plant
「plant」
植物、樹木、苗木。
工場、生産プラント。
植え付ける。忍ばせる。
策略、罠、サクラ。
階段は人ひとり分しか幅がなく、おかげでレジスタンス全員が地下空間に降りてくるのには多少の時間を要した。だが、階段の作り自体はしっかりしていて崩落などの事態にはならなかった。この事は幸運ととるべきか、それともここが頑丈だったから化物が出てきてしまったのか……考えても詮無き事だ。
地下空間には、やはり植物が繁茂していた。
……奇妙だ。
なぜ、光が届かないはずの地下空間に植物が生い茂っているとわかったのか。
答えは、壁、天井、床。それらを埋め尽くす苔が発光していたからだ。
ご丁寧に所々強く光り、室内灯のように効果的に空間を照らしてすらいる。
植物が人間を食べていたのだ、もはや苔が光るくらいでは皆驚かなくなっていた。
見たところ、この苔は光源確保のためのもので攻撃性は無さそう、というのも、ある程度平常心を保てる一因だった。
というか意外にも、ここの植物たちは化物ではなく、本当にただの植物だった。故に、じっくりと観察と探査が行われた。
「これまでとは全然様子が違うね」自ずと誰かが呟いた。
地面に掘られた空間の表面を、発光苔が埋め尽くし、道が舗装されているようだった。その道を挟むように植物が生えている。そして壁に沿って側溝が走り、植物に水を飲ませている。
これらには、これまで地上で見てきた無秩序で暴力的なまでの“生”は感じられなかった。何者かが人為的に、この空間を作り上げている。
「この木は寒いところにしか生えないはずなんだけどなあ……」
青年傭兵が呟く。
視線の先には、少々窮屈そうに天井を衝く針葉樹があった。
この小屋は、夏は乾燥するような地域にある。針葉樹はまず自生しない。しかしさらに、この針葉樹の横に硬葉樹が植わっている。その硬葉樹こそがこの地域でよく見られる植生だった。
この空間の不自然さは、それだけでは収まらないようで、同じ空間に板根を持つ樹と、紅葉を持つ樹が隣り合って植えられている。前者は熱帯雨林、後者は四季の移ろいがある地域で見られるものだ。
こんな調子で、この部屋には、この世界の考えうる植物すべてが、その植生を無視して乱雑に植わり育っているようだった。もはや、この部屋全体が自然の摂理を嘲るようだった。
「こりゃあ、植物園、だな」
「気持ちはわかるけど、ココめちゃくちゃ不自然だぞ。本物の植物園に失礼だね」
「化物が居ないのは、やっぱり不自然だ」
植物園空間はかなり広大だが、この空間に化物の気配は無い。本当にただの地下植物園だ。――そして、少女たちの遺骨も無かった。
「なら、先に進むしかないよね」
空間を区切るように桜並木が咲き乱れている。レジスタンス一行は、奥に進む。もう此処には用は無いと言わんばかりに。
「なかなかどうして不気味なものが次々に出てくるよねぇ……」
桜の白いトンネルを抜けた先で、またしても奇妙な光景に直面した。
液体で満ちたガラスの棺。その中に浮かぶ、少女。緑色の肉。骨。
ガラスの棺は、手前から奥まで十数個はズラリと並んでいた。問題は中身だ。
骨――人骨、奪われた少女たちの骨が、人ひとり分ずつ綺麗に棺に納められている。
その骨格に、肉、緑色の肉、植物で出来た化物になるための肉が肉付けされて、少女の形を成していく。
そうして出来上がった少女たちは、みな一様に同じ姿形、同じ顔、そして、人間と同じ肌の色をしていた。