかのう」
「お帰りなさいませ、黒百合様」
「うむ、苦しゅうないぞ。ふむふむ」
くっ。俺はまだこいつに逆らえずに尻尾を振っています。
某主人公に付き従う者のように両前足を胴体の前で交叉して出迎えてやりました。
足がプルプルするよー。
黒百合様にはもしかしたら生涯勝てないかもしれません。
それほどに強すぎたのです。しかし、今ではこいつも俺の可愛さにメロメロ戦士です。
十分隙さえつけば一太刀くらい浴びせてやれますよ!
そう考えている俺の尻尾を見て、サルサさんが噴出しました。
ちくせう。
「シロン。それ、またなの?」
「ご主人をそろそろ止めてください……」
「ルビーは? いないの?」
「ご主人はニャトルと一緒にまだ寝てますよ。魔珠の使い過ぎで」
「ふーん。ローノと失敗妖精は?」
「奴らは採取に行ってまだ戻ってきてませんね……痛ででで、黒百合様、そのリボン引っ張らないで!」
「これ、ただのリボン編みではないのう。ルビーもやるようになったもんじゃ。これなら許可してもいいかもしれん」
「許可ってなんのですか?」
「お主たちが出立するのは三日後じゃ。最初の目的地として召喚獣バトルオリンピアを目指そうか、召喚獣ダンスオリンピアに向かおうか迷っておったんじゃが」
「せめて後者でお願いします」
「うむ。前者にすることにした。よかったのうシロン。ほれ、いつものようにわしを褒めていいんじゃぞ?」
くっ、この……!
殺すなら殺せー!
「あはははーさすがは黒百合様でございます。美しいものは考えることも違いますなぁー」
「すっごい棒読み……」
「うむうむ。そうじゃろうそうじゃろう。さてサルサよ。分かっておるな?」
「はい、荷物を部屋まで運んでおきますー」
「サルサさんも棒読みだ……」
圧倒的な支配力をもつのが黒百合様です。
しかし扱いはいたって単純。
褒めれば害はありません。
……ちょろいんです!
「さて。城には一応世話になっとるし。シロンよ、サンブックめにもう一度挨拶しておくかのう」
「出発が三日後ならそのときでいいのでは?」
「何を言うておる。あやつは五日に一度しか起きんじゃろうが」
「そうだった……今日起きてるからしばらくは起きないですね……」
サンブック城の王、サンブックさんは、グラサンの目をした本です。
王様なので頭部分に王冠が生えてます。取り外せません。
昔、黒百合様に失礼なことを言い、危うく殺されかけた恨みがあるものの、今ではすっかり仲が良いようにみえて心の言葉は俺と同じなお友達の王様なんです。
「おい、入るぞサンブックよ」
「はわを! っここ、これは黒百合ではないか。せめてノックくらいして欲しい……」
「サンブック王、失礼します」
「おお、シロンではないか。よく来たな。すまん、吾輩が五日に一度しか起きぬせいで」
「いえいえ王様。お元気そうで何よりです」
俺はちゃんと王に敬意を払っています。
この王様は本当に良い王です。
とても優しく気さくで、仕事熱心……な指示も出します。
しかしほとんど寝ています。
命いっぱい生きてる証拠ですね!
「三日後にここを経つので、それを知らせにきたんじゃ。世話になったのう」
「おお、おお! 黒百合がついに動き出すのだな。いやーそうか。実に! 実に残念だが仕方ない。名残惜しいが気を付けていくのだぞ」
「うむうむそうじゃろうそうじゃろう。ちゃんと定期的に食事をもらいに来るからのう」
「えっ?」
「なんじゃ? 嬉しくないのか?」
「いやー嬉しい。友として本当に嬉しいが……吾輩が寝てたら入れないなー、なんて」
「なぁに。ここを訪れたときのようにこじ開けるだけじゃ。気にせんでよい」
気にすんのはあんたの方でしょ! とサルサさんがいたら思わず突っ込んでいたでしょう。
サルサさんは相変わらず素早い突っ込みがウリで、黒百合様にも鋭い突っ込みをいれて、たまに爆撃されていますがこりていません。
性分ってやつですね。俺はぐっと飲みこんでおきました。
ちなみにここへ訪れたときも、門は固く閉ざされていたので大爆発しました。
「ま、まぁ門はなるべく開けておくかな。うぉっほん! しかしシロンよ。吾輩の友であるお主まで旅立つのは実に寂しいし不安でもある。そこでだ。吾輩からせん別というか、少しの間協力してくれる護衛をつけてやろうと思う」
「護衛? 俺にですか、王様」
「うむ。アベニャン、ピザミャン、これへ」
『はっ!』
「あのー、若干いらないような……」
「こ奴らはきっと役に立つ。遠慮することはない。可愛がってやるといいぞ」
「そもそも可愛くないんですが……」
こうして俺たちは三日後、この城を出て旅に出ます。
一体どこに向かうのでしょうか!?
「出番が少ないわ……」
「冒頭ですし、突っ込み場所が少ないんですよ、きっと。説明大事」
「さっきあったわよね? 突っ込む場所」
「あそこで突っ込むと黒百合様が面倒なことになるのでいいんです。それより、何を買ってきたんですか?」
「それはまだ秘密よ。私の出番がなくなるでしょ!」
「まぁ、サルサさんの出番はあとがきにたくさんあるわけなんですが……」
「これ、あとがきっていうか本編よね? 本編にして? ね?」
「そんな下から見上げるような目でみてもだめです! 俺の方が位置低いんだからね! さて、それではあとがきらしく、登場した新たな同行者二名についてもう少し詳しく……」
「それ、本編で十分言ったじゃない。せめて私の能力とか行動とか話しなさいよ、シロンー!」
「うぐええ、首を絞めないでください……なら、今回は止めておきます」
スロースターターは相変わらずですが……また来週!