10 騎士を増やしました!
グロンが去るのを見て、俺は大きな溜息を吐いた。
「……フリッツ。知っていたのか?」
「ええ。エルゼには絶対当たらないので、あのように勧めたのです。前々から彼の弓の実力も把握しておりましたので」
フリッツは自信満々な顔で言った。
少しもこの結果を疑ってなかったようである。
エルゼの対戦相手であるアーグは、何度かこの訓練場に顔を出していた。
フリッツはそれも見て対戦を勧めたのだろう。
弓に絶対の自信があるフリッツだから、俺も許可したが……これからはより一層慎重にならなければ。
グロンは、これでしばらく静かにしてくれるとは思えない。
本当の矢を使わなかったことから、エルゼを殺すつもりはなかったのだろう。
でも、当たり所が悪ければ、どうなっていたか分からない。
一方で矢じりは付いてないから、矢が折れてしまってとかいくらでも言い訳できたわけだ。
本当に姑息だ。
嫌がらせがますますエスカレートする可能性もあるな……
そんなとき、エルゼが帰ってくる。
「殿下。出過ぎた真似をお許しください」
「いや、おかげでグロンは去った。君の弓を見たんじゃ、簡単には手出しできないと思うだろう。エルゼのおかげだよ」
「あ、ありがとうございます! 私、もっと殿下のお役に立ちたいです!」
「あ、ありがとう……お礼を言うのは、僕のほうだ。うん?」
俺の前に、貴族の男の子がやってくる。
壺を割ったと難癖をつけられたリベルだ。
リベルは目を輝かせながら、俺に跪いた。
「殿下、エルゼ殿……この度は、まことにありがとうございました」
そういって、リベルは俺とエルゼに頭を下げた。
「……この御恩、このリベル・コルド一生忘れません。願わくは、殿下に忠節を尽くしたく存じます」
「お、俺にか? 俺はリヒト。第十三皇子だぞ?」
「存じております。失礼ながら、最初は偏見を持っておりました……ですが、あなたは父の語る古の賢帝そのもの!」
この帝国では初代皇帝を神君と呼び、中興の祖たる六十六代皇帝を賢帝と呼ぶ。
二人の治世は、帝国が最も栄えていた時代として広く語り継がれている。
「か、買い被りすぎじゃないかな……まあでも、俺は嬉しい。こっちはいつでも、騎士として迎えるよ」
「ありがとうございます! であれば、まずは私もあの方に弓の指導を!」
「いいんじゃないかな……でも」
俺は、思わずリベルのユニークスキルを見て、そう言いかけてしまった。
【牧童】か……家畜の扱いが上達し、動物に懐かれやすくなるスキル。
貴族には似合わないように思えるが、馬術にも強力なバフがある。しかも馬に懐かれやすいので、すぐに上達するはずだ。
リベルは首を傾げる。
「でも?」
「あ、うん……君は、馬の扱いが上手いんじゃないかなって」
「馬、ですか? 馬はまだ父に早いと言われておりましたが……」
「早くから鍛えておいて損はないと思う。馬術は貴族の嗜みだ」
「はっ! そこまで殿下が仰るなら、馬術の訓練をいたします!」
「そうか。弓のほうももちろん、頑張ってくれ」
「はい!」
リベルは俺の仲間なってくれそうだ。
まあ、俺の騎士になるなんて親が反対する可能性が大きいか……
いや、リベルの父コルド伯爵は、皇帝への忠義篤い人物として有名だ。彼もその影響を受けているのかもしれない。
いずれにせよ、こちらは来るもの拒まず、去る者追わずだ。
「よろしくな、リベル」
「はっ! 必ずや殿下をお守りすると誓います!」
リベルは跪き、頷く。
その後方で、遠くで床に額を擦り付けている者も。
試合に負けたアーグだ。
助けられたと感謝しているのだろうか。
涙をぼろぼろと流している。
【弓聖】という立派なスキルを持っているが、危険な矢を使ったこと、また衆目の前であのような失態を晒した……彼の未来は明るくないだろう。
上位の【弓神】を持つ皇族や貴族もいる。
彼は別に、特別というわけじゃないのだ。
家はフロイセン伯爵だったか。そこの六男だったと聞くが、そこまで裕福な貴族でもない。
【弓聖】のおかげで人より弓術の上達が早いことが、彼を天狗にしてしまったのかもしれないな……
まあでも……人の弱みに付け込むようで気乗りはしないが……
これは、恩を売るチャンスだ!
俺はアーグに歩み寄り、仰々しく手を差し出す。
「アーグ。僕は大事にするつもりはない。帝国は、お前の弓の才を求めている。帝国のため、これからもその才、活かしてほしい」
「私のような……私のような卑怯者に……殿下……殿下ぁっ!」
アーグは号泣してしまうのだった。
その後、アーグはリベルと共に、フリッツに弓を教わることとなった。




