助手席側のボンネット
僕の名前はコトラ。悠々自適な野良猫だ。
え?野良猫のくせになんで名前があるかって?
そう、僕は数年前まで飼い猫だったんだ。
だけど、ある日飼い主のユウタ達を乗せた車が事故に遭ってそのまま帰って来なかった。
僕はあったかい日は外に出してもらってその車のボンネットで昼寝をするのが好きだった。
ユウタがいつも乗る助手席側で。
ユウタ達がいなくなって野良猫生活を始めてからも、
同じような車を見つけてはボンネットに乗って昼寝をしていた。
その日も、車の上でウトウトしていた。
そこへ楽しそうに話しながら、親子が近づいてきた。
「あっ、ねこちゃんだ!」男の子が僕に触ろうとしてきた。
その時、ふと目の前の子がユウタに見えたんだ。
だから、いつもは触られるのはごめんで逃げるのにこの時は違ったんだ。
ちょっと恐る恐る僕に触る男の子と
「大人しい猫ちゃんだね、飼い猫かな?」といってわしわし僕を撫でるお母さん。
なんだか懐かしさと嬉しさで僕は2人にすりすりとした。
この自由な生活に慣れてしまって飼われるのもごめんだと思っていたのに。
『僕を連れて帰ってくれていいんだよ』と言ってみたけど、
親子にはニャーとしか聞こえないみたい。
「そろそろ行かないと」お母さんがそう言って、男の子も僕にバイバイをする。
『まって! いかないでよ!連れて行ってよ!』僕は言いながら2人の後を追った。
男の子が気付いて「ママ、あの猫ちゃん僕たちが好きなのかな?連れてっちゃダメ?」
と言ってくれた。
お母さんは「人慣れしているし、飼い猫かも知れないから簡単には連れていけないよ。」
なんて言ってる。
『大丈夫!僕は野良だし、君たちと一緒に居たいんだ!!』
途中で見失いそうになりながらも、親子の住む家までついて行った。
翌日、玄関を出てきた男の子に「ニャー」と言うとびっくりしてお母さんを呼びに行った。
「きっとうちの猫になりたいんだよ。」と瞳を輝かせてた。
お母さんも「猫を飼いたいと思ってたから、偶然じゃないのかもね」と言っている。
男の子が「僕の名前はユウトだよ!よろしくね!えっと、猫ちゃんはチャトラだからトラだ!」
そういうと、お母さんは「安易すぎるでしょ」と笑った。
ふと駐車場をみるとそこには同じ車が置いてあった。
ねえ、僕はまた君が乗る助手席側のボンネットで君達を思い浮かべて昼寝をするよ。