板橋奈緒子 ???
「あっ。はぁぁああっ。あっ……」
意識が戻っては消え。身体中を走る快楽に耐え。
自分が消えそうになりながらも、私はまだ正気を保っていた。
この状態が正気と言えればだが。
私の下半身は巨大な蛆虫のように変形してしまい立つことはできなくなってしまっていた。
だから這った。
洞窟の奥に進んでいく。
たどり着いた場所は巨大な空間だった。
そこで野球ができるほどに広い。
「んんっ。んああっっ」
また身体が変形を始める。
それに耐えていると巨大な空間の奥に、私は巨大な肉塊を見た。
ビクンビクンと脈打っている。
色はピンク色で新鮮な肉独特の光沢を感じさせる。
ほとんど意識が残っていない私はその肉塊に近づいていく。
恐怖は全く感じなかった。
早く楽になるのならどうでもよかった。
「殺して……もう……」
肉塊の前で私は力尽きようとしていた。
そのとき肉塊から長い管のような器官が伸びてくる。
それが私の身体を持ち上げる。
私、喰われるんだ……。
突然視界が光に包まれ思考がクリアになる。
私の身体はもう肉塊に包まれてしまい身動きすらできない。
頭の中に知らない映像が流れてくる。
とても見ていられないようなおぞましいものだった。
木を伐採し、大気を汚染し、動物を狩猟し。
同族同士で殺し合いをし。
そして、最後は核の光が地上に堕ちた。
人間の闇だ。
それを地下深くから見ている映像。
あぁ……なんて愚かしいのだろう。
記憶が膨れ上がる。
溢れる。これ以上入ってこないでっ。理解させないでっ。
情報の暴力。
脳にこれほどまで圧力がかかるものなのか。
私は死を覚悟した。
そして、死の覚悟で冷えた思考で肉塊の意思に同調した。
うん。私もそう思う。
ホモサピエンス……。
なんて愚かな。
ふっと。脳の負荷が軽くなる。
私は受け入れた。
もっと入ってこい!! もっと!!
一度受け入れてしまえば楽なものだった。
肉塊が私の中に入ってくる。
毒によって暴走させられた身体が元の機能を取り戻す。
でたらめに三本も生えた腕は引っ込み、蛆虫になった足は綺麗な生足に戻った。
歪んだ自慢の顔。
左右で倍ほども違っていた乳房も元の綺麗な形を取り戻す。
「全裸はちょっとはしたないわね。ふふふ……」
まずは服をどうにかしなきゃ。
私は新しくなった自分に惚れ惚れしながら服を探した。