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邪竜の町  作者: テルミン人形
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白羽有希(1日目 夜 21:05) 愛宕神社境内

目覚めると私は闇の中にいた。

「う……ん?」

肌にまとわりつく不快な湿気で、そこが屋外であることが分かる。

ひどい蒸し暑さだ。


状況を整理しようと、とりあえず身体をさすってみる。特に痛いところはない。異常はないようだ。周りをぐるりと見回す。見覚えがない。直前までなにをしいていたかが思い出せない。

ふと思いついてズボンのポケットからスマホを取り出す。

圏外。電波無いんだここ。こんな町中であり得ないことだ。


そもそもここは町中なのだろうかと疑問が浮かぶ。

スマホの表示は21時5分。まだ健全な時間だ。

どうやらお酒の飲みすぎでここまで来て寝ていたという線は消えそうだ。


「なんなの……ここ」

真っ暗な闇の中から現れたのは神社の境内のようだった。神社の入り口のほうには鳥居も見える。どうやらこの神社は高台に位置しているようだ。

ぼーっとした頭のまま歩いてみる。高台から見える景色には見覚えがある。ただ、それはいつも見慣れた風景ではなかった。


「霧?」

富士山の頂上からの映像を見たことがあるだろうか。

私はそれを真っ先に想像した。

この高台の下は霧で覆われていたのだ。まるで雲の海のように。

ここが高台に位置しているからだろうか。この神社だけが霧に呑まれず取り残されているように見えた。

霧で見えづらいけど、あの明かりは市役所だろう。確か、市役所の裏に神社があったような気がする。


異様なことに、神社の周りからは音が全く聞こえなかった。ここは町中のはずだ。車の音くらいしてもいいはずなのに。それどころか、虫の声、風の音すら聞こえない。

「とりあえず帰るしかないよね……」

私がここに倒れていたことは疑問だったが、ここは気持ちが悪い。

早く離れたかった。


「誰だ!!」

「ひあぁあああ!!」

神社の裏手の方から声が聞こえ、眩しい光が私の顔に当たる。

私は石につまずいたらしく、後ろ向きに倒れる。

「やばっ。立てない。腰が抜けて……」

「おい!! でかい声出すな!! 奴らに気付かれる!!」


声の主は焦っているのか意味不明なことを口走りながら距離を詰めてきた。

「やっ。こらやめ痴漢!! んんぐ……」

もみくちゃにされ、私は後ろから口を押えられてしまう。

それでもここで捕まるわけにはいかない。私は足をめちゃくちゃに振り回して抵抗した。

「このくそアマっ!! って白羽さん?」

「え……?」


その声を聞いて、私の頭は急に冷えた。

「もしかして宏樹くん?」

そこにあったのは懐かしい顔だった。

私の中学時代の部活の後輩。

「え、なんで? なんで先輩がこんなとこに?」

その後輩はわけが分からないといった表情で私を見つめてくる。

「あたしが聞きたい」


宏樹は私の前からある日突然姿を消した。

両親の仕事の都合と聞いている。

いろいろあったとしか言いようがない。

どちらにせよ、私にはどうしようもなかった。

でも、今は懐かしい再会を喜んでいる場合ではない。


「そ、そんなことより。どこか物陰に隠れたほうがいいです。奴らが探しにくる」

奴ら? 追われてるの?

暴漢でもいたんだろうか。考えられなくはない。

「あたし、気づいたらここに倒れてて。逃げてきたって不審者?」

「不審者というか、異常ですよ。ゾンビみたいなのが歩き回ってるんです。それで具合悪いのかと思って話しかけたんです。そしたら噛みつこうとしてきて」


信じられない話だった。

でも、この霧と私が倒れていた状況。それに来たこともない神社。

全くの嘘というわけではなさそうだ。

宏樹が説明しますと言って立ち上がる。

私もそれに……続けなかった。


恥ずかしいことにさっきのでお尻が地面にくっついてしまったままだ。

「宏樹くん。お願いがあるんだ」

「はい?」

「あたし腰抜けちった……」

「俺はどうすればいいんでしょう……」

「おんぶして」

「で、でも。俺たちまだ会ったばかりですし……」

「いろいろあったかもしれないけどそれは後!! 帰ったらお話は聞かせてもらいますっ 」


境内から少し離れた位置にベンチが置いてあった。

私は当然ながら宏樹におんぶされての移動だ。

とりあえずはそこで作戦会議。


「白羽さん。スマホは見ました?」

「圏外なんだねここ」

「変ですよね。高いといってもこんなに悪いなんてことないんですよ。普通にこの高さのとこに高校とかありますし」

宏樹はスマホを取り出して操作する。

「GPSも駄目ですね。ネットも使えない」

「だめかぁ~」

ネットが使えればこの霧がなんなのか分かるかもしれないのに。


「そういや宏樹くん戻ってきてたの? 全然聞いてなかったよ」

「いや、その……またすぐ帰りますし。お祭りがあったと思って」

「なんで連絡くれなかったの? あたし心配してたんだよ?」

そこで私は宏樹がお祭りに来たこと。

私と同じく、ここ数時間の記憶が抜け落ちていることを聞いた。

そして、宏樹の口調から私は察した。

私に言いたくないことがあるんだなぁと。


「とりあえず、あたし帰るよ。家の人心配してると思うし。明日になったらこの霧も晴れるでしょ」

「帰るんですか? 下はいま大変なことになってて」

「じゃあ朝までここにいるの?」

ここだって安全なわけじゃない。

早く家に帰りたかった。


「なら送ります。ひとりじゃ危ないですから」

「…………」

「あ、歩けないんですね」

私、めっちゃわがままな奴になってる。

恥ずかしかった。

「うん」


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