1 無能でした!
目を開けると、美しいブロンドヘアーの女性が微笑んでいた。
「リヒト……リヒト、ふふ」
えっ……誰?
俺には絶対縁のなさそうな美女なんですけど。
とっさに周囲を見渡す。
そこには煌びやかな服に身を包んだ人々がおり、部屋には宝石をあしらった華美な調度品が並べられている。
なんだ? ドラマの撮影かな?
コスプレ会場にしては……服も家具も力が入りすぎているよな。それに皆、日本人じゃなさそうだ。
困惑していると、突如立派な髭のおっさんが未知の言語で叫んだ。
「(第十三皇子リヒト殿下! ご誕生おめでとうございます! 万歳!)」
その声を皮切りに、部屋の内外から歓声が響くのだった。
それから二年、赤ん坊として暮らしていると、だいたいこの世界のことがわかってきた。
どうやら、俺は転生したらしい。
地球ではなく別の惑星、あるいは異世界とやらに。
いや、異世界なのだろう。
メイドが何の道具もなしに、指先に火を灯したのを見た。風を起こし、部屋の埃を払うのも。その際何か呪文のようなものを唱えていたし、ゲームでよく見る”魔法”なのは間違いない。
しかも、日本人としての記憶を持ったままの転生。
おまけに転生先が、この世界の覇権国家ヴュライゼン帝国の第十三皇子ときた。
下流サラリーマンとして毎日ぎりぎりの生活を送っていた前世を考えれば、随分な出世じゃなかろうか。
死亡原因はおそらく過労死。
前世の記憶は、終電に駆け込み猛烈な眠気に襲われたところで絶えている。
死にたくはなかったが……この世界なら悠々自適に暮らせるだろう──
そう思ったのも束の間、わずか三歳にして一日中文字や歴史について学ばされ、五歳からは剣技と魔法のスパルタ教育を受けることになった。
どうもこの世界の皇族と貴族は、ノブレス・オブリージュ──
民の模範となるべく、民より一際優れた人物にならないといけないらしい。
そういう世界なら仕方ない。
俺は頑張った。
前世は幸せとは言い難かった。
それは努力を怠ったこともあるだろう。
だから今世では頑張って幸せになるんだと。
それから七歳になった今──俺はどうも無能らしい。
言葉や文字、歴史こそ割と簡単に覚えられたが、剣は少年兵並み、魔法は全く使えない。
そんな俺を見て、宮廷の者たちは帝国史上一番の無能と評した。
いや、俺まだ七歳なんですが……
皆、無能と呼ぶには早すぎませんかね?
でも、この国の皇族や貴族と比べると、確かに俺は無能なのだろう。
五歳の弟が、魔法で自分の体より大きな火を起こすのを目にした。十歳の公爵令嬢が、屈強な中年の男を剣で圧倒するのも見た。皆、子供のときから何かしらの才能を見せるのだ。
魔法が使えない者も多いが、代わりに武器の扱いに長けていたりするので、無能とは呼ばれない。
皇族や貴族の先祖たちは皆有能で、その血を引き継いでいるのかもしれない。
じゃあ俺は、なんで無能なんだ……全く手は抜いてないのに。
「まずい……まずいぞ」
俺は一人、誰もいない豪華な部屋で頭を抱えていた。
「このままじゃ、お先真っ暗だ……」
この国の皇族は、能力に応じて役職や領地を授かる。優れた者は、いい役職や領地をもらえるのだ。
過去、俺ほど無能でない者の例だが、辺境に飛ばされたやつもいるらしい。辺境は常に魔物との戦が絶えず、そこで死んだとか……
もっと状況が悪いのは、俺に友人がいないことだ。
帝国史上最も無能な皇子に近寄る貴族の子など、誰もいない。親が関わるなと念を押しているのだろう。
皇子ともなれば多くの側近を抱えるのが普通だ。
優秀な皇子の元には、多くの人材が集まってくる。
というよりは、こっちの人材のほうが死活問題だ。
指揮官となる皇子が前線で戦うことは珍しい。
戦闘も内政も、部下がほとんど実務をこなす。
その部下が集まらないのでは……
「俺に魅力がないなら、金で……だけど金もない」
簡単な物なら使用人が買ってきてくれるだろう。
でも、まだ子供なのでお金はさすがにもらえない。
しかも皇帝は百人を超える皇族に自立を促しており、わがままを言える雰囲気じゃないのだ。
「自分で稼ぐしかないか……でも、俺には何の力も」
魔法が使えれば、日本の知識を活かすことができたかもしれない。でも、魔法は全く使えない。
「弱ったな……」
自分の無力さが憎い……俺に何か力があれば。
そう強く念じ、俺はぎゅっと拳を握った。
「ん? なんだ?」
俺は自分の手の甲に、うっすらと光る紋様に気が付く。
外から光が差しているのだろうか?
いやそんな光じゃない。手を動かしても、光はそのままだ。
「ど、どういうことだ? 人の目のような模様だけど……え?」
模様の近くに、文字が浮かんだ。
『【神眼】──他者のユニークスキルを見抜く紋章』
俺も何かしらの力を持っていたようだ。




