人助けは楽じゃない
「……」
パタン。
視界一面に緑を認めるなり、素早い動きで外に出て門を閉めた。会心の動作だった。
正直「うわあーっ!」とか「おわーーっ!」とか叫びたかったが、潜入中の傭兵としての理性でもってその声はなんとか呑み込んだ。
(いやいやいや冗談キツイってマジでよぉ~~~~何の冗談だよ……」
と言いたい。いや言った。途中から声に出ていた。
植物はすべて化物と思っていいだろう。それが城の中に犇めき合っているとなると、この潜入は化物の巣に飛び込むようなもので、そんな行為は、わかってはいたが危険だ。
火をかけて焼き払ってしまえればどれだけ楽だったろうか。
「中に取り残された人がいるかもしれないから、その救出も頼む」
「化物に侵攻された城塞都市なんでしょ? あまり言いたくないけど……生きてないんじゃないの?」
「生きているかもしれないだろう!? ……もちろんレジスタンスの中には諦めちまった奴も居る。だがな、俺はリーダーとして諦めることは許されねぇんだ! 少しでも元に戻る物があるなら、な」
「わかった、わかったから」
自分の言葉で激昂したリーダーを思い返す。
あの言い方からして、レジスタンスは諦めていない人間の方が大半で、きっと縋りつかれたのだ、「あの人を返して」と。そうやって自分ではどうしようもない想いをぶつけられた結果が、『リーダーとして諦めることは許されねぇんだ』という発言なのだ。
傭兵にはその気持ちがわかる。過去の依頼で全く同じ状況を味わったからだ。確かその時の相手は人さらいだったか。
だが、それと今回のこれは相手のレベルが違いすぎる。人間ひとり相手なら勝算は高く見積もれるが、機械的に判断を下し、脅威度も人間とは比較にならない化物、それが大勢が相手となると……。
しかし、この青年傭兵は人の好さで有名なのである。
「諦められねえよなぁ……!」
こんな人命救助、傭兵にしかできないことである。縋られてしまって、可能性があるならやるしかないのである。
そうと決意を決めれば、どうすれば良いのか、を門の前で考えてみる。
今一度、門の中を思い出す。化物がウヨウヨ居た。中に入れば四方八方を囲まれてすぐに殺られるのが目に見えている。
ならばどうするか? 囲まれないためには何が有効だ? 植物が相手だというなら、松明でも背負って戦うか? いや、それは今ひとりだからそうするしかないという戦い方だ。
「背中を誰かに任せてしまえたらなー………あ」
居るではないか。
戦う覚悟も動機もふんだんにある人々が。
「松明を振り回して戦う、か……」
レジスタンスキャンプのリーダーのテントにて、青年傭兵は依頼を受けたときと同じように、リーダーと話し込んでいた。違うのは、逆に依頼し返していることだ。
あまりにも早い帰還に、レジスタンスの人々は、逃げ帰ってきたのかと非難や落胆、あるいは傭兵でもダメなのかという失望を浮かべたが、青年傭兵の表情が敗走した者の顔ではないことに気づいてからは、黙ってキャンプの中心への道を空けた。
そうして、テント内で青年傭兵からの報告と依頼――化物が植物であること、対抗策として松明を装備した人手が欲しい――を受けて、リーダーの先述の一言がある。
「で? どうなん? 人も松明もあればあるだけ欲しいけど」
「俺の予想通りなら、悪いようにはならんぜ」
そう言い返して、リーダーはテントの入口の垂れ幕をあげる。
そこには、耳をそばだてていたレジスタンスの面々が……ほぼ全員。
その視線を受けて、リーダーはニヤッと笑って、それから声を張り上げた。
「お前ら、聞いてたな!? これより、俺たちの街を取り戻す! わかったら、松明を準備しろ!!」
彼らは鬨の声で返した。