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チキン南蛮ブログ  作者: 吉岡果音
第二章 光と影
8/10

 険しい岩山の上を飛んでいた。いつのまにか、空は黒い雲に覆われていた。


 ――だいぶ遠くまできたなあ。空模様も怪しくなってきた。


 ソラはゆっくりと下降していた。少しずつ地面が近くなってきた。


「あれ。もしかして目的地に着くのか?」


 ソラは静かに大きな岩の上に降り立った。

 辺りは枯れ木と岩だらけだった。今までの色鮮やかで生命力に満ち溢れた景色とはまるで違っていた。


「ここは……、いったい……」


「……『影』の影響で荒れ果ててしまったんです」


「『影』?」


「ここも、少し前までは豊穣な土地だったんです」


「『影』ってなんなんだ?」


 少しだけ、沈黙が流れた。冷たく湿った風が吹いた。


「……大地さん。アルデ様は『こちらの世界はあなたがたの世界の影響を受ける』、そうおっしゃっていましたよね?」


「うん。それって、どういうこと?」


「ソラは、あなたがたの放つ明るく前向きな想念により生まれたものなんです」


「え?」


 突然のイオの思いがけない言葉に大地は当惑する。


 ――「あなたがたの放つ明るく前向きな想念」? 「あなたがた」って……?  世界中の人々ってことか? それに、「想念によって生まれる」って、いったいどういうことなんだ?


「大地さんの生きている世界の常識からみると理解しがたいことだろうと思います。でもこちらの世界では、あなたがたの強い気持ちの集合体がこちらの世界に流れ込むと、時間をかけ、生物として実体化してしまうんです」


「そ、そんなばかな……!」


 ――俺たちの気持ちが生き物になるって!? そして、それがソラだっていうのか!?


「え!? それじゃ『影』っていうのは……」


「あなたがたの放つ暗く破壊的な負の想念です」


「負の想念!?」


「ええ。負の……。不安や恐れ、悲観的な気持ち、絶望……。それらネガティブなエネルギーが集合して生まれた生物です」


 ――明るく創造的な気持ちがソラになったということは……。破壊的な想念が形作る生物って……。


 人間の負の想念の塊の生物――大地は想像して恐ろしくなった。


「大地さん。私たちが大地さんにお願いしたいのは、あなたがたの負の想念によって生まれてしまった生物、『影』を正しいエネルギーに変換していただきたいということなんです」


「な、なんだって!?」


 ――退治とかじゃなくて『変換』!? てゆーか退治だって俺にはできるわけないだろうけど……。『変換』ってなんなんだ!?


 負の想念によって誕生した怪物を退治する、できるできないは別として、それだったら大地にも話として理解できる。エネルギーを変換、とはどういうことなのか、大地には見当もつかなかった。


「『エネルギーの変換』ってなんなんだ?」


「ソラが卵の状態から誕生できたのは、大地さんが卵に触れることにより卵の内部でエネルギーの変換が起こったからなんです」


「へええ!? つまりそれは、化学反応が起こったっていうような感じか?」


「はい。それはとてつもない大きな変化です」


「でもまてよ。ソラは俺が触れたことで誕生したっていうけど、じゃあ『影』はどうやって生まれたんだ? 『影』はソラと同じような存在なんだろ?」


「『影』はとても強力なエネルギー体です。卵の状態から破壊的なエネルギーを外部に放出し続け、私たちの負の想念も取り込み、時が満ちると自らの力で誕生してしまうのです」


「そ……、そんな……!」


「負のエネルギーから生まれた『影』は破壊を糧として生きていきます。土地を荒廃させ、人や生き物の命を飲み込んでいきます」


 ――俺たちのネガティブな想いが、そんな恐ろしいことになるなんて……!


「アルデ様のお屋敷で紫の石が割れたのは、あれは『影』の誕生を知らせるしるしでした。『影』はもう誕生してしまいました」


「あ! あの石が割れたのはそういうことだったのか……! それにしても……、アルデバランはすごい魔女なんだろう? アルデバランの魔力とかでなんとかできないのか?」


「アルデ様のお力で、ある程度『影』の影響を抑えることはできます。でも、根本的な解決をするためには、あなたがたのお力をお借りするしかないんです」


「……俺たちの想念から生まれたものだから……、か?」


「はい。今、アルデ様はお屋敷で私たちを遠隔サポートしてくださっています。それは、集中できる場所と道具が必要な強力な魔術です。とても精神力、体力を必要とする危険な術です」


「危険な術……」


 ドオーン!


 轟音。そして振動。


「なっ!? なんだっ!?」


「『影』です……! 『影』が動き出しているんです」


「すぐ近くにいるのか!?」


「大地さん、アルデ様より託された石を握っていてください!」


 大地はすぐにポケットに手を入れ、アルデバランより渡された石を握りしめた。


「あれっ!? あったかい……!」


 ハート型の石は熱を帯び、ぼんやりと光を放っていた。

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