21 なりふり構っていられませんでした!
「万歳! 帝国万歳!! 新たな総督リヒト皇子に万歳だ!!」
アーグの叫びに、周囲の者たちも歓声を上げる。
皆、久々の勝利に酔いしれているようだ。
「勝てた……とすると、ドラゴンを倒したという話は」
アルネは声を震わせながら、汗をぬぐうエルゼを見つめる。
先ほどアルネは、エルゼを見る俺たちを不思議そうに首を傾げていた。
エルゼが倒した、と納得しているのだろう。
俺はそんなアルネに声をかける。
「アルネ、負傷者はいないか?」
「え? ……あ、はい! 近づかれる前に倒せましたので! 恐らく誰も……皆、負傷者はいないか!?」
民兵たちは声を揃えて、大丈夫と答える。
「そうか、よかった……うん?」
アルネは、城壁から市外へと顔を向けた。
そこには大慌てで城門へ向かう馬車が。
食料の入った箱を積んでいる。農民の馬車のようだ。
「どこかに隠れていたのか……いや、あれは」
馬車には二人乗っていた。
しかし馬に鞭打つ男に、一人の男の子が力なく寄りかかっている。
「もしかして、怪我をしている? 皆、急ぐぞ!」
俺たちはすぐに階段を下り、城門へ向かう。
すでに馬車は到着しており、男が男の子を抱きかかえて泣き叫んでいた。
「お願いだ! 息子なんだ! 魔物に刺され、体が石のようになってきている! 誰か! 誰か助けてくれ!」
「せ、聖堂の坊さん呼んでくる!」
「待て! 聖堂にはもう誰も神官はいない!」
周囲の住民たちはどうすればいいのか分からない様子だった。
アルネも青ざめた顔で言う。
「な、なんということだ……この街にはもう、石化を治療できる者はいない……」
しかし、エルゼたちは男の子の元へ向かい、手をかざした。
三人とも石化を解く魔法を、フリッツより学んでいた。
だがさすがのエルゼも、聖魔法は人並み。彼女の魔力では治せなかった。
俺はすぐにリベルに言う。
「リベル! 馬を借りて、フリッツを呼んできてくれ! フリッツなら治せる!」
「かしこまりました! 誰か、馬を貸してくれ!」
リベルは街の人から馬を借りると、総督府へ向かった。
だが、アルネの顔は曇ったままだった。
「間に合うだろうか……ご主人、その子はいつ刺された!?」
「じゅ、十分ほど前です!」
「十分……」
アルネは肩を落とした。
ガーゴイルの毒は、十分もあれば全身に回る。
もう全体が石と化してもおかしくない。そうなれば最後、元には……
フリッツが到着する頃には、手遅れになっていると考えていいだろう。
残された道はひとつだった。
「アルネ……あの子に、聖魔法をかけてくれ」
「わ、私が? ですが、私は?」
能力を隠している余裕はない。俺は続ける。
「僕は魔法が達者じゃない……が、人を見る目はある、と思う。アルネの聖魔法なら治せるはずだ。呪文は知っているだろう?」
「知っています……しかし、私は本当に」
「頼む」
俺の言葉に、アルネはこくりと頷いた。
すぐに男の子に手をかざす。
「ピュリフィ……ケイション──なっ!?」
アルネは自分の手から漏れ出る光に驚愕する。
光は男の子の体を包み込むと、ぱっと弾けた。
灰色だった男の顔色は、血色を取り戻していった。
「……あれ、体が動く?」
男の子は目をぱちぱちとさせながら、そんなことを呟いた。
「ロベルト!! ……うう、よかった!」
男は息子を力強く抱きしめた。
周囲の者たちは安堵したような表情をすると、次にアルネを称賛した。
「よかった……しかし、私に魔法が使えるなんて……」
アルネはほっと息を吐いた後、自分の両手を不思議そうに見つめるのだった。




