ちーちゃんあらため……なのです
「ご主人! これにはパンよりも深ーい事情が!」
「だうてぇー、ちーんっ、シロンちゃんがー、えぐっ」
「チーンは止めてください! 俺の狼毛は鼻紙じゃないから!」
「ぐじゅ、ふぅ。じゃあシロンちゃんは私を置いて何をしてたの……? サルサばっかり構って
何してたの……?」
「目を潤ませながら言わないで下さい……ここでローノさんに防具をですね……」
「あら、完成したのね。早く着用してみせてよ」
「……分かった」
「そこは回答早いんですね先生! 重くてつけられなかったんですよ……」
「やっぱりシロンちゃん浮気してただけだったんびゃあーーう、えーん」
「ここで証明せねば男とは言えんのう」
「いえ、オスなんですけど……」
「あーああんなに泣かせちゃって。ほらシロン。あんたのせいよ」
「……女性を泣かせるのは、良く、ない」
「急に良く喋ってー! あんたー!」
しかしそう言ってる間に、再びあっという間に鎧を取り付けられる俺。
だから、重いんです!
「わぁーー! シロンちゃん、本当だったんだ!」
「あのですね。さっきからそこにこれ、転がってたんですけど?」
「中々様になってるじゃない。ほら、走ってみて」
「顔がにやついてます! いじらしい顔になってます! 絶対分かってて言ってる! え
えい、今度こそ一歩位動いてやる! ふんっ!」
ギシギシガチャンガチャン。
「せいっ!」
キシッ。
「はいや!」
……チーン。
「同じこと何回もやらせるの寒いでしょうが! そうだ待てよ……これだけ重いということ
は、強烈な風攻撃に耐えらえられる? ご主人、風魔法を!」
「良いの? シロンちゃんにぶつけてもいいの?」
「どーんと来やがれです。突風で頼みます」
「騒がしいニャ。何してるニャ?」
「茶々を置いて出掛けるなんて不届きな奴チャ!」
「おや。ここにいたのかい。父上が呼んで……」
「カエサルも登場サ」
「空を漂う空気よ。万物ありて流れる風とならん。
導くは強き風となり対象に吹き荒れよ、ウインドプレッシャー!」
タイミング悪く一杯来たー!?
そしてタイミング悪く新魔法来たー!?
「な、何事ちゃー?」
「くっ。見ない間にやるようになったわね……」
「いーやー! この鎧頭ツルツル滑るいーやー!」
「しかし俺は無風。通り過ぎることそよ風の如し! こいつは使える、使えますよー!
わっはっは!」
「ニャゴハーッハッハッハ。すぅー、ニャー。ニャトルにだって通じないニャ。それでど
うやって戦うつもりニャ?」
風にあおられ空を飛んでみせるニャース卿。
くそ、何だこの敗北感は。
「こいつめ。文字通り俺の上を行きやがった……こちらは地を這う虫が如く……」
「ニャゴハーッハッハッハ。とんだ無駄骨だったようだニャ、シロン!」
「留め金部分は、外れやすい……」
パキンッ。ポキンッ。
……今度は直ぐ脱げるようにしてくれたんだね。
「うひょおーー! やっぱり使えない装備ーー! 飛ぶー!」
「ちょ、ルビー。止めて、止めて!」
「どど、どうしよう。調子に乗ってちょっと強い呪文唱えたら止まらないの!」
「カエサルに任せるサ! カエサルの後ろに隠れるサ! サーー!」
「あー、カエサルさーーーん! 飛ばされていくぅー!」
「そっちに辿り着けないんですけど!?」
カエサルさんは遥か彼方へジャンプガエルのように飛んでいきました。
「このままじゃ俺、窓から放り出されてしまいますーー!」
「位置の悪いシロンだけでも戻しなさいよルビー!」
「あう。そだった……ええっとぉ」
「ルールル、ルルル、ルールルーでしょ! 早く唱えなさい!」
「らめぇ! それ、ロート製薬の方ー!」
「あんたのせいで分からなくなったでしょうが!」
「……汗が、乾いた」
『言ってる場合か!』
「もー、ダメだぁーー!」
ひゅーんと飛ばされ窓から放り出される俺。
しかし、窓から落ちたのにぴたりと空中で止まっているではありませんか!
俺の後ろ脚をつかんでいるといっても完全に外。
そして、つかんでいたのは……ちーちゃんです!
ここ、こここ、この人空飛んでる!?
「全く愉快じゃのう。お主の仲間はこれで全部かえ?」
「助かりましたぁ。有難うございます、じーちゃ……うわわわわわっ!」
「てめぇ間違えたら殺すっていったよなオイ! 死ねぇーー!」
「嘘です冗談ですご免なさい美しすぎて嫉妬しただけでつい口から嘘の出まかせをーーー
ーちーるーーー!」
地面すれすれで再びキャッチされ、ぽいっと投げられました。
殺し系、コワイデス。
もう殺し系でぼけるのは嫌、嫌なんです……。
「しかしまさか空中飛行出来るなんて。一体あなたは何者なんですか!」
「じゃから言ったろう。この学校の初代卒業生じゃ」
「本名は何と?」
「ふうむ。わしはチートのような強さを誇るチートのちーちゃんなんじゃ」
「はぁ……」
「本名はそうじゃのう。エリザベート・ミハエル・ヴィーナス、うむ。良いな」
「バリバリで偽名だよ! 隠す気すらないよ! 今回俺が突っ込み役なんですけど」
「いや、語呂が悪いのう。クイーン・マリリン・ツェペリウスがよいかのう……いや待て。
無駄三昧のビノータス……ううむ」
「イメージとどんどん遠ざかっていきます……」
「ふむ。ならばお主が名付けるがよい。わしはちーちゃんと呼ばれるのもやぶさかではないがのう。
お主が何度も何度も何度も殺したくなることを言うからのう……覚悟はできたか」
「すみません今すぐ名づけさせて頂きます……コローシーマスーとかどうでしょうか……はわわわわ。
目が光ってる。この上更に目からビームとかはダメです」
「ほれ。はようせんとあの嫉妬深い召喚主が来てしまうぞい」
選択を間違えれば殺される。
単純にそう思いました。
そしてあることを閃いたんです!
「出でよ、黒百合!」
「な、なんと。何もないところから花を召喚しおったじゃと!?」
「こ、これをあなた様に。あなた様の名前は黒百合でございます」
「なな、は、花をわしに? お主から? 贈り物? どど、どうしてじゃ?」
「あなた様にぴったりだからでございますよ」
「なな、なぜ犬に花をもらってときめいておるんじゃ、わし……し、しかしな。もらって
やらんでもない。うむ。中々に綺麗な花じゃ」
「ええ。黒百合様の方がお美しいでございます。そしてぴったりでございます」
「そ、そうか? 黒百合か。気に入ったぞ! うむうむ、ふふっ。わしの方が美しいか。うむうむ
それは当然じゃな?」
くっくっく。その花を気に入ってしまったようだな。
そいつの花言葉は……【呪い】だ!
「お主……」
「ひゃいっ!? なな、何でしょうか黒百合様」
「様なぞつけんでよい。あれじゃ……お主だけ特別に黒百合と呼ばせてやってもよい」
「はぁ……」
「特別じゃぞ? 他の奴に呼ばせたりせんからな? ほれ、分かったな?」
「分かりました。レディー黒百合!」
「はうっ!」
……こいつ、チョロイ。
でも、殺し系、コワイデス。
「……やっぱり只者じゃなかったわね」
「一体何者なんでしょうか。黒百合は」
「誰よそれ。そんな恰好良い名前の奴だったの?」
「さぁ……もとはちーちゃんだったんですけど」
「ふーん……それでどうあしらうのよ、あれ」
「実はですね、妙案がありまして」
「へぇ。どんな?」
「ちょっとお耳を。ごにょごにょごにょごにょ」
「ゴニョゴニョって何なのよ。全然分かんない」
「そこは雰囲気でへぇー! って驚くところでしょうがっ!」
「分かるかーい! そうやってコマを稼ぐつもりなのね!」
「ぎくりっ。何のことだかふんふふーん」
「はぁ。まぁいいわ。それなりにお金入ったし」
「ギルドの依頼の方ですか? 本編で語らなくてよろしいので?」
「あんたの主人のせいでしょ! 本当にもうー! 私のターンだったのに!」
「忘れてた。俺の鼻水拭いて下さいーー!」
また来週!