チキチキレースの勝者は!?
俺とご主人は団、房、流パイセン二号に座り、ツルツル氷で満たされた地面の上を滑走し始めました。
ご主人が風魔法をたくみに操り、氷の柱に突撃しつつもスイスイーと弾かれるピンホールの玉のように進んでは弾かれを繰り返しています。
そうなんです、このエリア。
言うなれば落ちる穴の無いピンホール。抜けるための出口が狭い!
「グイーン。ワンモアー!」
「いっくよー!」
「……お主たち一体、何を遊んでおるんじゃ?」
「……? ……? ……?」
「フェリちゃんに黒百合様!? くっ……ここで俺たちがぶち抜いてやります! ……っとはいまた柱ー!」
氷で滑る先は毎回柱です。
ご主人、風を向ける方向間違えてませんか?
俺たちが団、房、流パイセン二号で行ったり来たりしていると、黒百合様はさも自信ありげに脱出場所を指差します。
「フェリちゃんしかおらんが、なんとかなるじゃろ。わしが直線に炎を放つ。氷が解けたらその上を進むんじゃ」
「……? ……!」
「ご主人、聞きました? これはチャンスですぜ」
「う? もっかいやる?」
「ご主人! やっぱ遊んでただけー!」
俺たちがあまりにも進まないので、司会をしているサルサさんたちはぼーっとしています。
ふっふっふ。これを出番独占というのです!
「ちょっといつまでモタモタしてんのよシロン! 早く進まないと終わらないでしょ!」
「遊んでるちゃ。誰がこのコース作ったちゃ?」
などと司会が話している間にも、黒百合様は準備完了されたご様子。
さぁいけ! 我が道を作るのだ。
「荒ぶる炎は一閃の刃。竜王等しく無に帰す焦灰。線をかたどり地を這い、我が眼前に立つこと悔い改めよ! デスヴォイドカノン!」
「へっ?」
「ええっ?」
「いけないわ! ちょっと誰よあんなの呼びこんだ奴!」
……俺です! 氷の地面からマグマが線状に天高く飛び散ったぁーー! なんですかあの魔法! 反則、反則にして! 危ない、危ないよ――今の!
「すっごーい。綺麗ー!」
「ご主人、気を確かに! 避難、避難ですーー!」
「さぁ行くのじゃフェリちゃん」
「……」
俺は残っていた氷の柱を蹴り込み、逃げるようにしてその場を離れます。
フェリちゃんはマグマの道に背を向けてとぼとぼとケルちゃんのいる方面へと歩いていきました。
これが帰巣本能というやつか。
あんた! マグマの道なんてフェリちゃんが通れるわけないだろ!
「ご主人、あれも魔法なんですよね?」
「私、見たことないよ? あんな凄い魔法あるんだね。シロンちゃんも使えるようになるかな?」
なりません。物語が崩壊します。あんな技使えたら戦闘力五十三万の方もひるんでしまいますよ!
さぁやってしまいなさいドドボンさん!
――去っていくフェリちゃんを説得に向かった黒百合様。
結果的に自らので足止めされております。
俺はチャンスと思い、ご主人に弱ーい炎で道を作ってもらいました。
最初からこうしてればよかったんじゃ?
俺の暖、房、流作戦失敗ですよ。
そして、氷の柱エリアをどうにか抜けた俺たち。
此処から先は秘密のエリアでした。
細い出口を抜けて直ぐです。地面が弾み始めました。
「面白い! 見てシロンちゃん、ほら!」
「トランポリンってやつですね、地面丸ごと変えちゃうなんて、魔法ってすごい……」
「おーっと! 一早く抜け出したのはやはり、シロンとルビー選手! シークレットエリア最初は跳ねる地面エリアだ。ここをどうやって切り抜けるのかー!」
「つまらん展開ちゃ。もっと面白い仕組みあるちゃ!」
「だそうです! ここはさっと抜けたいところー! さっさと行くのよシロン!」
司会から命令が飛んできたんですが気のせいでしょうか。
言われるまでも無く俺とご主人は両手を前に出して弾んで飛んでいきます。
ザ・キョンシー!
しかし俺の場合後ろ脚がプルプルします。早く抜けたいよー。
必死に飛び跳ねて抜けおると……「あの。Gから始まるかたが前方に待機しているようにみえるんですが」
「G? あれってGっていうの!? 私のこと?」
「ご主人もごから始まるのでGですけど、あれは……ゴーレム! ゴーレムです!」
跳ねるエリアを抜けた先には巨大なGが二体もいるじゃありませんか。
この競技作った奴出てこい!
あんなの倒せませんて。俺の技も絶対効かないし。
「いーやー! でかいの出て来た、いーやー!」
「お前、少しは役に立て! 一匹引きつけてその間にご主人がゴーレムへゴー! 名付けてジー作戦だ!」
「ジー作戦! うんうん、それでいこう、シロンちゃん!」
説明しよう! ジー作戦とは、なんか引きつけてる間に屍を越えられちゃったよ? 作戦のことである。
「よし、いけーホノミィ!」
「いーやー!」
「ですよね……」
「ゴーレムを前に怯んでいたシロンとルビー選手の後方から、地面を這いずりながら向かって来る黒百合、フェリちゃん選手が迫る! これは接戦だー! 早く進むのよシロン!」
「ひいき実況してるちゃ……しかしあのゴーレム、本当にどうするちゃ?」
ゴーレムはご主人が近づくと動き出し、引くと戻ります。
面白いので俺もやつの動きをパントマイム風に操って見せました。
ご主人は俺が遊びだすと引き返して体育座りで眺め始めます。
「ちょっとあんたー! ゴーレムで遊んでるんじゃないわよ!」
「だって戻るんだもーん! そうか、こいつは動く者に反応を……ならば……出でよ、チョロまつ……違ったチョロQ!」
「あーっとここでシロン選手が再び珍妙な道具を出した!? これは何でしょう! お金の匂いがしますー!」
ふっふっふ。こいつを後ろに引いて、ゴー!
「今ですご主人! ダーッシュ!」
「え? うん、分かったー!」
俺とご主人は駆け出します。
そしてその後を急いで追って来る黒百合様。
「久しぶりに走りすぎてしもうたー。わし、もう、くたくたじゃあ……」
「……! ……」
「あーっとここでフェリちゃんが逆走! 黒百合選手の隙をついて再び逃げ出したー!」
あんた、全然召喚獣操れてないじゃん!
「巨大ゴーレム二匹、小さな動く何かに夢中です! しかしこの動くものの速度が徐々に落ちていく。無事抜けられるのかー!」
くっ。チョロQの弱点、それは後ろに引いた分しか走らないということ。
引きすぎるとカリカリいうだけでそれ以上引けないことだ。
止まる前に抜けきれー!
「もうじきゴールです……しかーし、動きが止まったぁー!」
くぅ、万事休す。こうなったらご主人だけでも!
「……なんとゴーレム。その道具をつまんで調べ始めました! どんだけ気にしてんのよ、ちょっとー! その間にルビー選手とシロン選手、ゴール! 勝者はシロン、ルビーペアー。やったわ! 大穴的中よ!」
俺たちが全力で走る中、座り込んでチョロQを突いたり車輪を回したりして遊びだすゴーレム。
お前ら、男のロマンが分かっているようだな。そいつはくれてやろう。
そして……ふっふっふ。チートのちーちゃんこと、黒百合様に勝ったぞ!
勝った! 勝ったけど……どうなるんでしょ、これ。
「えーっと、勝ったんですけど」
「ふふふふ。金貨がざっくざくよー!」
「あのー、サルサさん?」
「何よ今忙しいの。後にしてくれる?」
「後書きのお時間です!」
「仕方無いわね。はい、おめでとう」
「それ、エヴァのやつー!」
「エヴァって何よ。それになんなの? あの最後に出した奴。チョロまつとか言ってたけど」
「そ、そっちは誤りでですね。あまりやり過ぎると偉い人に怒られるので聞かなかったことに」
「ふーん。ゴーレムの注意を集めるなんて、よほど面白い道具なのね」
「引いて進める五歳児の遊び道具……」
「ま、まぁゴーレムなんて大体五歳未満だから」
「子供みたいなもんなんですね。それでですね、俺,勝ったんですけど何がもらえるんですか?」
「ルビーからの信頼に決まってるじゃない」
「おあとがよろしいようで! そんなことだと思ったよー!」
……続くよ!