24 息ぴったしでした!
カイルは不安そうな表情で、金づちを振るジャックを凝視していた。
それを見たアルネは、たまらない様子で呟く。
「こ、これでは日が暮れるどころか、一年あったって何もできない。せめて、ジャックに何をしているか教えさせます」
俺は首を横に振る。
「いやアルネ、大丈夫だ。カイル、動きたければ自由に動いてくれ」
「え? は、はい」
視線を変えず、カイルは俺に答えた。
カイルの手や足がそわそわしている。ジャックの動きに何かを感じるのだろう。
やがてジャックが立ち上がろうとすると、カイルが近寄った。
カイルは何も言わず、ペンチのようなものを手にした。
たしか、やっとこというものを挟む道具。
そのやっとこで、カイルはジャックが打っていた鉄塊を挟んだ。
「ジャックさん。これを熱すればいいのですよね?」
「お主……まあよい。やってみよ」
ジャックの声に、カイルは鉄塊を炉に入れる。
鉄が赤みを帯びると、カイルはそれを鉄床に戻した。
ジャックはその鉄をかんかんと金づちで伸ばす。
「ふむ、よくわかっている」
「立ち上がるのが辛そうでしたので」
カイルはそう言って、冷めていく鉄を再び炉に戻す。
そして鉄床に戻し……作業を繰り返していった。
素人の俺が見ても分かる。
カイルはとても器用だ。動きに無駄がない。
ジャックも感心したのか、作業台の金づちに視線を送る。
それを見たカイルは「はい」と答え、自分も金づちを握った。
「二人でやるほうが早く延ばせる。ワシの振りに合わせ、お主も叩いてみよ」
「はい!」
カイルはそう言ってジャックと一緒に鉄を打っていく。
その息の合った動きに、皆はもちろん俺も言葉を失った。
今日初めての共同作業とは、とても思えない。
ジャックが合わせていることを考えても、それに応えるカイルの手際の良さはやはり神懸っている。
金づちを振る手に迷いというのが感じられない。
しかも鉄を外すことなく打ち付け、鉄を綺麗に伸ばしている。
【神工】の効果はそれだけ凄まじいということか。
やがてジャックは俺を一瞥し、呟いた。
「確かに……確かに、すぐに助けになる男じゃ。こやつなら教えるのも無駄にならないだろう」
「よかった。他にも、助けになってくれそうな人を探してきます」
「ふむ……期待してもよさそうじゃな。カイルよ、ワシのやることをよく聞くのじゃ」
ジャックの声にカイルは力強く頷いた。
「よろしくおねがいします、ジャックさん!」
その様子を見ていたアルネは、口をポカンとさせながら俺に視線を送る。
「で、殿下は、神の眼をお持ちなのですのか? 私といい、どうしてカイルの才能を?」
俺のスキルは【神眼】……たしかに神の眼だな。
とはいえ、皆にユニークスキルがあって、俺にはそれを見極めるスキルがある。なんて言っても信じてくれるとは思えない。
それを聞いていたフリッツが言う。
「勘、ですよ。殿下は勘が良いのです。勘だけは」
「……それじゃ、他は全然駄目みたいじゃないか」
「間違っておりますか?」
フリッツがにっこり言うので、俺はがくっと肩を落とす。
確かに剣も魔法も、何もかも俺は人に及ばない。まあ、もともと諦めているので、ノーダメージだが。
その声に、エルゼは少し怒る。
「フリッツさん、殿下に失礼ですよ! 殿下は……えっと……その、とてもお優しいのですから!」
エルゼ……俺は嬉しいよ。特技の話で優しいと言われると、なにか胸にずしんと来るものがあるが。
しかし、アルネが首を横に振る。
「殿下は人の上に立つお方。人を見出す力さえあれば、問題ないでしょう。これからもその慧眼、どうかこの地のために」
「ああ、アルネ。もちろんだ」
俺は総督府に戻り、今後について皆と協議することにした。




