暖・房・流兄貴との旅は糸に冬で了なのです
俺たちは暖・房・流兄貴と非快適な旅を過ごしたのです。
それはもう、非日常的なガタガタの旅でしたが、揺れに負けず、全員兄貴を信じて耐えました。
「お、着いたようだぜ。止まるぞ」
「ちょっと待って、いきなり離したら!」
「ほいっ」
急停止。それは放物線を描き空を舞うためのラストシグナル。
自分で行うブレーキのかけ方なんてありません。
だってこれ……暖・房・流ですもの。
流石に人が空を飛ぶ程の速度ではありませんので、飛んだのは俺とニャトルなわけです。
「うわーーー! 暖・房・流の兄貴ぃー! ちーん」
「ちーんしてる場合じゃないニャ! ニャトルにとっても高く跳び過ぎてるニャー!」
「大いなる大地よ。万物ありて対象の地を動かさん。アースフラクチュエーション!」
突如地面が隆起して、飛んだ先に壁が出来てくれました! 助かった!
……わけもなく、壁に激突する俺。
痛いよー! もっと優しい方法ないんですか!
そのままずりずりと壁から落ちていきます。
「あはははは……し、シロンさん大丈夫ですかぁ……」
「ニャゴハーーッハッハッハッハ。ニャトルは無事着地してみせたニャ。シロンとはわけ
が違うニャ」
「ぐくくく、くそ。こういうときだけ猫設定だしやがって……しかし微妙に助かりました
よ地雷フィーさん」
「えへへへ。もっと褒めてください!」
「ほらー、あんたたち。遊んでないでさっさとビッグノーズとやらのところへ行くわよ。
この辺りなんでしょ? クロマ」
「そうだぞ。あの先に家が見えるだろ」
「家? 家なんて無いじゃない。絶壁ならあるわよ」
「あれ、家だぞ」
「どうみても絶壁よ」
「いや、家なんだぞ、あれ」
「……私、やっぱり嫌な予感するから帰るわ」
「ここまで来て帰れません! そもそも戻り方を考えていませんでしたどうしよう」
「私たち、このまま餓死するんじゃ……」
「いーーやーー! 食べ物、食べ物を出してぇ。私お腹空いたの―。さっきの変な能力
で食べ物だしてよーー!」
「おいローグのホノミィ。俺は食べ物がポンポン出て来る異次元ポケットのたぬきじゃ
ないんだ。食えそうなものなら精々セミという虫くらいなものだぞ」
「いーやーー! 虫なんて食べ物じゃない! 天敵よ!」
「そういえばあんたって変なもの出せるけど、食べ物は一切出せないの?」
「一切かどうかは分かりませんが、俺が食べたいものはだせませんでした。何でだろう?」
「決まってるニャ。能力の大本が全部食べてるニャ。食べたくないものだけ出せるニャ」
「ほう。それは実に興味深い話だ。詳しく!」」
「それより早く行きましょうよぉ。もう疲れちゃいましたぁ……日が暮れちゃいますよぉ」
「仕方ない。気乗りしないけど行くわよシロン」
俺たちは再びとぼとぼと歩き始めます。
そして徐々に足が速くなっていきました。
俺の妄想回転も加速します。
なぜか。それより先にまずパーティの構成を思い出さねばならないのです。
現在のパーティー構成は黒、羽虫、犬、猫、魔、地雷、
実にバランスの良い構成です。いざ戦いになったときの戦法はこうです。
地面から黒が奇襲。羽虫は囮役に適任です。
犬が吠え猫が躍る隙に魔と地雷が術を発動して敵を倒すのです。
宝箱が出ても大丈夫。うちには優秀な羽虫がいるので鍵を開けられます。
しかし地雷がいるパーティ。実にスリリングある冒険となるでしょう。
負けても猫が励ましてくれる。そんな良いパーティが我々です。
「なのであなたもパーティに入りませんか?」
「だからこの状況で何言ってんのよぉ! いーやーー! 来ないで! シュボッ」
「あつつっ。ちょ、俺の頭で火を灯すのはやめろぉー!」
「だって虫が追いかけてくるんだもん! こっち来ないで! いーやーーー!」
「ニャガガガガ。しっぽのケンニャ! しっぽのケンニャ!」
「大いなる風よ。万物ありて対象を切り刻む刃とな……きゃーーーー!」
「わわわわわ、どうしましょう! サルサさんに向けてやってもいいですかぁ?」
「駄目に決まってるでしょ、何考えてるの!? ラフィー、あんたのせいだからね!」
「ええい、吸血だ! いけ! その羽虫から生命を吸い取ってしまえ!」
「いーやーーー! 私を吸わないでぇー!」
「そうか。俺にとってこいつも羽虫だった。クロマさん! 一つお願いします!」
「うきゃきゃ。無理だな。数が多すぎる」
ブンブン飛び回る羽虫……といっても体長は一匹ニ十センチはあります。
その体長のせいか素速くありません。俺より速いけどね!
なので、サルサさんに抱えながら奴らをどうにかしようとしているのですが、数が多い。
だからこそパーティー募集を考えていたのです!
さて、これが誰のせいであるかなど、もう分かり切っていること。
俺たちが歩き始めた最中、お腹が減った地雷は、その辺に生えていた木の果実をとろう
としたんです。
その果実こそこの羽虫。
パーティー構成を考え終わった頃には、既に追いかけられていたんですね。
「俺はいつまで冷静に分析してればいいんですか?」
「もうちょっとで家という名の壁よ! 頑張れ私!」
「よし、ローグのホノミィから吸い取ったちんちくりんをサルサさんへ」
「ちょっと、何で左右からも来るの? もしかして羽虫の音で仲間を呼ぶタイプじゃない
の、これ?」
「もうだめだーー! 誰か助けてー!}
そう考えていたら、空が急に暗くなりました。
そして……ズズーーーンという音とともに、俺たちの左右後方に巨大な鉄の塊が!
位置がずれてたら確実に埋まっていたことでしょう。お墓にね!
「ひとまず助かったニャ……」
「ひーん。ごめんなさーい……」
「もう慣れっこニャ。突っ込むのも面倒ニャ」
「ニャトルちゃん……一生ついて行きますぅ」
「やめるニャ! それシロンにも言ってたニャ! はぁ……そろそろ尻尾のケン以外
使えないとまずいニャ。最弱まっしぐらニャ……」
「一緒に最弱を目指しましょ! ね?」
「ニャゴハーッハッハッハ! ニャトルは勇者になるニャ!」
続くよ!