3 逸材を発見しました!
優秀な人材を集めよう!
……と言っても、惹きつける何かががなければ人は寄ってこない。
俺に魅力がないなら、金や役職で人を集めるしかないだろう。
しかし、俺にはそれもないのだ。
だから、地道に誰かと仲良くなるしか手はなそうだ。
上級貴族は誰も話を聞いてくれそうもない……
でも、宮廷に入れない下級貴族なら数も多いし、誰かしら話も聞いてくれるかもしれない。
俺が知る限り下級貴族はそこまで能力は高くないはず。きっとユニークスキルがあまり強くないのだろう。
下級貴族とは、宮殿周辺の貴族街で会える。
貴族街は警備が行き届いているため、皇族は護衛なしでも自由に歩けるが……十二歳以下の皇族は付き添いが一人必要だ。
なので、まずは宮殿で付き添いになってくれる人物を探さなければいけない。
専属の使用人かメイドを付けるのが一番早いかな。
別に優れた紋章を持ってなくても大丈夫だ。
しかし、俺はメイドや使用人からも受けが良くないという……
将来辺境に飛ばされるのは確実と噂になっているようで、皆俺だけに冷淡だ。気に入られては、専属にされ辺境に共に行くことになると恐れているのだ。
弱ったな……いきなり難関だ。
それでも、俺は宮殿を歩き回った。
ひとりでも変わり者はいないかと。
「あの、お話が……あ」
声を掛けようと近づくも、使用人たちは俺と目が合い次第、背中を向け去っていく。
うん。取り付く島もないとはこのことだ。
もう宮殿を一時間も歩き回っているが、誰も相手にしてくれそうもない。
気が付けば宮殿の隅のほう、使用人もあまり来ないような裏庭に出てしまった。
こんな場所じゃ誰も……うん?
花壇の向こうから、笛の音が聞こえてきた。
心地よい。だがどこか寂し気なその音に、俺は足を止める。
いい曲だな……いや、奏者がいいのか。
俺はゆっくり、その音の鳴るほうへ歩いた。
いた。まだ小さい子だ。
角笛を吹いていたのは、メイド服を着た女の子だった。
年は俺と同じ七歳ぐらいだろうか。
白銀の髪を背中まで伸ばした、幼いながらも美しさを感じるその子に、俺は耳だけでなく目をも奪われる。
それにしても綺麗な音だ……
もしかしたら、音楽に関するユニークスキルを持っているのかも?
俺は女の子の手に目を向けた。
すると浮かび上がってきたのは──
【夜刀神】……だと?
アルワナの最強スキルは、世界の神話に由来するものが多い。
ただの~神ではなく、固有の神や神器の名前が付く。
名前ならゼウスとかシヴァ、神器なら草薙の剣やらグングニル。
この【夜刀神】もその最強のスキルの一つである。
日本の神の名を冠したこのスキルは、あらゆる攻撃と防御にバフがかかり、やがてその名に恥じない武力の持ち主に成長する。
だが、これは竜や蛇系のモンスターが持てるスキルだったはず……いや、竜人なら持てるか。
竜人は普段人のような姿をしているが、いざとなれば竜に姿を変えられる。
そうか、この子は竜人か……
だが竜人の特徴である角は見えない。
恐らく、あの笛が己の角だったのだ。
帝国では征服した地域の亜人に、服従の証を求める。
亜人の特徴である尾や耳を捨てさせ、人間に近い見た目にさせるのだ。
あの子も証として、角を切り落としたのだろう。
どことなく寂し気な音なのは、そのせいかな……
とりあえず、曲が終わるのを待って話しかけてみようか。
俺は目を瞑って、しばらく女の子の演奏を楽しむことにした。
だが突如、笛の音は止まってしまう。
「ピーピーうるせえんだよ、人間もどき!」
代わりに響いたのは汚い言葉だった。
いつの間にか、貴族の子供が三人ほど女の子の前に立っていたのだ。
真ん中の子供は確か……ベーロン公爵の長男グロン。
七歳にして大人の兵士を圧倒する剣の腕を持つとかで有名だ。
今確認したが、ユニークスキルは【剣神】。
なるほど、剣技に長けるはずだ。
女の子はすぐに頭を下げる。
「も、申し訳ございません!」
「それって、お前の角? 角が生えるなんて気持ち悪っ」
グロンは女の子から角を取り上げ、それを足で踏みにじった。
「ははっ! どうだ!? 返してほしかったら、そこで裸になれ! 裸で踊ったら、返すのを考えてやるよ」
なんでこんな酷いことをするんだ……
いや、そうじゃない。俺は何をやっているんだ? 子供がいけないことをやっているんだ。早く止めないと。
でも……俺の足も口も重い。
グロンに意見することは、多くの敵を作ることを意味する。
グロンの父ベーロン公爵は、帝国でも有数の大諸侯だ。
帝都に近い豊かな領地を持ち、皇帝であっても彼の意見を真向から反対することはできない。宮廷でも彼の影響力は絶大なのだ。
ベーロン公爵は大の亜人嫌いで有名だ。その子であるグロンは父から影響を受けてこんなことをやっているのだろう。
ここでそんなグロンに逆らえば、ベーロン公爵家から後々まで嫌がらせを受けるかもしれない。今よりもっと、自分の立場は悪くなるはずだ。
……だが、一体それがなんだ?
ここで見て見ぬふりはできない。権威というのは、こういうときに振りかざすべきだ。
俺はグロンの前に立ちはだかった。
「……返してくれないか?」
「あ? 誰だ、お前……いや、あなたは」
グロンと取り巻きはすぐに頭を下げた。
「これは殿下。一体、何の用でしょう?」
「彼女にその角を返してくれ」
「一体、何の権限があって? というか、こいつは人間もどきですよ? なんで、こいつの肩を持つんですか?」
グロンは不快そうに俺を睨む。
まあ簡単には引き下がらないよな……皇子相手とはいえ、帝国一の無能の命令を聞くなんてプライドが許さないはずだ。
だから、何か理由が必要だ。
「そ、それは……彼女は僕のために、その笛を吹いていたんだ」
もちろん、嘘である。
だが皇子である俺の命で笛を吹いていたとあれば、グロンもこれ以上は何も言えない。
グロンは俺を睨みつけながら、笛から足をどけた。
「そういうことなら……どうぞ」
「ありがとう、グロン」
俺がそう言うも、グロンは舌打ちしてその場を去っていった。
ううむ。恨まれたかな……まあこうなった以上もう仕方ない。
俺は笛を拾うと、それを女の子に渡す。
「はい。もっと早く止められなくてごめん」
「そんな……ありがとうございます……ありがとうございます」
女の子は涙を流しながら、笛を受け取るのだった。




