表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然素材の人形遊び  作者: 命のデザイナー
10/11

おぞましい命

 レジスタンスの一団の先頭を進む青年傭兵が、並んだ棺の奥に人影を認めた。

 着ている服は、その役目をまったく果たさない程度にはボロボロだ。全身汚れていて、殊に四肢の先は真っ黒に黒ずんでいる。髪も髭も伸びっぱなしで整えられた形跡が無い。

 ――そんな人間が、壁に寄りかかって、うずくまって、座って居た。


 ぎろり、と、小屋の主らしき人間がこちらを視界に入れた。

 「お前が化物の親玉か」傭兵が呼びかける。

 箱庭の王は、その言葉に反応するでもなく、ぼんやりとこちらを見ていたが、やおら手を合わせた。

 それを合図に、地獄が始まった。




 尖った根が突き上げてくる。

 鋭利な葉が飛んでくる。

 鋭い枝が降ってくる。

 強靭な蔓が打ち下ろされる。

 苛憐な花が喰らい付いてくる。


 それらはすべて、炎で焼けば、動きが止まる――はずだった。

 しかし、地下の植物は、焼かれても動きが鈍りこそすれ、止まらなかった。燃えたままで、なおも襲ってきた。

 レジスタンスが反逆の鍵として見出した炎が、牙を剥いた瞬間だった。


 さらに、ここは閉鎖的な地下空間。植物の密度が、一夜城よりも大きかった。




 圧倒的な暴力が、絶対的な「排他」が、そこにあった。


 抵抗する間もなく枝と根で串刺しにされる者。

 炎を纏ったままの葉と草に包まれる者。

 種子の雨に全身が穴だらけになる者。

 燃える蔦に四肢を握り潰される者。

 花に頭から喰われる者、それを助けようと火をかけるも、呑み込むために丸くなった花に叩き潰される者。






 化物が(うごめ)く音。植物の()せ返る匂い。

 レジスタンスの悲鳴と、人間が裂ける音。血の匂い。

 そして、化物と人間が焼ける音。火葬の匂い。


 それらが混ざり続ける阿鼻叫喚。

 抵抗する術なく、レジスタンスたちは死んでいく。


 ついに逃げ出す者が出始めた。ひとりが逃げ出せば、生き残っている者はそれに倣って逃げ始めた。

 化物の目的は「排他」であるが故に、去る者を追う事は無かった。





 その流れに逆らって、奥に向かう者が居た。青年傭兵だ。

 炎が役に立たないと判った瞬間、松明を捨てて剣だけでなんとか捌いてきたのだ。


 「化物が攻撃してくるときの狙いは正確だが、こちらの動きを予測することは無い」

 とにかく動き回って一所(ひとところ)に留まらないように立ち回ったのも、彼が生き残った大きな要因だった。

 先瞬まで自分が居た場所を、無数の根と枝が突き刺していたり、種と葉の雨が降り注いだりしている度に、青年は身がすくむ思いだったが、脚を止めることは絶対にしなかった。

 ――この方法でしか生き残る勝算は無く、そしてレジスタンスの面々は守れそうもないことが悔しかった。

 無論、それでもなお無傷では済まなかった。炎とその熱だけは如何ともし難かった。本当に肺が焼けそうだった。少なからず焼けた腕が引きつって剣を落としそうだった。ただでさえ動き続けて虫の息だった。


 それでも彼は、燃える命の地獄を突き抜けて、箱庭の主の前に到達した。






 「お前さ、植物好きなの?」


 (はやくいなくなれ)


 横から伸びてくる枝葉を切り払う。




 「なあ、わかってんのかお前」


 (じゃましないでよ)


 絡んでくる草を刈り捨てる。




 「お前のやってることは」


 (サクラの言葉()が恋しい)


 急激に咲き始めた芝桜を踏み潰す。




 「自然の摂理に」


 (?)


 俄かに芝桜が蠢いて巨大な口の形をとる。




 「反してんだよォ!」


 (! ……そんなわけない)


 噛みついてきた化物をひらりと躱して切り伏せる。




 「何があったか知らないけど本当に度し難いわ」


 (だって植物はぼくの味方で、サクラもぼくに感情をくれて)


 箱庭の王をイバラが包む。




 「……なんとか言えよ!」


 (ぼくの箱庭にサクラが居ないほうが自然だって言うの?)


 イバラの籠を切り裂く。




 「こんだけ人を殺しておいてお前……」


 (人間社会はどこまでぼくを責め立てるんだろう)


 青年傭兵が剣を振り上げる。




 「許されると思うなよ!!」


 「出てって」


 傭兵の剣がイバラの籠に突き込まれるのと、ひとすじのイバラが青年を貫くのが、同時だった。

「生き残った人は、その後は平穏に暮らしたさ」

「でも、原因が判らないから、対策も何もできない」

「だから教訓もない」

「だからまた、同じようなことが起こるかもな」

「その覚悟だけはしとけ」


――教えを請われた生き残りの老人のセリフ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ