南へ向かう理由
「戦う理由なんて人それぞれだけどさ、
あれほど『勇者』って言葉が似合う人も
そうそう居なかったんじゃないかなぁ」
―――かつて少年だったレジスタンスのコメント
「あの噂って、南から化物が攻め上がって来てたって解釈でいいのか?」
ありったけの遺骨を抱えてレジスタンスキャンプに帰還し、そのすべてを埋葬した墓場での、誰かの一言。
『街が一夜に一つなくなってる、って知ってっか?』
『ええっ、なんだよそれ……』
『南の方からじわじわ、街か村か、とにかく一晩で一つは滅ぼされてるっていうんだ』
『ははぁ、なるほど。最近人が増えたと思ってたが、そういうことか』
『ま、大丈夫だろ。この城壁が俺達を守ってくれるさ』
「やっぱり、許せねぇよ」
復讐という黒い感情に囚われていなければ出ない発言である。
レジスタンスキャンプ、リーダーのテントにて。
「なんでこんなことになってんだか、それが知りたい」
青年傭兵が言う。これは、唯一外部からものを言える立場としての発言。
「ていうかやっぱり、噂が本当だとしたら、俺たちで止めるべきだと思う。一夜城になってしまった街をも奪還できたんだから。俺たちにはそれだけの力がある」
「……俺たちを使う、みてぇなことを提案するじゃねえか」
リーダーは渋い顔だ。
「街は取り返せた、化物を退ける方法も獲得してる。なら攻め込まれても勝てるじゃねぇか。こっちから攻め込むような危険をまた冒せってのか?」
「我さえ好ければ全て良い、みたいな考えはやめたほうがいい。傭兵業界でも、仕事仲間を裏切るような奴はロクな目にあってないよ。……それに、まだ引っかかってることはあるだろ?」
「それは、まぁ……」
集められた遺骨について、不可解なことがひとつあった。
――女の子の遺骨だけが、無いのだ。
当然だが、犠牲になった街の人間は老若男女問わない。赤子も、少年も、男も、女も、爺も、婆も、等しく殺され、化物になるか植物の養分になるかしているはずだ(少なくとも確認できた範囲では)。
それは、おそらく少女であっても同じはずで、しかし遺骨が出てこないのである(これも、取りこぼしが無ければの話だが)。
喩えて言うなら、水車の歯車の如き無機質さで、淡々と世界を蚕食する植物の化物。
それが、少女たちだけは、その場で吸い尽くさずに何処かへと消し去ったか連れ去ったかしている、というのは不自然だ。
ここにはなにか、何者かの意志が挿し挟まっているような――。
「それを確かめるためにも、南に行くべきってか」
「もちろん、あなたたちの目的は遺骨回収で構わない。だけど、この遠征は自分たちの身を守ることにも繋がるはずだよ」
「…………」
「問題を根本から絶つのが一番の解決策でしょ? そして、今ならそれができる」
「なぁ、だからなんでそんな……危険な目にわざわざ自分から突っ込んでいくんだよ?」
「うーん。さっきも言ったけど、自分たちの為にもなるから。……でも、そしてやっぱり、人の為になるから、なのかなぁ」
この青年傭兵は、良くも悪くも、人の好さで有名なのだった。