17 到着しました!
鼻歌を響かせるアーグに、俺は言う。
「なんだか機嫌がよさそうだな、アーグ」
「それはそうですよ! あのドラゴンを見れば、領民は皆、勇気づけられるでしょうから! 魔物恐るるに足らずって!」
「そういうことか。確かにな」
強力な魔物と知られるドラゴンだ。
それを道すがら倒してきたとなれば、領民たちも驚くだろう。
しかし……
俺の胸中では、不安が募っていた。
というのも、街道沿いにはいくらか村があったのだが、どこも荒れ果て無人なのだ。
田畑は放棄され、囲いに家畜は見えない。
街道沿いでこうだ。
道を外れれば、もっと酷いだろう。
帝南関に逃げる人や、燃え落ちた家の前で途方に暮れる人もいた。
最初は食事を分けていたが、やがて多すぎて自前の食糧も尽きてしまった。
人々は食べる物に困っている……
他の生活必需品も当然不足しているはずだ。
レリウスが自滅したことで少しは統治が楽になると思ったが……これは厳しそうだな。
そんな不安を裏付けるように、俺の視界にはぼろぼろの城壁が見えてきた。
丘の下に広がる大都市……しかし、廃墟が多数目につく。
至るところから上がる煙は、住む人による生活の火なのだろう。まだ人は住んでいるようだ。
それにしては煙が多すぎるが。
「これは……ともかく、城門へ進もう」
やがて城門に近づくと、城壁の周辺で警備する兵たちが見えた。
お世辞にもいい装備とは言えない。
鎧を着ている者は少なく、ほとんどが普段着で雑多な武器を持っているだけだ。
城壁の上の見張りも皆、同じような格好だ。
前総督と一緒に、州の軍も全滅したという。
ここにいる兵たちは徴集兵ばかりと考えるのが普通だ。
彼らは俺たちに気が付くと、こちらへと向かってきた。
その中の、傷だらけの男が俺たちに頭を下げる。
「防衛隊長のイルクと申します。貴族の方々とお見受けしますが……」
一応皇子と報せる旗を掲げている。
だが、誰もそれが皇子のものであると理解できないようだ。
やはり農民出身の者たちなのだろう。
人によっては失礼と憤慨するかもしれないが、俺はそんなことで目くじらを立てたりしない。
俺はイルクに名乗る。
「僕は第十三皇子リヒトです。この地の新しい総督として赴任しました」
「皇子っ!? ……ははぁ!」
イルクはすぐに跪く。
周囲の者たちも同じように伏せるが、皆落ち込むような顔だった。
帝都の人々のように俺の評判を知っているわけじゃなさそうだ。
しかし、総督がこんな子供かと落胆しているのだ。
「イルクさん。現在この街を取り仕切っている者は誰でしょう?」
「はっ。現在、総督代行を務められておりますのは、前総督ギュンター閣下のご息女アルネ様でございます。今、お呼びいたします」
「いや、仕事もあるはず。僕から伺います。どちらに?」
「で、殿下が直々にですか……えっと、今は……どこだったか?」
イルクは他の隊員に訊ねる。
すると一人が、聖堂ですと言う。
「そうか。殿下……城門をくぐりますとまっすぐ大通りが伸びております。その通りを行くと、総督府のある広場に出ます。聖堂はその広場にあり、アルネ様はそこにいらっしゃいますが……本当によろしいので?」
「どのみち総督府に向かいますから、お気になさらず。それより、今後ともよろしくお願いします」
「え? はっ、ははあ」
イルクはすぐに他の兵たちと一緒に頭を下げた。
「よし、入城するぞ!」
俺の声に、皆城門をくぐる。
兵たちは頭を下げ、俺たちを見送る。
途中、「あんな子供が……」という声を聞こえてきた。
しかし、後ろの馬車にドラゴンが乗っているのを見て、兵たちはざわつくのだった。




