12 辺境の地を任されました!
「リヒト第十三皇子殿下、ご入来!!」
皇帝の間で、侍従の声が響いた。
俺は入り口で一礼し、紫色の絨毯の上を進んでいく。
両脇には、柱と微動だにしない近衛兵が並び、なんとも重々しい雰囲気だ。
その向こうには、皇族と貴族が立ち並んでいる。
皆、俺を無能の皇子とひそひそ話しているようだ。
玉座のあるひな壇を前に、俺は跪く。
「第十三皇子リヒト、陛下に拝謁いたします」
俺は帝国の儀礼に則り、一度頭を下げ、顔を上げた。
そこには帝冠を被り玉座に腰掛ける男が。
彼がヴュライゼン帝国の第百八代皇帝、ベレンガル三世だ。
長い白髪を伸ばし、顔の表情ははっきりと捉えることはできない。
しかし俺に興味がないのか、視線は明後日の方向にあった。
その隣では、見慣れぬ壮年の男が……
彼は宰相か?
だが俺の知っている宰相は、アーツマス公爵だったはず。
そういえば一週間ほど前、アーツマス公爵は老齢のため宰相辞任を申し出たのだった。
では、彼は新たな宰相か……まだ誰かは公表されてなかったな。
俺は男の服に刻まれた紋章を見る。
剣を十字に見立てた紋章……ベーロン公爵!?
彼は俺を妨害し続けたグロンの父だ。
呼び出されたのは、やはり良いことではなさそうだな。
ベーロン公爵は、皇帝の代わりに声を発した。
「第十三皇子リヒトを、リーベルン総督に命ずる」
俺が驚くよりも早く、周囲がざわついた。
「リーベルン属州……先月、総督が戦死したと聞いていたが」
「もともと支配が及んでいないと聞いていたが、後任が彼とは……つまりかの地はもう」
貴族たちは何だか、納得したような様子だ。
リーベルン属州は、南東にある辺境の地だ。
もともと帝国の国境というのは、建国から千年大きな変動はなかった。
国境には長城が設けられ、その外に住む魔物の侵略を防いでいた。
しかし三百年前、第百代皇帝リーベルンの時代に、帝国は南東へと領土を広げる。
帝国が安定していた時期であり、皇帝直轄領が減っていた。
貴族を増やしすぎ、土地を分配できなくなったのである。
リーベルンは軍を南東の地に派遣、魔物を駆除する。そこに人間を入植させ、直轄地としたのだ。
帝国では、リーベルン一世による南東征伐として知られている出来事だ。
このとき得た地は南東六州と呼ばれている。
その中心は、第百代皇帝リーベルン一世の名を冠した、リーベルン属州だった。
「リーベルンは南東六州最後の地だが……陛下は決心なされたか」
ある貴族はそう呟いた。
六州で帝国の支配下にあるのは、もうリーベルン属州だけ。
しかも支配下にあると言っても、その土地の半分は魔物に奪われたと聞く。
そもそも長城内にも、魔物がすでに進出してきている。もはやリーベルンは飛び地といって差し支えない。
それでも今までは、軍で実績のある者がリーベルン総督になっていた。
一応保持するという意思表示だったのだろう……
だが、皇帝はもうリーベルンを放棄するのだと、貴族たちは判断したのだ。
まだ子供で、無能と名高い俺に任せるのだから。
リーベルンには価値なしと言っているようなものだ。
皇子が総督というのは別に珍しくない。
寵愛する妃との赤ん坊を任命する皇帝もいたという。
でもそれは安定した地域で、優秀な補佐を付けての話だ。
将来的に子を公爵にしたいなど、政治的な意図もある。
今回のは捨て駒だ。
グロンが父ベーロン公爵に、俺を辺境に送るよう仕向けたのかもしれない。
だが、俺に拒否権はないのだ。
感情を押し殺し、ははあと冷たい大理石の床に額を付けた。
ベーロン公爵は冷淡な声で言う。
「あなたはまだ幼い。ついては殿下の補佐のため、我が騎士レリウスを代官といたします」
その声に、肥満の中年男性が俺の隣で頭を下げた。
こうして俺は、八歳にして辺境の領主となるのだった。




