登る葬列
「『黄金色の進撃』なんて
語られたりするが、そんな格好良い物じゃなかった」
「みんなドス黒い気持ちだったろうよ。
もちろん、俺もな」
「もう、進んでいくたびに
悲しいやら、怒ってるんだか、悔しいんだか」
――とあるレジスタンスメンバーの後年の述懐
「なんつーか、ホント……やるせぇな」
誰かがぽつりとこぼした。それは、この場――一夜城の最上階にあたるような、この場所に居る、全員の代弁でもあった。奇しくも、そこは城塞都市を管理する役所、そのリーダーが座すべき部屋であった。……今では、ツタやら枝葉やらで壁も床も調度品も緑色だが。
結論から言えば、青年傭兵の「松明を装備する」という提案は大成功だった。化物の巣に突入するというあまりにも危険な行為に反して、松脂による消えない松明を振り回し片っ端から化物を焼き尽くすという作戦により、レジスタンス側の被害は多少の怪我こそあれ死者0名という結果を叩き出した。
だがそもそも、危険を冒してまで一夜城の捜索に踏み切ったのは、“生存者がいるかもしれない”という希望を捨てきれなかった、いや捨てたくなかったからである。この“前提”さえなければ、大樹である一夜城を焼き払って制圧完了としても善かったのである。
して、その“希望”を探して判明したことは――
「生存者0名、ね」
また別の誰かが、沈痛の声でつぶやく。
そう、この城塞都市だった場所には、もう人間と呼べるものは存在していなかった。その事実は、レジスタンス一同、最も認めたくないもので。
しかし、現実の非情さは想像を易々と凌駕していったのだった。
「本当、ごめんなさい」
青年傭兵がレジスタンスリーダーへ頭を下げる。
「お前を責めるのは、お門違いだ」
涙で濡れた目元を手の甲で拭ってリーダーが返す。
「どうしようも、ねえよ。どうしようも」
先述の通り、戦果は華々しいものである。しかしそれでも拭えないこの黒い空気は、一夜城の門扉から始まっていた。
「なぁ、これは……なんだよ」
「ああ、門番の化物、かな? 近づくと腕を伸ばして襲ってきたんだよ。触手……なんだろうか」
「違うそういうのを訊きたいんじゃない! なんでコイツがこんなところで死んでるんだって言いたいんだよ!」
「え?」
化物の門番は人型ではあるが、あくまで植物が人の形を模したものだ、と傭兵は考えていた。だが違ったらしい。――考えうる最悪の形で。
「おま……こんな躰になってさぁ……なんっ、く……クソっ」
化物の死体の横で洟をすすりながら錯乱し嘆き続けるレジスタンスメンバーの話を聴き取るのは、なかなか骨の折れる行為だった。
なんとか聴き取ったその話と、状況から得られた推察は簡潔に言ってこうだ。
人間が化物になっている。
どうも、化物の植物に襲われた人間は侵食されて化物となるらしい――その場にいた全員が正しく悪夢だと言いたくなるような推察だったが、状況は「そうだ」と言わんばかりであった。
しかしそれでも、希望は捨てられないのだ。もはや居ないだろうという言葉を飲み込んで、それでも彼らは生存者を探して、一夜城を黄金色の炎で以て駆け登った。
そうして得られた成果は、“逃げ遅れた人間はすべて化物となり、生存者は0名”という、想定されていた最悪を超える“最悪の現実”だった。
此方を縛り上げ四肢を引き千切らんとするツタの触手を焼いて。
かつての街の仲間だったものを焼いて。
人間をを喰らい尽くさんとする巨大な白爪草を焼いて。
街を侵食した植物の化物を焼いて。
レジスタンスメンバー達が得たものなんて――
「許せない」
復讐心しか、ないのだった。