表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/24

9 圧勝でした!

 アーグは大声で叫ぶ。


「このアーグとそこの亜人で弓の腕を競い、負けたほうが壺を賠償するのです!」

「それはつまり、エルゼが負けたら俺が賠償しろと?」

「殿下にお金は求めたりはしません……ですが、グロン様と私に謝っていただきたい!」


 その声にグロンも頷く。


「僕もそれで構いませんよ。謝ってもらえれば、それで」


 結局は、ただ力関係を周囲に見せつけたいだけか。


 今確認したところ、アーグのユニークスキルは【弓聖】のようだ。

 弓の扱いに大きなバフがかかる。

 【弓神】が上位で【弓使い】が下位なら、この【弓聖】は中位。


 アーグも自分の腕に絶対の自信があって、こんなことを挑んできたのだろう。


 【アポロン】の弓へのバフは、【弓神】と同等。

 だから、フリッツなら負けないと思うが……エルゼはどうだろうか。


 エルゼの持つ【夜刀神】はあらゆる攻撃手段、防御手段にバフがある。

 スキルの優劣だけなら、アーグに勝てるはず。

 だが、まだエルゼは子供だし何とも言えない。


 まあ、謝罪だけなら別に何の問題もない。

 気が晴れるなら、いくらでもグロンに頭を下げてもいい。


「それなら、試合の必要はない。ここで謝るよ」


 俺が申し出るも、アーグは首を横に振る。


「いや、それではいけません! 正々堂々戦ったうえで、謝っていただきたい!」

「俺が謝ること前提なんだ……」


 というよりは、力を見せびらかし、周りから持てはやされたいのだろう。

 まだ子供だし、気持ちは分からなくもないが。


 しかし、試合か。


 この国の弓競技は少し変わっている。


 弓道やアーチェリーのように的を当てて競うのではなく、互いに一定の距離を取り合い、相手に矢を当てたほうの勝利となる。

 だから、回避したり何発撃っても問題ない。

 

 西部劇の決闘というよりは、ドッジボールに近いかな。


 ただの競技なら矢じりがなく布が付いたものを使うが、決闘なら本物を使用する。


 今回は、競技用の矢を使うわけだが……


 正直、グロンが何を考えているのか分からない。

 競技用の矢に、実は矢じりが仕込まれている可能性も……


 だが、フリッツがにこやかな顔で言う。


「殿下、せっかくです。受けたらいかがですか?」


 随分気楽に言ってくれるな……

 だが、フリッツは今の今まで何も喋らなかった。

 陰謀はないと判断したか、あるいは自分で止められるから、わざわざ勧めているのだろう。


「エルゼ次第だ……」

「私は、構いません。殿下のため、この試合受けさせていただきます。私が勝ったら、殿下に謝罪していただきます」


 エルゼは迷いのない顔で言った。


 声の調子に、少し苛立ちのようなものも感じた。


 アーグはにんまりと笑う。


「ほう、受けるか! 亜人にしては、なかなか潔い。せいぜい、殿下に恥をかかせぬよう、鼠のように逃げ回ることだな!! そこの者、矢を持て!」


 アーグの声に、訓練場の管理人が矢を運ぶ。


 矢にちゃんと布が付いているが……


 だが、気は抜けない。

 俺はフリッツの袖をつまむ。


 しかしフリッツは心配ないと、自信満々の顔で頷く。


 そればかりか、


「エルゼ。相手を立てることも忘れないように」

「はい!」


 エルゼが答えると、ちっというアーグの舌打ちが聞こえた。


 フリッツもエルゼもなんだか余裕の表情だな……


「よおし、ここらでいいだろう!」


 アーグはエルゼと三十メートルぐらい離れ、叫んだ。


 管理人が二人の足元にそれぞれ横線を引く。


 そこから先は足を踏み入れていけない。

 つまり、この線に沿って横方向にしか動けないというわけだ。もちろん、後退しても反則負けとなる。


「よし、審判の掛け声で始めるぞ!」


 管理人は頷くと、「始め!」と叫んだ。


 アーグはすかさず弓を構える。


「帝国一の弓取であるこのアーグの矢! 受けてみよ!!」


 口先だけではなかった。


 アーグはすぐに狙いを定め、矢を放った。

 矢は目で追えないほどに早い。

 さすがは、【弓聖】といったところか。


 しかも、アーグは続けさまに矢を放っていく。

 エルゼが避けても当たるよう、放射状に。


 対してエルゼはまっすぐ弓を構えたまま、立っている。


「はっ! 狙いも定められぬか! ……なっ!?」


 アーグはすぐに言葉を失った。


 エルゼは矢を放ち、アーグの最初の矢を射落としたのだ。


「や、矢に当てた!? ひっ!?」


 アーグの眼前には、すでにエルゼの二射が迫っていた。獲物に襲い掛かる隼のような矢が。


 矢はアーグの頬を掠め、後方の壁にぶつかる。


「え……え?」


 思わず、アーグは後ろに振り向く。

 そこには衝撃で折れてしまった矢が。


 この場にいる誰もが、驚愕していた。

 あのグロンも、大きく口を開けている。

 

 アーグはエルゼのほうにゆっくり視線を戻す。

 そこには、弓を構えたエルゼがいる。


「あ、ああ……い、いやだ! 撃たないで!」


 声を震わせ、アーグは弓を落とす。


 その足元には液体が広がっていた。

 恐れのあまり、失禁してしまったようだ。


 フリッツは言う。


「審判。勝負はついたようだが」

「え? は、はい! 勝者はエルゼ殿です!」


 その瞬間、周囲から拍手が沸き起こった。


「す、すご……」


 俺も思わず、そんな言葉を漏らしていた。


 フリッツは分かっていたんだな。

 絶対に、エルゼが負けないと。

 そりゃ、戦闘だけなら最強のスキルだが……まだこんな子供で力を発揮するなんて。


 歓声が上がる中、エルゼは俺に頭を下げる。


 そんなときだった。


 フリッツが、エルゼの後方に落ちている矢を持ってくる。

 アーグが放ったものだ。


 皆がフリッツに注目する中、グロンだけ様子がおかしかった。

 落ち着きがないというか……


 フリッツは俺の前に来ると、矢を見せる。


「殿下。こちらを」

「うん? この矢がどうしたんだ?」


 フリッツは何も言わず、矢の先端にある布を取り除く。

 矢じりこそついていなかったが、先端が尖っていた。


「これは……」


 俺は管理人に目を向けた。


 管理人は慌てた様子で言う。


「わ、私はこの矢を自分に出すようにと、アーグ様に!」


 その言葉に、アーグは顔を上げる。


「……え? え?」


 アーグも何が起きたか分からないといったような顔だった。


「と、飛びやすいから、それを頼んだだけで……確かに卑怯だとは思ったけど、先が尖っているなんて!」


 慌てるアーグに、グロンが蔑むような顔で言う。


「うわあ……アーグ何やってるの? 宮中でこんな危ないもの、人に撃つなんて……」

「そ、そんな! そもそも、グロン様が私にこの矢を…ぐっ!?」


 グロンはアーグの頭をぐりぐりと踏みつけた。


「子供の悪戯で済む問題じゃないんだよ。啖呵切って小便漏らした上に、卑怯な手使ってたなんて、もう生きる価値ないよ、お前」


 憎しみのこもった声に、アーグは涙声で訴える。


「わ、私は……ぐっ!」

「早く謝罪しろ! 殿下に、皆に! さっさと詫びて自分で死ね! じゃないと、お前の家族も皆終わりだ!」


 とても見てられなかった。

 アーグは憎たらしかったが、まだ子供だ。それに、グロンが仕組んだのは明白だ。


 俺はグロンに言う。


「グロン、よせ……アーグは矢を準備する段階で、間違えてしまったのだろう」


 グロンは少し驚くような顔で俺を見た。


「なるほど……その可能性も、確かにありそうですね」


 お前が仕組んだんだろう……

 俺の大事な部下を傷つけようと、こんなふざけた真似を。


 腹が立つ。

 だが、ここでグロンをさらに怒らせれば、また何をしでかすか分からない。


 俺は怒りを抑え、管理人に言った。


「……ともかく、調査が必要だ。本当に手違いか、誰が用意したのかにしろ、この場でアーグに責任を負わせるのは尚早だ。近衛兵に調査を命じてくれ」

「は、はい! ただちに!」


 管理人はすぐに訓練場を後にする。


 それを見たグロンは、アーグから足をどけた。


「殿下。私は失礼しますよ」

「構わない。だが、壺は良いのか? 陛下からいただいたんだろう?」

「ああ、壺……もともと、矢の的にしようと思っていたのでお気になさらず」

「皇帝からの壺を、か。大した話だ……偽物なんだろう?」

「本物ですよ……さぞかし、いい音が鳴ると思いましたので」


 グロンはそう言い残して、ここから去っていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ランキング参加中です。気に入って頂けたら是非ぽちっと応援お願いします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ