13 任地へ赴くことにしました!
「ということで、僕はリーベルン総督に任命された」
「あ、あの辺境の!?」
アーグは驚愕するような顔で言った。
リベルも口を開けて唖然としているが、エルゼはよくわからないといった顔だ。
フリッツに関しては特に驚く様子もなく、聞いていた。
俺は詳細を説明する。
「代官にはベーロン公爵の騎士レリウスが任命された。彼はもう任地に赴くらしいが、僕はどうするかと訊ねてきた」
リベルが言う。
「殿下。かの地は代々勇将が総督を務めてきた地域です。とても名誉なお役目かと存じます。ですが……まだ殿下はお若い。ここは……」
「代官に任せましょう! 直接、赴かれる必要はないはずです!」
アーグはリベルに同調するように、必死そうな顔でいった。
その言葉通り、その地の総督だからといって、必ず任地にいる必要はない。
多くの貴族がそうだが、部下に統治を任せ、自分は帝都で過ごす者も多い。そうでなくても、国家行事で帝都に滞在することは多々ある。
だが、領主にしろ総督にしろ、最初は必ず任地の民衆に顔を見せる。
これは慣例で、挨拶のようなものだ。
また、自分の領地が危機に陥っているのに、帝都でのほほんとしている者はいない。
貴族なら領地を失って収入源が絶えるだけでなく、爵位が有名無実となってしまう。
怠慢が知られれば皇帝から爵位の没収もあり得るのだ。
何より、土地を失った家という烙印が、末代までついて回る。
総督も同じ。
領地を失ったと知られれば、失敗した皇子として名が知られる。
過去、任された地が魔物によって占領された第一皇子が、廃嫡された例もある。
だから、まずは行かざるを得ない……いや、僕の名誉は二の次だ。
前の総督が死んで、現地の民衆は混乱しているはずだ。
僕が行くことで、さらに失望する可能性もあり得る。
無能の皇子が来た。
皇帝は我らを見捨てたのだと。
レリウス代官がどんな男かによっては、任せるのも視野に入れるべきか。
俺はもともとグロンに近しかったアーグに訊ねる。
「アーグ……レリウスがどんな男か知っているか?」
「れ、レリウスですか……彼はもともと、亜人の奴隷貿易で財を成した帝都の商人の子です。ベーロン公爵領の奴隷貿易は、彼に一任されていて……騎士の身分も金で買ったとか」
「商売上手だと……だが、政治の経験はゼロか」
彼のユニークスキルを見たが、【弁術士】。
商人の子だけあって、交渉が上手いのだろう。
民衆に何かを訴える力はありそうだが……
ベーロン公爵が彼を代官にした理由がいまいち分からない。
また、金のあるレリウスが辺境に行きたがるだろうか。
彼はまったく絶望している顔ではなかった。
俺を失墜させるという目的の他に、まだ何かありそうだな……金とか。
もともと辺境は、豊かな地域で仕事に就けなかった者が向かう場所だ。
また、エルゼのような亜人が流されることも多い。
奴隷商が亜人の多い辺境の代官に……あやしい匂いが、ぷんぷんするぞ。
この国では奴隷貿易は合法だ。
もちろん奴隷だからと何をしてもいいわけではない。傷を付けてはいけないなど、衣食住を与えるなどの法律もある。
しかし奴隷商や奴隷の主人はそんなこと守らない。酷使することや稼ぐことしか頭にないのだ。
俺だけ終わるならまだしも、そこに住んでいる人々が食い物にされるのは許せないな。
──俺が止めなければ。
「皆、聞いてくれ……俺はリーベルンに赴こうと思う」
「ほ、本気で仰っているのですか!?」
アーグはたまらずそう聞き返してきた。
俺は頷く。
「本気だ。だが、皆には強制しない。かの地は先月、総督率いる州軍が全滅……文字通り、一人残らず魔物に殺された地域だ。到着するのも分からない危険な旅になるだろう」
フリッツはともかく、エルゼ、リベル、アーグはまだ子供だ。危険な目に遭わせたくない。
いや、俺も子供だが……
しかしエルゼは迷いのない顔で言った。
「私はお供いたします。殿下のお傍以外、私の居場所はありません」
その言葉に、リベルははっとした顔をする。
「わ、私も! 騎士として、殿下にお仕えすると誓ったのです! 私もお供いたします!!」
即答できないのは、アーグだ。
俺は助け船を出す。
「リベルとアーグは、父の許可も必要だろう。ここですぐに決断してもらわなくてもいい」
「私はお留守、というわけにはいかないのですかね?」
フリッツはおどけた調子で言った。
本当に行きたくない……のかもしれないが、これはアーグが断りやすいようにしているのだろう。
「い、いやいや! フリッツ先生は絶対来てもらいますよ!」
リベルが慌てた様子で訴えた。フリッツは「えー」と面倒くさそうに言うだけだ。
そんな中、アーグは決心したような顔で口を開く。
「殿下……私もご一緒させてください! この命、殿下に救っていただいたのです。ここで逃げては、私はもう男ではない!」
リベルはよく言ったと言わんばかりに、アーグの背中を叩いた。
フリッツもそれに続くように呟く。
「ふむ。教え子が皆行くと言っているのに、私だけ残るわけには行きませんね。私も行きます」
「皆、すまない……ありがとう」
こうして俺たちは、辺境の地リーベルン属州に赴くことになった。




